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セルドリア帝国


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セルドリア帝国概要


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セルドリア帝国は、中央大陸ルガトリアの東部から南部沿岸にかけて広大な領土を持つ君主制国家である。首都はリューベル。人口は約一億二千万。帝国公用語はセルドリア語だが、辺境州では旧王国語、鉱山都市語、北方騎馬民の諸方言も使われる。


帝国は世界六大陸のうち、中央大陸ルガトリアにおいて最大の領土、最大の人口、最大の工業生産力を持つ。ただし、大陸全土を完全支配しているわけではない。ルガトリアには複数の王国、都市国家、連邦、宗教領、山岳公領が存在し、セルドリア帝国はそれらの中で最も強い国家である。


帝国の強さは、単なる軍事力だけではない。


鉄道網、造船所、鉱山、製薬工場、魔導通信塔、徴税制度、戸籍制度、国家銀行、軍用学校、官僚養成機関を一体化させている点にある。帝国は人間、土地、鉱石、作物、兵士、技術、情報を数字として把握し、それを中央から動かすことに長けている。


辺境の村で生まれた子どもであっても、戸籍に登録され、適性検査を受け、税や兵役や労働動員の対象となる。鉱山で採れた鉄鉱石は鉄道で工業都市へ運ばれ、兵器となり、港へ運ばれ、艦隊へ積まれる。大学で発見された魔導理論は学術院に回収され、標準化され、軍務院や工業院へ渡される。


セルドリア帝国とは、巨大な国家機械である。


その頂点に立つのが皇帝である。




■ 皇帝と皇帝官邸


セルドリア帝国の皇帝は、世襲によって即位する。皇位はセルドリア皇統に属する者の中から選ばれ、貴族院の承認、七院長官の宣誓、近衛軍総司令官の忠誠確認を経て正式に成立する。


皇帝の権力は絶対的である。


皇帝は法律を公布し、軍の最高指揮権を持ち、七院長官を任免し、国家非常令を発布し、爵位を授与し、領地を没収し、死刑を赦免し、戦争と講和を決定できる。


しかし、皇帝があらゆる事務を一人で処理しているわけではない。


帝国政府は七院によって運営される。七院はそれぞれ独自の官僚組織、予算、人事権、地方出先機関を持ち、国家運営を分担している。皇帝官邸はその上位に置かれ、七院の対立を調整し、重要案件を皇帝名で承認する。


皇帝官邸は、宮殿ではなく政治機関である。


首都リューベル中心部にある黒石造りの官邸には、皇帝執務室、内廷書記局、機密文書庫、緊急軍議室、七院連絡室、暗号通信室、皇室財産管理局が置かれている。官邸に勤務する官僚は、七院出身者とは別に選抜される。彼らは皇帝直属官僚と呼ばれ、七院よりも官邸への忠誠を優先する。


皇帝官邸の基本的な役割は、七院を競わせ、均衡を保つことである。


軍務院が予算を求めれば、財務院が反対する。学術院が研究の自由を主張すれば、官房院が検閲と監視を求める。工業院が都市労働者を増やそうとすれば、貴族院が農村人口の流出に反発する。法務院が政治犯の摘発を進めれば、官房院は情報収集権を奪われることを警戒する。


皇帝官邸は、この対立を完全には消さない。


むしろ、対立があるからこそ、どの院も単独で国家を支配できない。皇帝はそれぞれの院に恩恵と不満を与え、互いに牽制させながら最終決裁権を保持する。


帝国政治の本質は、皇帝独裁と官僚競争の組み合わせである。




■ 七院制度


【官房院】


官房院は行政全般、検閲、戸籍、警察、地方総督任命、国内通信監視を扱う。


帝国内の住民は、出生、死亡、婚姻、転居、職業、兵役歴、犯罪歴、魔導適性、納税状況を官房院の戸籍台帳に登録される。台帳は各州都に保管され、首都の中央台帳局へ写しが送られる。


官房院は帝国の目であり耳である。


地方新聞、劇場、出版物、講義録、宗教説教、商会通信、鉄道駅の掲示文に至るまで検閲対象となる。表向きには国家安全と治安維持のためとされるが、実際には反帝国思想、労働争議、貴族反乱、軍内部の不満、研究施設の噂を抑える目的が大きい。


