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翌朝──。
「あ〜、うん。やっぱりそうなったか……」
苦笑を浮かべる麻里の前に立つ侍女達の顔は、全員真っ白だった……。
これまでとにかく白粉で真っ白にするメイクをしてきた侍女達からしてみれば、かなり加減したつもりなのかもしれないが。
「まだまだ粉が多いかな。ほら、目元と口元のよく動く所がヒビ入ってる」
「「「え!?」」」
侍女達が慌ててポケットから手鏡を取り出して確認している。
「目元、ほうれい線、マリオネットライン、それに肌荒れ部分には、粉は極力薄くするかつけないのが正解なの」
「肌荒れ部分もですか?」
「そう。悪目立ちしちゃうからね」
「あの……」
「ん?」
「私の肌はかなり乾燥して粉が吹いてしまうのです。粉をつけるのがダメなら、どうやって隠したらいいのでしょう?」
不安げな面持ちの侍女を見ると、確かに彼女の眉間周辺とマリオネットライン周辺の肌が荒れていた。
「うん、それくらいなら今すぐには無理だけど、二〜三週間である程度目立たないくらいにはなると思うわよ」
「え? ほ、本当に目立たなくなるのですか?」
「私もね、以前は生理前になると肌に粉が吹くくらい乾燥してたんだけど、これのお陰で今はツルツル肌をキープ出来ているの」
そう言って麻里が取り出したのは、メガネ拭きだった。
「あの、それ……ハンカチ、ですか?」
「ううん、メガネ拭きよ。このツルツルした極細の繊維が角質や汚れを落としてくれて、毛穴の黒ずみや肌のトーンアップが期待出来るの」
「毛穴の黒ずみ……」
「肌のトーンアップ……」
侍女達の目がキラリと光る。
「ええと、まずは試してみようか?」
「「「はいっ!!」」」
前のめりでくる侍女達に若干引きながらも、皆を連れて洗面所に向かい、全員にメガネ拭きを渡した。
「とりあえずは順番に、手の甲を使って試してみようか。まずメガネ拭きを十分に濡らして洗顔料を泡立てる。それから優しくなで洗いしてね。ゴシゴシ擦るのは絶対にダメだから」
言われた通りになで洗いし、泡を水で流した後の侍女達の反応に思わず笑みがこぼれる。
「ツルツル!」
「ふぉぉ!」
「何これ!?」
「え? え?」
麻里も初めて使った時は、こんな布一枚で軽くなで洗いしただけなのに、何でこんなにツルツルになるの? と不思議に思ったものだ。
因みに、麻里は個人的にスクラブよりもメガネ拭き派である。
「ツルツルになって嬉しいのは分かるけど、やり過ぎは肌に負担を掛けるから、これを使うのは週に一回〜二回までね。あとくれぐれも擦り過ぎないようにね」
何事も用法用量を守って適度にが一番だが、ここまで言ってもやり過ぎる者が出てきそうな気はする。
その時は悪い例としての見本になってもらうまでだけれど。
麻里がニヤリと少しだけ黒い笑みを浮かべた。
◇◇◇
あっという間に二カ月が過ぎ、気付けば夜会の前日となっていた。
夜会で変身した姿をみせるためとはいえ、セレンティーヌとクラリスにはこれまで外出せずに邸内で過ごしてもらっていたが、ストレスにはなっていなかったようだ。
順調に体重が減り、健康的に肌のハリツヤが出て透明感もアップしている。
そして、数々の失敗を繰り返しながらも少しずつ成長していった侍女達は、明日の夜会に向けてセレンティーヌとクラリスに渾身のマッサージを行っているところだ。
「明日はいよいよ目標としてきた夜会の日よ! この日のために皆一丸となって頑張ってきたのだもの。絶対に成功させるわよ!」
「「「お〜〜〜!」」」
皆もノリノリでとても楽しそうにしている。
明日はクラリスの元婚約者と浮気相手に対する『ざまぁ』と、社交界での『傷モノ』扱いの払拭が第一の目的だけれど。
セレンティーヌの自己肯定感を高めるためのものでもある。
侍女達も美しくなり、メイクの技術もかなり上がった。
努力した結果は残り、続いていく。
これは幸せになるための第一歩なのだ。
【短編】(なぜか)執着してくる勇者様から逃げたい末端令嬢のお話
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