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私たちは青春に飢えている  作者: おじぃ
動きだす恋愛模様

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14/32

恋、しちゃった

 私、恋、しちゃった……。


 話は4日前、12月27日の不入斗いりやまず競技場に遡る。


 鵠沼海岸学院高校2年、小日向つぐみ。運動は苦手だけど、体力づくりのために昨夏から陸上競技部に入部した。


 というのも、私はお盆と年末、都内の臨海副都心にある逆三角形の建物で開催される自主製作の漫画などをを頒布するイベントに買い手として参加するのだけれど、目当てのアイテムを入手するためには炎天下で1ヶ所あたり1時間ほど並ばなければならない。


 加えて移動は俊敏に、列への割り込みや走行は悪、歩行者の追い抜きは正義、売り切れ必至の会場ではそれをクリアできる者ほど欲しいアイテムを入手しやすい。


 しかも会場は体内の水分とともに魂まで吸い上げられそうな酷暑で、体力がないと惨事になると思った次第。戦場を生き抜くには体力と敏捷性びんしょうせいが必須なのだ。


 鵠沼海岸学院陸上競技部では小学校からの同級生、種差陸くんが長を務めていて、部は運動部の激しくイケイケドンドンなイメージとは相反して和気藹々、朗らかな雰囲気で居心地が良く、入って良かったと心から思えるクラブ。


 おかげで少しずつだけど脚が速くなってきて、手脚をバタバタさせる女の子走りが改善され、整ったフォームで走れるようになってきた。


 フォームが変わると、世界が変わる。


 というと大袈裟だけど、トロい私が少しスマートに動けるようになった。


 例えば街を歩いているとき、以前は他の人にどんどん追い抜かれていたのだけれど、いまでは逆に自分が他の人を追い抜くことが多くなった。


 俊敏な沙希ちゃんやまどかちゃんに歩くペースを合わせてもらう必要もなくなったし、駅の階段を上がるとき、もう無理だと諦めて乗り遅れていた電車にも、入線する前にホームに降り立ち余裕で乗れるようになった。しかも階段から離れた比較的空いている車両に。


 こんなふうに、陸上競技は日々を軽やかで爽やかにしてくれた。のろまコンプレックスの自分が自信を持てるようになった。それは本当に魔法のようで、姿勢や動きを変えるだけで、地球の重力はこんなにも弱く感じられるのだと、もう感激!


 たった半年弱でこれだけの成果が上げられたのだから、我ながら大したものだと思う。


 でも、楽しいばかりじゃなかった。


 入部前の私は、時間が取れると近所の緑地で野生のシジュウカラを肩に乗せ、木漏れ日を浴びながら読書をし、家で勉強をして、週末は近所のショッピングモールに出かけ、夜遅くにアニメを見る、スポーツとは無縁の暮らしをしていた。


 それが一変、この半年弱は血を吐きそうなほどの努力を余儀なくされた。


 まずウォーミングアップ。沙希ちゃんが中学時代から物凄くしんどいと言っていた理由がよくわかった。


 校庭3周。そう言われるとどれだけの距離を走るのか、いまいちピンとこなかった。後に聞けば千メートル弱という。


 それ、茅ヶ崎駅から北茅ヶ崎駅くらいあるよ!? 一駅分も走るの!? えーもうやだ帰りたいよぉ。


 そう部活の度に憂鬱になりながらも、私は逃げなかった。


 高湿度の真夏の夕方、気温は30℃を超えていて、出だしから全身汗だく、おまけに他の部員が走る速さは、とても私が付いてゆけるものではなかった。それだけで強い劣等感と足手まといになっている罪悪感に支配され、精神的にも重圧がかかる。


 それでもみんなイヤな顔一つせず、種差くんを中心に、それぞれ自分の練習メニューがある中、迷惑をかけているだけの私に丁寧な指導をしてくれた。


 みんなには感謝の気持ちしかなく、せめてもの恩返しとして土休日の練習や大会、記録会の日は薄くスライスしたレモンのはちみつ漬けを密閉性の高いタッパーに入れて持参するようにした。幸いはちみつアレルギーの部員はなく、みんな喜んで食べてくれた。


 そんな温かいチームだから、私は今日まで陸上を続けられている。


 そして12月27日、私みたいな地味でトロい、世間一般のJKとは掛け離れた私に、更なる転機が訪れたのだ。


 そう、恋が始まったのだ。


 お読みいただき誠にありがとうございます。


 本日は今朝と今回で2回に分けての更新となりました。

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