官房院警察は通常警察と政治警察に分かれる。通常警察は窃盗、殺人、暴動、密輸を扱う。政治警察は反乱、禁書、外国諜報、脱走兵、研究機密漏洩を扱う。


ラザリオに関しては、官房院は被験体候補の戸籍抹消、家族への死亡通知、移送記録の偽装、施設職員の身辺調査を担う。


【軍務院】


軍務院は陸軍、海軍、航空騎兵、魔導兵団、兵站を管理する。


帝国陸軍は六大陸最大級の常備軍を持つ。歩兵、砲兵、装甲車隊、工兵、鉄道兵、魔導支援中隊によって構成される。辺境州では現地兵も編入される。


海軍は近年、急速に拡張された。セルドリア帝国は中央大陸東部と南部に長大な海岸線を持ち、海外植民地、資源航路、島嶼基地を守る必要があるためである。鋼鉄艦、魔導推進艦、潜水艇、遠洋補給船を運用する。


航空騎兵は飛行艇と翼竜騎兵を組み合わせた部隊であり、山岳地帯や島嶼戦で重視される。


魔導兵団は、魔力適性者を軍事利用する特殊部隊である。結界破砕、通信妨害、霊子観測、治癒補助、広域火力支援を行う。ラザリオの人工魔導兵研究は、この魔導兵団の損耗を補うために始まった。


軍務院は常にラザリオの成果を求めている。死なない兵士、命令に迷わない兵士、恐怖で崩れない兵士、敵国の結界を破る兵士。軍にとって、研究所の非人道性は問題ではなく、納期と実用性こそが問題である。


【財務院】


財務院は税、国債、軍需予算、鉱山利権、通貨発行を管理する。


帝国の通貨はセルト銀貨と中央紙幣である。大規模取引には帝国銀行券が使われ、軍需契約、鉱山権、鉄道建設には国債が発行される。


財務院は帝国内で最も冷淡な院と呼ばれる。彼らは兵士の勇敢さにも、研究者の情熱にも、貴族の名誉にも関心が薄い。重要なのは支出、回収、利率、徴税可能人口、輸出収支である。


財務院はラザリオを好んではいない。


ラザリオは莫大な費用を消費する。特殊金属、薬品、培養液、魔導鉱石、人工子宮、海上封鎖費、警備艦隊、職員手当、隠蔽費用、被験体移送費。通常の大学研究所とは桁が違う。


それでも財務院はラザリオ予算を止めない。


理由は、ラザリオの成果が軍事的損耗を減らし、戦争の長期費用を下げる可能性があるからである。兵士一人を育て、訓練し、前線へ送り、戦死後に遺族年金を払う費用は安くない。人工兵がそれを代替できるなら、財務院にとっても価値がある。


財務院は倫理ではなく採算で動く。


【法務院】


法務院は裁判、刑罰、特別法、政治犯収容、財産没収を扱う。


帝国法は厳格である。特に国家反逆、軍機漏洩、禁術使用、皇室侮辱、徴兵逃れ、通貨偽造には重罰が科される。


法務院は通常裁判所、軍事裁判所、特別保安裁判所を持つ。特別保安裁判所では、証拠非公開、弁護制限、即日判決が認められる。


ラザリオに送られる被験体の一部は、法務院の管理下にある死刑囚、政治犯、終身刑囚である。表向きには刑の執行、収容所移送、病死、事故死として処理される。


法務院は自らを合法性の守護者と考えている。


そのため、どれほど残酷な措置であっても、特別法と皇帝勅令に基づいていれば合法とみなす。ラザリオに関しても、法務院は違法行為を隠しているのではない。違法にならないよう、法律そのものを整えている。


【工業院】


工業院は鉄道、工場、造船、兵器生産、通信設備を管理する。


帝国の工業力は中央大陸随一である。北部炭鉱地帯、東部製鉄都市、南部造船港、西部機械工業区が鉄道で結ばれている。工業院は各地に国営工場を持ち、民間商会にも軍需契約を与える。


工業院は技術を好む。新しい炉、新しい合金、新しい機関、新しい通信線、新しい兵器。それらが国家を強くすると信じている。


ラザリオの地下施設、培養槽、霊子炉、魔導通信遮断壁、海底区画は工業院が建設に関与した。工業院の技術者たちは、自分たちが作った設備で何が行われているかを完全には知らされていない。だが一部の上級技師は知っている。


