勇者パーティを追放された四十路のおじさん、魔王軍の幹部にスカウトされる。
秋の近さを全く感じさせない9月の終わり。
日本の四季から秋はなくなったらしい。
ただでさえ暑いというのに、雨が降ると肌がべたつき外に出る不快感がさらに増す。
雨の日くらい涼しくしてくれてもいいのに。全く気が利かない。
これだから夏は嫌いなんだ。
「ちょっと? 聞いてる?」
夏が好きだとか言うやつは、夏休みが好きなだけなんだ。
夏休みがなくなれば、夏が好きだとか抜かす輩は消えてなくなる。
産廃季節だ。
どうせ四季が消えるなら夏がいい。秋と春の期間を延ばしてくれたのむ。
いや、春はいいや。花粉ヤバいし。
「あれ~? もっしも~し」
大体なんで日本ばっかり花粉の被害を受けなきゃいけないんだ。
海外だと花粉症はあまりないらしい。ずるい。
そういえば、魔界とかって花粉症あるのかな。
「おじさん、拗ねちゃうぞ?」
さてと、じゃあ、そろそろ現実を見ようか。
「あ、気が付いた?」
視線を少し下に向けると、薄汚いおっさんが僕の足元に縋りついている。
最悪だ。
雨の中の下校中、僕は不審者に絡まれてしまった。
周りの人たちは関わらないように僕たちを避けて歩いていく。
どうやら、周りからは僕とこのおっさんが知り合いに見えてしまっているらしい。
誠に遺憾である。
いつもなら下校中にはプリムラや梗夜君が一緒だったりするんだけど、今日に限って一人。
このおじさんから逃れる方法を考えなくてはならない。
とりあえず、しばらく無視を続けたが効果はない。
むしろ、うざさが増してきてる気がする。
原因は手に持っている酒瓶だ。
雨の中傘もささずに酒瓶抱えて、道のど真ん中で飲んだくれている。
人として完全に終わってしまっている。
「ねぇねぇ、少年。うち泊めてくれない? おじさん、今日寝るところなくってさぁ」
「無理です。他を当たってください」
「そういわずにさぁ……あ、ヤバい。気持ち悪くなってきた。うっぷ……吐きそ……」
「ちょちょちょ! 人のズボンに吐こうとしないでください!!」
「水、水……」
「わ、分かりましたから! 公園まで! 公園まで連れてきますから我慢してください!」
このまま吐かれたら僕の制服が吐しゃ物まみれになってしまうため、仕方なくおじさんを近くの公園まで連れていった。
「ごくごくごく、ぷはー! 水、うまー!」
「それはようござんした」
「おじさん的には、水道水じゃなくていろ〇すがよかったんだけど」
「介護されてる身でなんて図々しいんですか!」
「かっかっかっ! 冗談冗談」
なんだろう。この人、話し方が嘘くさくて何一つ信用できないんだけど。
「いや~、朝からずっと助け求めてたのに誰も反応してくれなくてさ~。おじさん、幽霊になっちゃったのかと思ったよ~」
「僕と同じで関わりたくなかっただけですよ。現実を見ましょう?」
「おかげで吐き気は収まってきたし、追い酒だー!」
「その酒瓶、どっから出したんですか!?」
「がばがばがばばばば、アルコール最高!」
「文字通り浴びるように飲んでる!!」
「あ、少年も飲む?」
「未成年です!」
「大丈夫~大丈夫~。アルコールって医療でも使われてるじゃん? つまり、体にいいんだよ。健康飲料だよ~」
「さっき吐きそうになってたのはなんでだと思いますか?」
「え~~~~~? 何の話?」
「記憶障害起こってますけど?」
「細かいこと気にしな~い。ほ~ら」
「あ、もう。酒瓶こっちに近づけないでください。アルコールくさ……あれ? なんか甘くていい匂い」
「かっかっかっ! 酒瓶の見た目に騙されたな~。中身はカシオレさ」
「アルコール度数10%以下!」
「度数強いの飲めないんだよねぇ~。酒は好きなんだけど」
「その見た目で酒に弱いのはなんですか? おじさんなのにギャップ萌え狙ってるんですか? キモいですね」
「か~~~! ゴミを見る目たまらないねぇ」
「僕、男なんですけど。興奮しないでもらっていいですか?」
「だって、君、可愛い顔してるでしょ? だから、つい?」
「警察呼びますね」
「あー待った待った。ごめんごめん。許して。ね?」
「警察呼ばれたくないんだったら、周りに迷惑かけないでくださいね。じゃあ、僕はもう行きますね」
「え~~~~。待ってよ~。もう少しお話してこ。少年の名前は?」
「……………」
「うっは~、警戒心たっか、その目! 別に悪さしようとかそう言うのないからさ。ちょっと助けてもらったお礼したくてさ。だから、何がお礼になるかなって、少年のこと知りたいんだ」
「お礼って……。そんなお金も家もなさそうな人に何を望めと?」
「いやいや、お金はあるよ? 家はないけど」
「どういうこと?」
「おじさん、動体視力がいいからね。スロットで生計を立てている。少年の求めるものなら大体買えるよ? ゲームとか」
「いや、家買えば? アパートでもいいけど。住所不定は日本じゃ生きづらいでしょ」
「実は身元保証人がいなくてねぇ、どこも物件貸してくれるところがないんだよ。本業の方もクビになっちゃったばっかだし」
「日本の不動産屋さんは優秀だ」
「あとはキャバクラとかプーソーとか行ってたりしてたら、家賃払う金ないしね~」
この人ヤバすぎない?
