正木君は、サンライズがダンジョン調査に行くと知る。
…時は少しだけ遡る。
日曜日になった。
今日は、ジャスティスのメンバーと、ダンジョン探索だ。
探索者協会の到着した僕達は、男女に別れてロッカールームに入る。
ロッカーから装備を取り出し、着替えるのだ。
ダッシュで着替えた僕は、一人でトイレに向かう。
そして鏡を見る。
うん。
完璧だ!
僕の地毛と良く似た色のカツラをオーダーメイドしていた。
自宅を出発前に、やっと届いたのだ!
ふふふ。
やはり既製品とは違うな。
僕には宝くじの当選金がある!
資金力が物を言うな。
うふふ。
これで、誰もカツラだと気付かないだろう。
そして僕は、カツラじゃ無い!と言い張る事にした。
人の噂も七十五日って言うしな…
そのうち、僕のカツラの噂話も消えて無くなるだろう。
それまでの辛抱だ。
誰から何を言われても、カツラじゃ無いと言い張る事にした。
僕は心の中で誓う。
トイレを出た僕は、ロッカールームに戻る。
孝之が工藤の兄貴の甲冑を着ける手伝いをしていた。
僕が椅子に座り、工藤の兄貴の準備が終わるのを待っていると、探索者達の話し声が聞こえてきた。
「山並さん。髭はどうしたんですか?」
「ああ、これな。幼稚園に通う一人娘が“パパのお髭が痛い!”って言ってな…頬擦りさせてくれないんだ」
「脱毛サロンに行ったんだけど…おれは剛毛でな、上手く脱毛出来なくて困ってたんだ…」
「そんな時、カッパの勇者の話を聞いてピンときたんだ!スライムを使って、毛根を溶かして貰おうってな!」
「それで、そんなにツルツルになったんですか?」
「ああ、そうよ!カッパの勇者のお陰でツルツルよ!娘からも“パパすべすべ”って言われてよ!やっと頬擦りさせて貰ったんだ!」
…何がカッパの勇者だ!
ふざけやがって!
スライムを使って脱毛するなんて、馬鹿じゃないのか?
誰に何を言われても、僕の答えは1つ!
僕はカッパじゃ無い!
僕は絶対に認めない!
そして僕は、噂が終息するのをひたすら待つのだ。
僕が勇者として活躍すれば、別の噂が広がり、カッパの話は上書きされるに違いない!
うん。
きっとそうなる!
それまでの辛抱だ!
僕がそう考えていると、探索者達が、まだスライムの話をしていた。
いい加減、しつこいぞ!
早く話題を変えろよ!
しかし正木君の願いは叶わず、探索者達の話は続く…
「山並さん。スライム脱毛法ですね!」
「違いない!」
「スライム脱毛法の噂が広がれば、支店に脱毛サロンが併設されるかも知れませんよ!」
「確かに!」
「わっはっは!」
※良い子は真似をしてはいけません。
何がスライム脱毛法だ!
探索者は、馬鹿な奴ばかりだな。
暫くして、やっと探索者達の話題が変わる。
「ダンジョンスタンピードが終息して、まだ、浅い階層までしか解放されて無くて…稼ぎにならなくて…本当に生活がしんどいんですよ~」
「今は、まだ、サンライズが放棄してくれた魔石の収入があるんですが…もっと下の階層を解放してくれないと、生活費が底を付いちゃいますよ…」
「ああ、ダンジョンスタンピードの時、サンライズが討伐した魔物の魔石を放棄して、俺達に分けてくれたからな!本当に助かったぜ!」
「そう言えば、近々、ダンジョンの調査が開始されるって聞いたぞ!今日、その打ち合わせらしいぞ!」
「本当に?」
「ああ、間違い無い。その調査にサンライズも参加するらしいから、案外早く解放されるかも知れないな!」
「サンライズが参加するなら、間違い無いですね!」
…何だと!サンライズ…いや、美鈴さんが参加するだと!
僕は何も聞いてない!!
僕は勇者パーティーのリーダーなのに、何故?僕に連絡が来ないんだ!
くそー!
ひょっとして、白石拓哉が裏から手を回したのか?
きっとそうだ!
僕が活躍し、勇者に覚醒するのを妨害しているに違い無い!
あのヤロー!
だが、今ならまだ間に合う。
そうか!先日教会で女神様に祈りを捧げた。
あの時の効果が現れたのかも知れないぞ!
きっとそうだ。
女神様が、美鈴さんに会うチャンスをくれたに違いない!
これは、支店長に直談判だな。
当然、僕達ジャスティスも参加させて貰おうじゃないか。
ふふふ。
ざまあみろ!白石拓哉!
★★★★★
支店のロビーで静香さん達と合流する。
そして僕は、メンバーに提案した。
「探索者協会が、スタンピードが終息し、ダンジョン内を調査するらしいんだ!まだ、低層階しか解放されていないから、生活に困っている探索者達が多い」
「だから、彼らの為にも、勇者パーティーである僕達が協力するべきだと思う!」
僕はメンバーを見る。
ふふふ。
困っている人達の為だと言えば、反対し難いだろう?
「僕はこれから受付へ言って、話を聞いてくる!」
皆にそう言いって僕が歩き出すと、パーティーメンバー達も付いてくる。
ふふふ。
僕の作戦通りに進行中だ。
後は受付で“僕達の勇者パーティージャスティスも参加する”と言えば良い。
“勇者パーティーも参加して頂けるのですね!ありがとう御座います!”
うん。
きっとそうなる。
ふふふ。
僕は受付の人に「僕達ジャスティスもダンジョン調査に協力する!」と言う。
さあ、受付嬢よ!
早くお礼を言うんだ!
「あの~残念ですが、もう参加メンバーは決まっています。お引き取り下さい」
ふざけるなよ!
勇者が協力するって言ってるんだぞ!
「支店長に確認を取って貰えませんか?」
「支店長は、いま、調査に同行する探索者の方々と会議中で、問い合わせる事は出来ません」
何だと…ヤバいじゃないか!
参加出来なくなってしまう。
それはつまり、美鈴さんに会う格好の機会を失うと言う事だ!
このままじゃダメだ!
今すぐ行動を起こす時だ。
そう判断した僕は、受付を突破して会議室に向かった。