知ってなお、彼らは沈黙している。


ラザリオは帝国工業技術の実験場でもあるからである。


【学術院】


学術院は大学、研究所、魔導技術、医療教育、標準測定法を管轄する。


帝国の大学は自由な学問機関ではない。国家に必要な知識を育て、集め、分類し、利用するための機関である。優秀な学生は奨学金を与えられ、卒業後は軍、研究所、官庁、工場へ配属される。


学術院はラザリオの名目上の管轄院である。


ラザリオは帝国政府直属第七研究施設として登録されており、霊視工学、魂媒体保存、人工生命、魔導兵適性調整を扱う。学術院にとってラザリオは、誇りであり、恥部でもある。


ラザリオの成果は学術院の権威を高める。しかし、その方法が公になれば、学術院全体が国際的非難を受ける。そのため、学術院はラザリオを公式には称賛せず、内部では最重要研究拠点として扱う。


【貴族院】


貴族院は古くからの領主層を代表する機関であり、法律承認、皇位継承、地方特権に関与する。


セルドリア帝国は近代官僚国家でありながら、古い貴族制度を完全には捨てていない。辺境領、農村、山岳地帯では、今でも伯爵、公爵、辺境侯が大きな影響力を持つ。


貴族院は皇帝に従うが、官僚国家の拡大を警戒している。戸籍、徴税、鉄道、国営学校、軍用道路が地方へ広がるほど、貴族の独自支配は弱まる。


貴族院はラザリオを嫌っている者が多い。


理由は倫理ではない。ラザリオが皇帝官邸と七院に直結しており、貴族院の監視を受けにくいからである。さらに、人造兵や魂保存技術が完成すれば、古い血筋や家名の価値が揺らぐ可能性がある。


それでも貴族院は公然とは反対できない。帝国の戦争に勝つためには、ラザリオの成果が必要だからである。




■ 帝国本土と地方権力


セルドリア帝国の領土は、大きく七つの地方に分かれる。


首都圏リューベル州は政治と金融の中心である。皇帝官邸、七院本庁、帝国銀行、中央大学、近衛軍司令部が集中する。街路は石畳で整備され、官庁街には巨大な行政庁舎が並ぶ。


東部工業帯は帝国の心臓部である。製鉄、機械、銃砲、鉄道車両、通信機器、薬品工場が集中する。労働者人口が多く、工業院と労働組合、警察の緊張が常に続いている。


北部鉱山地帯は石炭、鉄、魔導鉱石、希少金属の産地である。鉱山貴族と国営鉱山公社が複雑に利権を分け合っている。事故が多く、労働環境は悪い。


西部穀倉地帯は帝国の食料庫である。古い大貴族領が多く、貴族院の影響が強い。農村では皇帝への忠誠心が高い一方、官房院の戸籍調査や徴兵には反発もある。


南部沿岸州は海軍基地と貿易港が並ぶ地域である。造船所、海軍兵学校、遠洋商会、外国人居留区がある。ラザリオへ向かう物資の多くは、南部沿岸州の軍港から秘密裏に積み出される。


東南辺境州は旧王国を併合した地域である。帝国支配への反発が根強く、反乱組織や外国工作員が活動している。官房院と軍務院の治安作戦が頻繁に行われる。


島嶼軍政区は、帝国本土から離れた島々と海上要塞を含む。ラザリオのある海域も、名目上はこの軍政区に含まれる。ただし、ラザリオだけは通常の軍政区司令部を通さず、皇帝官邸と七院の機密系統で運用される。


帝国本土には、帝国に従属しながらも大きな力を持つ権力国家がいくつも存在する。


北方のカレンド公国は、名目上は帝国臣従国だが、独自の騎兵軍と鉱山利権を持つ。公王家は皇帝に忠誠を誓っているものの、軍務院の直接支配を嫌う。


西部のモルゼン王国は、百年前に帝国へ敗北し、保護王国となった。王位は存続しているが、外交と軍事は帝国に握られている。貴族院にはモルゼン系大貴族も参加しており、帝国政治に一定の影響力を持つ。


