動き出す影
「ふぁ~、もう朝か」
昨日、ゼラのお父さんと話したことがずっと頭にあってなかなか寝付けなかった。
「にしても、ゼラのやつ本当に来るのか」
あの後、ちゃんと父親と話したらしく、その結果、こっちに転校してくるらしい。
で、1人暮らしは心配だからってことで、ゼラもうちに住むことになったんだけど。
「みんなには言っておかないと」
パジャマから制服に着替えて、リビングに向かう。
「おはよう」
「おはようございます、ご主人」
リビングに入って挨拶を返してくれたのは梗夜君だけだった。
「みんな、真剣にテレビ見てるみたいだけど、何かあったの?」
「はい、どうやら日本時刻で午前5時ごろ、魔王軍が大規模な侵略作戦に出たそうで、一部地域で厳戒令が出されたそうです」
「大規模っていつもの小競り合いとは違うの?」
「投入されている戦力が明らかに違うそうです。ここまでの規模は過去100年なかったとニュースで言っていました」
「もしかして、日本も危険だったり? すぐ逃げた方がいい?」
「いえ、日本は唯一の中立国ですので、狙われたとしても最後でしょう。今朝、魔王軍が攻撃を仕掛けたのは大西洋沿いの国です。主に狙われているのが南アフリカ、フランス、そして、アメリカみたいです」
「今回の進行で世界が終わっちゃうなんてことないよね?」
「どうでしょう。その辺はあの3人の方が詳しいかと」
「ん? レンタローおっはー」
テレビに夢中になっていた人たちが僕に気づいた。
「ねぇ、今回の大規模侵攻って結構やばい感じなの?」
あの3人が、特に風真さんまでもが酒を飲まずに真面目な表情しているのが不安を駆り立ててくる。
「やばいというより、不自然ですわね」
「攻撃を仕掛けてきたタイミングがってこと?」
「いや、そこは何かしらの準備が出来たから侵攻を開始したのだろうと簡単に想像がつくんだよね~。だから、問題なのはそこじゃないよ。気になるのは敵の兵力さ」
「めちゃめちゃ多いとかですか?」
「逆ですわね。少なすぎる。奇襲を狙った割には動員されている兵が少ない。そのせいで今もなお勇者軍は侵攻をギリギリで抑えられていますわ。あと、1.3倍ほどの戦力を投じていれば今回攻め込んだ3か所はあっけなく落とせたと思いますわ」
「兵士が怪我してて戦闘に出せなかったから、とか?」
「うんん、魔王軍に所属している魔族の数を考えれば、怪我して人数が足らないということにはならないと思うなぁ。実際さ、勇者軍側に応援が駆け付けたタイミングで、魔王軍もそれに合わせて増員を送ってるし」
「なんだろう。聞いている感じ、魔王軍は時間稼ぎをしているように見えるんだけど」
「ですわね。勇者軍が持ちこたえられるギリギリを攻め続けて戦況を長引かせているように思えますわ」
「それってもしかして、陽動だったり? 裏で他に何か企んでいるとか」
「その可能性もなくはないが、判断に困るところなんだよねぇ~」
「風真さん、それはどういう意味ですか?」
「だって、さぁ、向こうはなんでか知らないけど、最高戦力を投入してきているんだよ?」
「最高戦力……ってもしかして!」
「そ、魔王様だ」
「な! 魔王が前線に出るなんて僕聞いたことないんですけど! 向こうは本気でこっちつぶしに来てるじゃないですか!?」
「アメリカ東部は魔王と勇者が戦っているみたいで大惨事らしい。もしかしたらうっかりで北アメリカ大陸が吹っ飛ぶかもしれないな」
「そんなうっかりで大陸1つ潰すとかやめてほしい……」
「けど、時間稼ぎと言うのはおじさんも同意見だ。とは言え、それが分かっていても、勇者側は魔王軍の侵攻を止めるので精いっぱいだからね。今は全世界から勇者軍の兵を集めている」
「そんな切迫している状況だなんて……一体何が起きるんだろうか」
昨日の夜。グリーヴニル家では。
「ゼラが学校に行く気になってくれたのは良いことだ。だが、問題はどうやって日本まで送ろうか。レンが魔族だと思っていたから提案したが、まさか地球に行くことになるとは」
「レンが人間だったなんて知らなかったんでしょ? ならしょうがないじゃない」
「おおおお~~~~~~!!!!! 娘が! 娘が慰めてくれた!」
「うっざ」
「グサッ」
バタッ。
「いや、倒れてないでこれからどうするか考えてよ」
「そうだった。問題は2つ。まず、ゼラが魔族であることをバレないようにすること。そして、日本に行く際、身分を偽って入国するわけだから、空港にいる勇者軍には注意しなければならない」
ゼラを魔王の娘、のままでは国から出ることすら叶わない。その為、ゼラの人間用のパスポートを偽造して飛行機に乗る。
「偽造パスポート使うんだから、残る問題は勇者軍でしょ? なら、簡単じゃん」
「おお、どうするのだ?」
そしたら、ゼラは瞳を潤ませ、上目遣いで魔王を見上げる。
「パパ、勇者たちと戦ってひきつけてて」
「Yes My Lord」
「じゃ、お願いね~。なるべく、日本から離れたところでやってね」
と、こんな感じで始まった魔王軍の大規模侵攻のことを人類は知らない。
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時は数日遡り。
埼玉県のとある旧ショッピングモール。
そこは数年前に潰れたが、建物は立て壊されずに廃墟としてそのまま残っている。
近くに住宅街はなく、誰も寄り付かない場所であったが、現在はそこを住みかとしている者がいる。
「クリスタ様。通信が入りました!」
若い女性の声がショッピングモール中に響き渡る。
「でけぇ声出さなくても聞こえてる。で、誰からだ?」
不快そうに眉をひそめるのは、先日憐太郎と戦い敗れた魔女、クリスタ・アルザリオン。
あれ以来、ハートの魔王候補から待機命令を下され、憐太郎たちの動向を監視できる位置に身をひそめていた。
「ボスからです」
ついに来たかと、目を輝かせながら部下の魔女からスマホをふんだくる。
「よお、ボス。やっとか?」
『ええ。魔王軍が近々大きな動きを見せると情報があったわ。それに乗じて私たちはそちらへ向かうわ』
「ってぇことは、やるんだな?」
『待たせたわね。これからクローバー陣営掃討作戦に移行する』




