1周目
友人が原案を考えた物語です
タイトルは未定だったので私が付けました。
ある日、ここらでは見ない男が地元民でも滅多に近寄らない森にフラフラと立ち入っていった。
普段なら誰かが声をかけて止めるかもしれないがその男は少し様子がおかしかった。服はシワシワで汚れが目立ち、髪や髭も放置しているせいで端正な顔が全て台無し、止めなければと思う以上に誰も関わりたくないと思ってしまったのだろう。
道と呼べるもののない中を男はただ歩き続けた。途中、立ち入り禁止の立て看板があったが男はそれを無視して進む。いや、視界には入っているがただそれだけで書いてある文章を理解しようとしていない様子だ。
どれほど歩いただろうか、木々に囲まれるという都会では味わえない非日常は時間の経過を狂わせるには十分すぎた。と、思った矢先男は歩みを止める。しかし戻る雰囲気ではない、ただじっと視界の先にある物に視線を向けている。
それは白いモヤのようにも見える。だがよくよく見ればそれは人の形を象っている。細く長い手足に髪はロングヘアーだろうか、顔はハッキリとは見えないが顎のラインは見えずもと顔の整い具合を顕著に物語る。
暫くそれを見続けていると向こうから男との距離をジリジリと詰め寄ってきていた。残り数メートルといったところで男の脳はやっと身の危険を察知し逃げようと筋肉を動かす。しかし立ち竦んでしまった男の足腰では命令を実行することは叶わずその場に尻もちを着いてしまう。
必死にその場にあった石や枝木を投げつけるが全てすり抜けてしまう。それを目にして更にパニックに陥ったのは不幸中の幸いなのだろうか足腰に力が戻り、不細工なクラウチングスタートのような形で男は森の奥へと逃げ始める。
たまに振り返るのだがモヤは浮遊して一定の距離を保ち着いてくる。必死に走っている男とは対照的なその姿に男の脳裏には絶望の二文字が先程から駆け巡っている。
逃げて投げて逃げて、やっと広い場所へと出た。
しかしそこは切り崩されたかのような断崖絶壁、下を見下ろさずとも耳に入ってくる荒い波音は落ちたら最後命の保証がないことを如実に現している。
もはや逃げ場はない。その現実は先程までパニックを起こしていた男に、崖の際に立っているというのに一時の冷静を取り戻させる。
対峙する形で男は初めてモヤの目と思われる場所へ視線を集中させる。すると今までモヤで隠れていた部分が少しずつ鮮明に見て取れるようになる。
ぱっちりと言うより細く釣り上がった目、キツそうな視線を飛ばしそうなのだが、何故か男を見るその目には優しさが見て取れる。
「————ッ!?」
視線がぶつかった瞬間、男は突然懐へ手を伸ばしあるものを取り出す。そしてそれとモヤを何度も何度も見比べ始める。
男が取り出したのは写真だった。二ヶ月ほど前に撮ったものだ。被写体は二人、もちろん一人は持ち主である男の姿、今とは違いオシャレに気を遣った服を着て満面の笑みを浮かべている。その隣には女性の姿、可愛らしいと言うよりは綺麗の方がしっくりくる凛とした女性だ。
とても幸せそうな様子が伺える。その証拠に二人の手は固く恋人繋ぎで結ばれている。そして目の前のモヤの顔部分、それが写真の女性と瓜二つ……いや、もう同一人物と言っても過言ではないだろう。
見間違いなはずはない、そう言いたげな自信に満ち溢れたその顔は写真のように笑顔を浮かべている。
男のそこからの行動は早かった。今まで背にしていた断崖絶壁の方へ身体を向け、少しだけ後ろへ視線を向ける。モヤの口部分が動いているのを確認し、一つ頷きながら返答を返した後、一切の迷いもなく身を投げ出した。
もう少し続きます