南部のリスカード海商同盟は、都市国家連合として帝国と条約を結んでいる。表面上は自治を保つが、港湾税と海軍駐留権を帝国に渡している。帝国海軍にとって重要な補給拠点である。


東部山岳のゼノル辺境侯領は、険しい山地と要塞都市を持つ半独立領である。帝国軍の山岳部隊に多くの兵を出す代わりに、内政自治を認められている。


セルドリア帝国はこれらを直接飲み込まず、従属、保護、婚姻、債務、軍事協定によって支配している。




■ 六大陸と国際情勢


世界は六つの大陸に分かれている。


中央大陸ルガトリア。

北方大陸ネリオン。

東方大陸セイラン。

南方大陸タルミア。

西方大陸ローディカ。

遠洋大陸キルファス。


それぞれの大陸には異なる王権、政治制度、軍事文化があり、セルドリア帝国はそのすべてと関係を持っている。



【中央大陸ルガトリア】


ルガトリアは六大陸の中心に位置する最大の人口密集地である。古い王国、帝国、都市国家、公国がひしめき合い、戦争と同盟を繰り返してきた。


セルドリア帝国はこの大陸の東部から南部にかけて最大勢力を築いている。


大陸西部にはベルクライン連合王国がある。ベルクラインは複数の王家が議会を通じて連合した国家で、海軍力と金融力に優れる。セルドリアとは表向き平和条約を結んでいるが、植民地、通商権、海軍基地を巡って競争している。


大陸北西部にはホルスト王国がある。山岳と森林に囲まれた軍事国家で、精鋭歩兵と要塞戦に強い。ホルストはセルドリアを警戒し、ベルクラインと軍事協定を結んでいる。


大陸中央部にはセラント自由都市圏がある。複数の自治都市が商業同盟を組む地域で、銀行、大学、印刷業、傭兵市場が発達している。どの大国にも完全には従わず、情報と金で独立を守っている。


大陸南西部にはマグナール聖冠王国がある。王権と宗教権威が結びついた古い国家で、魂保存研究を強く非難している。マグナールはセルドリアのラザリオ計画を完全には知らないが、帝国が死者の人格を軍事利用しているとの噂を掴んでいる。


ルガトリア大陸の秩序は、セルドリア帝国、ベルクライン連合王国、ホルスト王国、マグナール聖冠王国、セラント自由都市圏の均衡で保たれている。


ただし、産業力と兵員動員力ではセルドリアが最も強い。



【北方大陸ネリオン】


ネリオンは寒冷な大陸であり、氷原、針葉樹林、鉱山、遊牧地帯が広がる。人口は少ないが、希少鉱石と大型魔獣資源が豊富である。


最大勢力はリンドルーク大公国である。大公家は古くから北方諸侯を束ね、重騎兵と魔獣狩猟部隊を持つ。リンドルークはセルドリアに鉱石を輸出する一方、帝国の影響拡大を警戒している。


東ネリオンにはソルケン汗国がある。騎馬民を中心とした広大な国家で、王権というより複数部族の盟主制に近い。汗は軍事遠征と戦利品分配によって権威を維持する。セルドリアとは国境を接していないが、中央大陸北部の小国を通じて間接的に衝突している。


西岸にはミルゼア港湾王国がある。小国ながら、北方航路の中継港を押さえる海運国家である。ベルクラインとの関係が深く、セルドリア海軍の北方進出を嫌っている。


ネリオン大陸は資源を巡る外交の舞台である。セルドリアは鉱石と魔獣素材を欲し、ベルクラインは航路を押さえたい。リンドルークは両者を競わせて利益を得ている。




■ 東方大陸セイラン


セイランは広大な河川平野、古い王朝都市、茶畑、絹織物、精密魔導具で知られる大陸である。人口は六大陸の中でも多い。


最大国家はコウレン皇朝である。皇帝を頂点とする官僚国家で、科挙に似た試験制度によって文官を登用する。セルドリアと同じく中央集権的だが、軍事よりも行政と農業生産の安定を重視する。


セイラン南部にはナンル商王国がある。商人階層が王権を支える海洋国家で、香辛料、薬草、宝石、医療魔導具の交易で栄えている。


内陸部にはテンザン諸王国が並ぶ。山岳都市ごとに王が存在し、複雑な婚姻と同盟で結ばれている。外部勢力が入り込みにくく、傭兵と薬草師が多い。


セルドリア帝国はセイランと直接戦争をしていない。だが、技術と医療分野で競争している。コウレン皇朝は魂保存研究を危険視しながらも、帝国の医療再生技術には強い関心を持つ。


