争いは同じレベルの者同士でしか発生しない
「これは少しやりすぎてしまったか?」
朱鳥は冷静になって周囲を見渡す。
建物ほとんどが倒壊し、あるのは瓦礫の山ばかり。
「このままここにいたら警察に捕まりそうだし、さっさと帰ろう」
「待てよ」
「まだ意識があるのか」
クリームヒルトは打たれた首元をさすりながら起き上がる。
「その頑丈さはなんだい? 人間か?」
「なんだ、気づいてなかったのか? あたしは魔女だぞ」
「へえ、初めて見た。でも、聞いてたより弱いな」
「ちょっと手ぇ抜いてただけだ。これから本気出す」
「一話で終わらせるんじゃなかったのか? 二話目に入っているぞ」
「いちいち癇に障るやろうだ。あとな……」
トリシューラを構え、クリームヒルトは朱鳥に飛び掛かる。
「推しに対する愛は誰よりもある!」
朱鳥は竹刀でトリシューラを受け止め、鍔迫り合いになる。
「なら、何故自分で描こうとしない」
「描いたことのねぇ、てめぇには分かんねぇだろうよ!」
「いいや、ある。現在進行形で描いてる」
「そうかよ。だが、学生のお遊び程度ならまだいい。上に行こうと思えば行こうとするほど、自分の力のなさに打ちひしがれるんだ。そして、愛がある故に自分が描くことがおこがましいとそう思ってしまうんだ。この苦悩をおめぇみてぇなお子様にわかるわけねぇんだ!」
「コミケに参加したか?」
「今年の夏コミ出した」
「何部、持ってった?」
「30部。売れたのは0部だ。分かるか? あたしのこの絶望が」
「そうか。ワタシは今年の夏コミは1000部持って行ったが、問題なく完売したがな」
「…………………………」
「初参加だったのだろう? ならば、それくらいが普通だ」
「いや、今回で6回目……」
「そうか。ワタシはまだ2回しか出てないのだが」
「…………………………」
「フォロワーにちゃんと告知はしたのか? そもそも他の絵師たちともちゃんと交流は取っているのか?」
「いるよ。大体、フォロワー800人くらい」
「そうか。ワタシは5万人くらいフォロワーがいるがな」
「てめぇ! なんでちょいちょいマウント取ってくんだ!」
「すまない、そんな意図はなかったのだが。ただ事実を述べただけで」
「ぶっ飛ばすぞ!」
切れ散らかすクリームヒルトは朱鳥の腹に蹴りを入れる。
「うっ!」
後ろによろける朱鳥、その頭上へトリシューラを振り上げる。
「権能行使」
「っ!」
淡く光るトリシューラから不穏な気配を感じた朱鳥は無理やり地面を蹴ってさらに後ろへ下がる。
「つっ!」
体勢の悪いまま地面を無理に蹴った為、右足首を捻り、また受け身を取れなかったため、瓦礫の中にあったむき出しの鉄筋が左腕に突き刺さる。
痛みで顔を歪める朱鳥だったが、振り下ろされたトリシューラを見て、この判断は正しかったのだと安堵した。
「片足と片腕をやったか。けど、悪くない判断だったと思うぜ」
トリシューラは朱鳥が避けたことによって、瓦礫の破片の上に振り下ろされた。
にもかかわらず、全く音がしなかった。
「随分物騒なもの振り回すじゃないか。なんだい? それは」
トリシューラが触れた瞬間、瓦礫は塵となって消えていたのだ。
「あたしの作る武器は特別製でね。神器を作成した場合、その神の権能を一部行使出来るようになる。トリシューラを持つ神の名はシヴァ。その権能は破壊。よって、このトリシューラに触れるもの全て塵を化す」
「明らかに魔法の域を超えていると思うのだが、魔女とはそんなこともできるのか?」
「他の魔女のことなんか知らねぇよ。そんな時間がありゃ新作アニメのカップリングでも考えてる」
「同感」
朱鳥は竹刀を杖のようにつきながら立ち上がる。
