魔法のタネ(2)
冒険者ギルドでの受け取りを済ませてこまごまとした用事を終えるともう夕方だった。
仕事場の店じまいをして、晩飯をどうしようか考えながら歩く。
すると、露店の並ぶ広場で騒ぎが起きていた。
「ショバ代が払えねぇとはどういう了見だ、あ゛あ゛?」
「こちとら慈善事業じゃねぇんだ。きっちりと払ってもらわにゃあ、引っ込みがつかねんだよ」
「いや、ですが現金は全部借金の取り立てに持っていかれてしまって……」
まじめで気弱そうな行商人が申し訳なさそうに前掛けの布を揉みながらガラの悪い男たちに頭をぺこぺこと下げている。
「かわいそうじゃないか。ちょっとくらいまけてやりなよ」
遠巻きにしている野次馬の中から近所のおばちゃんが行商人の肩を持つ。
「だがな。この広場で店を開くには既定の料金を納める決まりになってんだ。こいつだけ払わなくていいなんて不公平はできねぇ」
「そうだそうだ」
常連の露天商からガラの悪い男たちを支持する声が飛ぶ。
どうやらみかけによらず、やっていることは正しいことのようだ。
「でも、一銭もなくて……」
「ほら、今夜の食事にも困っている様子じゃないか。可哀そうな人から金を取り立てるなんて、あんたらは鬼だね」
「ちっ。おまえさん、今朝、出店の申し込みに来た時も現金がないからあとで売り上げから払うって言ったよな?なのになんで残しておかねぇんだ?借金ったって自分の金だろ?自分の金を優先して、俺たち下町の商店会に収める金は踏み倒すなんて無法が許されると思うのか?ごら゛っ」
ガラの悪い男はどうやら商店会の者らしい。どうやらこっちが正義のようだ。
「ですから、売れ残りですが、こちらの商品を納めますのでこれでご勘弁願えないかと」
赤い飾り模様の入った黒い手のひら大の小箱を恭しく差し出す。
一応、行商人の男も代案を申し出ているらしい。だったらそれで丸く収めればいいのに。
「だから、そんなガラクタじゃ代わりになんねーつってんだよ」
「ひっ」
「そんなに大きな声で脅すんじゃないよ」
「わ、ちょっと。おかみさん、こっちも仕事なんだから。こら、叩かないでって」
箱を見た限りではそれなりの代物のようだ。露天商の場所代はそんなに高いのだろうか。
なんだか厄介そうだな、と思いながら広場を通り過ぎようとすると、露天商の顔見知りに見つかってしまった。
「おー、ラズ。いいところに来た。下町のおかみさんたちに言ってやってくれよ。よそ者のルール破りを認めちゃ、下町に悪い連中がのさばっちまう」
「ええ、いや、その、おばちゃんたち、怖いから……」
「おや、ギルさんのところの雇われ店主じゃないか。あんたからも言っとくれよ。ガラの悪い取り立てなんてやってたら町の雰囲気が悪くなっちまう」
ううっ。どちらも下町のことを思っての行動らしい。ここで「俺、関係ないんで」なんて言おうものなら町にいられなくなってしまうパターンでは?
仲裁なんてがらじゃないんだがなあ……。
「あー、どうしたんだ?」
「ラズさん、いいところに」
よく見たらガラの悪い男は商店会のこまごまとしたことを引き受けている職員の一人だった。うちの店も商店会に入っているから相手も俺を知っていたらしい。名前は忘れたけど。
「この人が露店の出店費を払ってくれないんスよ。撤去後の清掃とか混雑時の警備とかその費用でまかなってるのに」
それは商店会の言い分が正しい。一部の店が払わないと真面目に費用を払っているうちの店などが割を食うことになるのだ。
「あなた、行商人なんですか?最初に出店費用を払うことは説明を受けていたと思いますが」
「はい。そのう。今日の売り上げで払うことにしていまして」
「それで思うように売れなかったと」
「いえ、大盛況でした。予想以上に売れまして、うれしい悲鳴でしたよ」
「じゃあ、出店費は捻出できるのでは?」
「それがその、よく売れたんで明日の分も手配したんですよ。急いで商品を押さえたくて前払いしたんです。もちろん手元にも多少の現金は残していたんですが……」
「借金取りに差し押さえられたと。支払期限は先だったのですか?」
「いえ、先日でした」
なんだよこいつ、人がいいのか抜けてるのか、計算が苦手なのか馬鹿なのか。よくよく聞いたら全部この行商人の無計画さが原因では?とはいえ、無い袖は振れないし。
「明日の売り上げから払うっていうのはだめなんですか?」
商店会の男のほうに聞いてみる。
「ダメですよ。これで明日も同じことをされたら二日分取りはぐれることになる。こういうのを許したらますます回収が難しくなるんです」
まあ確かに。明日また同じ会話をしている様子が目に浮かぶ。
ふと行商人が手に捧げたままの黒い小箱が目に留まる。
「これを代金のかたにはできないんですか?」
商店会の男が首を振る。
「中身が何かわからないっていうんですから。そんな価値がわからないものを保証金として受け取るわけにはいきません」
「中身がわからない?」
「いえ、正確には成長するまで何になるかわからない『魔法のタネ』なんです」
行商人が手元の黒い小箱に目を落として言った。