酒、金、女。ダメ人間の役満じゃん。
「じゃあ、もうお礼とかいいから、僕はもう帰りますね」
「あー待って待って、少年。いや、――唯野憐太郎君」
「っ! なんで僕の名前を!」
「さっき抱き着いたときに学生証をちょっとね」
「あの一瞬で?」
「ああ、十分さ。それさえあれば。どんな人間の個人情報も抜き取れる」
そう言って甚平をふわっと広げると、バタバタバタバタバタと何かが大量に地面に落ちた。
「これって……身分証……?」
運転免許、健康保険所、学生書、社員証などがおじさんの足元に散らばっていた。
「今日、おじさんが助けを求めたのに無視した人たちの個人情報、いる?」
「いりませんって! というか、なにしてるんですか!? 窃盗は犯罪ですよ!」
「え~~~? これは~彼らが落としてったのを拾ってあげただけだよ? それともおじさんが盗んだところでも見たのかい?」
「いや、見てないですけど……」
「でしょ~? おじさんこれから警察に届けようと思ってるんだ。やっさしー」
「あの、それはもういいですから、僕を呼び止めたのは何なんですか?」
こっちの個人情報は抜かれている。
それはつまり、無視したらどうなっても知らないよ? という脅しだ。
ここは穏便にいこう。
「あ、そうそう。さっきも言ったけど、おじさん、家ないんだよね~。だから、今晩泊めて」
「いや~、それはちょっと……」
まだ中学生の茉奈花がいるのに、こんな人をうちで泊めるのには抵抗がある。
後は単純に他の居候たちと揉めそう。
どうにかして断れないか考えを巡らせていると。
「あれ~? レンタロー! 先に帰ったんじゃなかったの?」
ちょうどいいタイミングでプリムラが僕を見つけ、駆け寄って来た。
「お! カワイ子ちゃんはっけ~ん! なになに? 少年の彼女?」
「違います。ただの居候です。」
「と言うことは、この子とひとつ屋根の下、お泊りが出来るってこと!? 絶対行きます!」
どうだろう。僕の予想だと、おじさんが返り討ちに合う未来しか見えない。
「えっと? どゆ状況?」
「あー、これはね。かくかくしかじかで」
「え、いいじゃん。ナンバーズになってくれるなら」
「…………………はあ!?!?!」
え、待って。プリムラさんは今なんておっしゃいました? ナンバーズ? 誰が? このおじさんが?
「ちょちょちょちょ! いいの!? れを!?」
「ちょっとちょっと、おじさんを差し置いて何の話だい? ナンバーズがとか」
「やだなぁ~。すっとぼけちゃって。あーしらのことくらい知ってっしょ?」
「あ、バレてるのね。魔王候補の幹部って話だろ? うん、いいよ。でもその代わり、一晩じゃなくて永住させて下さい!」
「おっけ!」
「いや~、やっとおじさんもおうちを持つようになったか」
「待って!!!!!!」
「うわ、びっくりした!」
「プリムラ! いくら人が集まらないからって、こんなダメ人間拾ってくることないでしょ! 数合わせでももっとまともな人とかにしなって」
「ん? レンタローはこの人のこと知らないの?」
「え? いや、あんな知り合いいないし、いたとしても記憶から消してる」
「この人はねぇ、風真燕時。元勇者軍諜報部隊総隊長にして、勇者軍の幹部のみ入ることを許された勇者パーティのメンバーだった人だよ」
「なんかすごそうな人ですけど、……敵じゃん!?!?!」
「だいじょーぶ! つい先月、勇者パーティを追放されてっからね。だから、勇者とは何の関係もないフリーの人材。スカウトしても問題ないない」
「つ、追放されたんですか……。それってもしかして、追放系ラノベみたいなこと? ホントは実力あるけど、勇者軍がそれに気づかず首にして、でもその後勇者軍ではてんわやんわになったみたいな。そして、足手まといだと言われて勇者パーティを追われたとか?」
「ああ、違う違う」
「?」
「勇者軍の女性にセクハラをして、追放されたの」
「追放理由、真っ当だった!!!!!!!!」