セイラン諸国は表向き中立を保つが、セルドリア、ベルクライン、ローディカ諸国の使節が常に活動している。




■ 南方大陸タルミア


タルミアは赤土の高原、密林、大河、沿岸都市が広がる大陸である。鉱物資源、薬用植物、魔導獣、希少木材が豊富である。


北岸にはサルヴェン王国がある。古い王家が大河流域を支配し、農業と河川交易で栄えている。王権は強いが、地方部族長の影響も大きい。


東部密林地帯にはメルカタ諸邦がある。複数の小王国と部族国家が密集し、外部勢力の侵入を密林と病で阻んでいる。


南岸にはカルド商業共和国がある。選挙で選ばれる執政官が統治する海洋交易国家で、セルドリア、ベルクライン双方と取引する。利益を優先し、戦争では中立を売ることで生き残っている。


タルミアは列強の資源獲得競争の場である。


セルドリアは港湾租借地を持ち、鉄道建設権と鉱山採掘権を拡大している。ベルクラインは商館と海軍基地を増やしている。現地王権は両者を利用しつつも、債務と武器供与によって徐々に自立を失いつつある。


ラザリオで使われる特殊薬草や培養液の原料の一部は、タルミア産である。




■ 西方大陸ローディカ


ローディカは乾燥した内陸、古い城塞都市、牧畜地帯、沿岸王国を持つ大陸である。戦士貴族と商人都市の力が強い。


最大勢力はガルディナ王国である。王は複数の公爵家を束ねているが、中央集権は弱い。騎士階級が強く、名誉と家門を重視する。


北西岸にはペルシェ海上公国がある。小国ながら造船と海賊討伐で名高く、ベルクラインとセルドリアの双方に艦船技師を売り込んでいる。


内陸部にはドロメア遊牧王国があり、馬と弓を中心とした機動戦を得意とする。固定した首都を持たず、季節ごとに王庭が移動する。


ローディカではセルドリアの影響は限定的である。距離が遠く、ベルクライン海軍の妨害もあるためである。しかし近年、セルドリアはガルディナ王国の王位継承争いに資金を投じ、親帝国派の公爵を支援している。


ローディカが不安定になれば、ベルクラインの西方交易が乱れる。セルドリアはそれを狙っている。




■ 遠洋大陸キルファス


キルファスは六大陸の中で最も遠く、未調査地域が多い大陸である。巨大な内海、断崖都市、湿地、古代遺跡群、独自の魔導体系で知られる。


北岸にはトルメキア王権都市群がある。単一国家ではなく、複数の王都が同盟を結んだ都市連合である。それぞれの都市王は独自の軍と法律を持つが、外敵に対しては共同で防衛する。


内陸にはラフェル樹海王国がある。外部との接触を制限し、森林資源と薬術を守っている。交易は沿岸都市を通じてのみ行われる。


南部にはキルファス高原諸王が並び、金、宝石、魔導結晶の産地として知られる。


セルドリア帝国はキルファスに本格進出できていない。距離、疫病、海流、現地王権の抵抗が理由である。しかし学術院と工業院は、キルファス古代遺跡に強い関心を持っている。そこには既存の魔導理論では説明できない構造物が残されているためである。


ラザリオの霊子炉にも、キルファス産の結晶片が一部使われているとされる。




■ 国際関係と戦争の気配


現在の世界情勢は、全面戦争前夜に近い。


セルドリア帝国は中央大陸で最大勢力だが、周囲の国々は帝国の拡大を恐れている。ベルクライン連合王国は海軍力で帝国の海外進出を妨げ、ホルスト王国は北西国境に要塞線を築き、マグナール聖冠王国は思想面から帝国を批判する。


一方、セルドリア側から見れば、自国は包囲されている。


西はベルクラインとホルスト。南西はマグナール。海上ではベルクライン艦隊。北方資源はリンドルークに依存。南方資源はカルド商業共和国と現地王国の交渉次第。東方のコウレン皇朝は中立だが、帝国の研究を警戒している。


