2週目a
とても意地悪な神様は私に三つの嫌がらせをしてきた。
一つ目は私の命をたった二十数年にしたこと。
母子家庭で育った私は、言いたくはないがハンデを背負って生きてきたと思う。母に苦労をかけさせてしまった、経済的にも裕福とは言えなかった、寂しい思いもしてきた、でも……いや、だからこそ私は頑張ってきた。母に迷惑をかけないようワガママも控えた、物は大事に扱った、勉強も頑張ってお金がなるべくかからないよう特待生として学校にも入学した。
私が頑張ったことが無意味になったのは些細な問題で、それ以上に悔しいのが母へまともな恩返しが出来なかった。これに尽きる。
母子家庭であることを私以上に気に病んでいたし、夜に独りで泣いていたことも知っていた。そんな母に、やっと恩返しが出来ると思っていた矢先の病、母には悪いが入院期間が長くなる前に死んだのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
二つ目は最愛の彼を残して逝ってしまったこと。
大学生の時に同じサークルで出会い、気が合った私と彼はすぐに交際を始めた。私の家のことを知っても態度を変えなかった人は彼が初めてで、彼の家族には大変良くしてもらったし母も彼のことを気に入っていた。
たまに愛が重いと周りは言ったけど父がいなかった私にとってはなんら苦ではなかった。それだけ私のことを愛してくれている。母以外から受ける愛を愛おしく感じるのはおかしいことではなかった。
私は彼の幸せを望んでいる。私以外の人を愛し、結婚し、子を授かったとしたのならそれで私は満足なのだ。ただ時折でいいから、私のことを思い出してほしい。多くは望まない。
そして三つ目が……彼が私を追って命を絶とうとしているかもしれないということだ。
最初は気が付かなった。いや、もしかしたら受け入れたくなかったのかもしれない。あの彼が、生気の感じない死んだ目をして、人一倍口うるさかったファッションを無視した服装と髪や髭、なによりこんな人気のない森へ手ぶらのまま来るなんて。
自殺の二文字が頭を過ぎる。必死に振り払おうとするのだがヘドロのように粘着質なこれを振り払うことは出来なかった。
なんとかしなければ、しかし今の私になにが出来るのだろうか……。
恐らく私は幽霊と呼ばれる状態なのだろう。ということは彼には触れられないし、そもそも彼が私の姿を認知することすら叶わないかもしれない。私はこのまま彼が死ぬのを見届けることしか出来ないのかもしれない、ならばいっそこの場を離れてもう一度彼の姿を見れたことに満足するべきなのかもしれない。
せめてもう一度、そう思って彼の方へ視線を向けたその瞬間、彼が歩みを止めた。そして視線がぶつかった、彼はそう思っていないかもしれないが少なくとも私はそうかんじた。もしかしたら彼は私のことが見えているのかもしれない。馬鹿馬鹿しいと一蹴されるかもしれない淡い期待だが、今の私にはこの上ない最後の希望に感じた。
彼に私のことがどう見えているのかは分からないがそれでも良かった。この場から去ってくれるのならその行動の元が恐怖でも構わない。そう思った私は彼の方へゆっくり進んだ。
驚いたのか彼はその場で尻もちを着いた。見る限り私だとは気付いていないようで恐れ戦いている。しかしそれも一瞬だけ、身の危険を感じたのかその場にあるものを私に投げつけてきた。
しかし全てが私の身体を素通りする。そもそも実態をもたない私に何を投げたって意味はない、当然のことだ。しかし一つ一つが身体をすり抜ける度に叫びたくなるような胸の痛みが私を襲う。だがこれは彼を残してしまった私への罰、贖罪なのだろう。
ひとしきり投げた後、彼は立ち上がり私に背を向けて走り出した。しかしそれはさらに森の奥へ進む形となってしまう。もちろん私は追いかける。どんな手を使っても必ず彼を救い出してみせる。
次でラストです