「まだやるのか?」
「引く理由がない」
「いや、流石にその怪我じゃ……」
「その怪我とは何のことだ?」
「マジかよ」
いつの間にか左腕の血は止まっており、足の方も竹刀をつかずとも立てるようになっていた。
「さぁ、続きといこうか」
「仕切り直しってか? いいだろ、ぶっ倒れるまで付き合ってやる!」
互いに地を蹴り、真正面からぶつかりあう。
そして、重なり合うトリシューラと朱鳥の竹刀。
「な……に?」
その明らかな違和感にクリームヒルトは顔を歪めた。
「なんでその竹刀は塵にならねぇんだ!」
朱鳥の竹刀はトリシューラに触れているが、確かにその原型を留めていた。
「そう不思議なことでもないだろう?」
「神の権能は絶対だ。それを無効化出来るものなどありはしない!」
「だろうな。その認識はワタシも同じだ。だが、君のそれは借りものだろう?」
「まさか……!」
「魔法によって受ける影響はより強い魔力をぶつけることで相殺できる。小学生でも知っている常識だ」
「あり得ない! あたしは魔女でてめぇは人間だ! 絶対的な魔力量が違う!」
「いくら否定しても事実は変わらない!」
朱鳥は竹刀を振り抜き、クリームヒルトを突き飛ばす。
「ぐ……」
地面を擦りながら、クリームヒルトは少し後ろに下がる。
「生物学上それはあり得ねぇだろ。あたしより魔力が多いなら、てめぇは魔女って扱いになるはずだ」
「言っただろう? 魔女は初めて見たと。ワタシは人間だよ」
「じゃあ、なんであたしを上回る魔力が……どんな付与術師でも魔力量を上げるバフは出来ない……いや、ある。1つだけ、自身の魔力を上げられる魔法が、ある」
クリームヒルトは親指で自分の胸を指す。
「心だ。気持ちの高ぶりを魔力に乗せ増幅させる強化系魔法、その名は心情魔法」
「正解! そしてワタシの心は最高潮! 今の君じゃ止められない!」
「いいじゃねぇか! あたし以上の魔力を持ったやつは稀だ! 存分に楽しませてもらう!!! そして、白黒つけさせてもらうぜ!」
クリームヒルトは地面を蹴って空高く飛びあがる。
「そうだよな。オタクだもん。だから、ここは絶対に引けないんだ!」
クリームヒルトに感化された朱鳥は竹刀を大きく掲げる。
すると、桃色のオーラが先ほどまでとは比べ物にならないほど、増幅していく。
「こいつで終わりにしてやる!」
朱鳥の真上に落下しながら、クリームヒルトはトリシューラを構える。
「一切の仮借なく、灰燼と成せ――――――」
トリシューラは段々とその身に宿る光を増していく。
「恋影流奥義――――」
纏ったオーラが段々と形を成していき竹刀に纏わりつく。だが、それは紐のようなものではない。一枚、一枚、一枚、散る桜。それが竹刀を中心に舞っていた。
クリームヒルトは止まることなく、上空から朱鳥めがけて猛スピードで落下してくる。
朱鳥もそれを避けることはせず、真っ向から迎え撃ち……。
2人は交錯する。
「“トリシューラ・ジャガーノート”!!!!!!!」
「“千恋万華”!!!!!!!」
膨大な魔力が衝突し、辺り一帯を容赦なく消し飛ばす。
そして。
「……流石にもう体動かねぇな」
魔力を使い果たし仰向けに倒れているクリームヒルトの右手にはもうトリシューラはなかった。
「まだ生きているのか、魔女とはしぶといものだ」
同じく仰向けで倒れている朱鳥の右手にも竹刀はなかった。
互いの武器は2人の魔力に耐え切れず塵となって消えた。
「そっちこそ。人間のくせにしぶとい。今回は引き分けってところか」
「この勝負、ここで終わる気はないぞ。NTRだけは許せない」
「そうか、なら絵描き同士、作品でケリをつけようか」
「ああ、冬コミで待っている」