帝国政府は、将来の大戦を避けられないものと考えている。


そのため、軍務院は兵力増強を急ぐ。工業院は軍需工場を増やす。財務院は戦時国債を準備する。官房院は反戦運動を摘発する。法務院は特別法を整える。学術院は兵器と医療と魂保存の研究を進める。


ラザリオは、この緊張の中で生まれた。


平和な時代なら、ラザリオの存在は許されなかったかもしれない。だが、帝国上層部はすでに次の戦争を見ている。数十万の兵士が死に、都市が焼かれ、海上封鎖で食料が不足し、魔導兵が消耗する戦争である。


その戦争に勝つためなら、孤島の地下で何が行われていても目をつぶる。


これが帝国中枢の判断である。




■ ラザリオが止まらない理由


第七研究施設ラザリオは、名目上は学術院の特務研究機関である。


しかし、実際には七院すべてが関与している。


学術院は研究者と理論を提供する。

軍務院は警備、輸送、実験要件を提供する。

財務院は機密費と資材購入枠を提供する。

法務院は被験体の法的処理を行う。

官房院は戸籍抹消、情報統制、職員監視を行う。

工業院は設備建設、機械整備、特殊材料を提供する。

貴族院は表向き距離を置きながら、一部貴族家の病弱な後継者や戦死者の記憶保存を密かに依頼している。


つまり、ラザリオは一つの院の犯罪ではない。


帝国という制度全体が、少しずつ手を貸している。


誰かが廃止を求めても、別の誰かが止める。軍務院は人工魔導兵を失いたくない。財務院は投資済み予算を無駄にしたくない。学術院は研究成果を失いたくない。官房院は秘密漏洩を恐れる。法務院は過去の処理が明るみに出ることを恐れる。工業院は建設関与を隠したい。貴族院は自分たちの依頼記録を消したい。


ラザリオを壊すことは、研究所一つを閉鎖することではない。


帝国中枢の全員が、どこまで知っていたのかを問うことになる。


だからこそ、ラザリオ研究所内の研究や機関としての活動が停止することはない。




■ 帝国社会


帝国の都市では、表面上は秩序が保たれている。


鉄道は時刻通りに動き、街灯は魔導石で夜道を照らし、学校では皇帝への忠誠と算術と読み書きが教えられる。病院では学術院式の衛生法が導入され、乳児死亡率は下がっている。工場労働者は長時間働くが、賃金は農村より高い。農民は重税に苦しむが、飢饉時には国営倉庫から穀物が配給される。


帝国は完全な暗黒国家ではない。


道は整備され、治安は比較的良く、教育は広がり、技術は進歩している。地方の小国に比べれば、帝国臣民の生活は安定していることも多い。


だからこそ、帝国は支持される。


多くの臣民は、皇帝と国家を信じている。戦争は外敵から国を守るため。検閲は混乱を防ぐため。徴兵は義務。税は道路と学校と軍を支えるため。研究所は病気や戦傷者を救うため。


ラザリオの真実を知らない人々にとって、帝国は恐怖だけで成り立つ国ではない。


秩序と利益と誇りによって成り立つ国である。




■ 帝国の矛盾


セルドリア帝国は、法を重んじる。

同時に、必要なら特別法で人を消す。


帝国は教育を広げる。

同時に、危険な知識は検閲する。


帝国は医療を発展させる。

同時に、被験体を人間として扱わない。


帝国は家族を尊重すると説く。

同時に、戸籍を抹消して存在そのものを消す。


帝国は平和を望むと宣言する。

同時に、次の戦争のために人造兵を作る。


この矛盾は帝国の弱さではなく、帝国の構造そのものである。


セルドリア帝国は、文明と暴力を分けて考えない。鉄道も学校も病院も軍需工場も研究所も、すべて国家を強くする装置である。臣民を豊かにすることと臣民を管理することは、同じ政策の表と裏である。


ラザリオはその最も濃縮された場所である。


帝国が持つ技術、官僚制、軍事力、財政力、法制度、検閲、人材管理が、孤島の研究施設に集められている。


そこでは国家が一人の人間に何をしてよいのかという問いが、毎日、実験記録として処理されている。


そして首都リューベルの官邸では、その報告書に短い承認印が押される。


「継続」


その一語で、次の培養槽に灯りが入る。


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