魔王の娘
「はい、お姉さま! こちらおかわりの炊飯器です」
「ありがとう~!」
メイさんから炊飯器を受け取ったプリムラはそのまま箸をジャーに突っ込んで食べ始めた。
わんこそば感覚で米の炊飯器食いしないで。日本が米不足になっちゃうから。朝食だけで軽く15合食べてるんだけど。んで、まだおかわりし続けてるし。
それから……。
「メイさんはいつまでいるんですか……?」
メイさんがうちに来てからもう1週間は経っている。
なのに、帰る気配がまるでない。どころかもううちに住んでいるかのようだ。
「何を言ってるの? メイちゃんはレンタローの守護者じゃん。一緒に住むのは当然」
「守護者って、メイさんがうちの幹部になるってこと!? 何それ聞いてないんだけど!」
「言ってないっけ?」
「聞いてないよ!」
「流石のお姉さまもあなたを魔王にするには苦労するとのことでしたので、仕方なく、わたくしが協力して差し上げることにしたのですわ」
「はぁ? 俺がいれば十分だ。年寄りは足手まといだ、さっさと老人ホームで介護してもらえババァ!」
「梗夜君が死んだぁ!」
何の描写もなく0行で梗夜君がメイさんにやられた。
「元々、メイちゃんにはうちの陣営に来てもらおうと思ってたし」
「あの、何事もなかったかのように米を口に運ぶのやめてもらっていいですか? 同居人の意識がないんですよ?」
「問題ない。これはギャグパートだからな、次のシーンに行く頃には目を覚ますだろう」
「それなら安心だね!」
一旦それは置いておいて。
「いくら僕のうちでもこんなに人住まわせられないよ?」
「部屋なんていっぱいあるじゃん」
「それはそうだけどさ」
まだあと10人くらいなら住まわせられるほど部屋は余っている。
なんて言ったってうちはシェアハウスを想定していたのかって程広くて、部屋がいくつも存在している。一家族が住むには持て余す。
なんでも、両親は結婚祝いに幼馴染の金持ちからこの家を貰ったらしい。
その知り合いに僕はあったことはないけれど、相当頭がイカれているとしか思えない。
「それなら別にいいじゃん?」
「良くない! プリムラのことだからどうせよさげな人材を見つけたらうちに住まわせる気だろ!」
「?」
「すっとぼけた顔するな!」
ただでさえプリムラや梗夜君がうちに住むことすら認めていない。
なのにここでメイさんまで住まわせてしまったら、こっから先、制限なく人が増えていくに決まっている。
そんなの認められるわけないじゃないか。
「よく考えてみて? 憐太郎は他の魔王候補たちから命を狙われる身なんだよ? だったら、一人でも多く近くに戦力があることには越したことないんじゃないかな?」
「うっ! そ、そうだよねぇ……。この前のいざこざでハート陣営だけでなく、魔女王国ともなんか因縁が出来ちゃったみたいだし」
「そのことなら、こちらで既に対処しといたよ」
「え? そうなの?」
「レンタローたちがあの子たちをほったらかしにしてたじゃん? あーしはその転がっていた彼女たちに記憶を改ざんする魔法をかけといたの」
「記憶改ざん? プリムラって付与魔法しか使えないんじゃないの?」
「付与魔法だよ。偽りの記憶を付与する魔法」
「ここまで来るともう、プリムラは異世界転生してきたチート主人公なんじゃないかとすら思えてくる」
「でもぉ、魔法をかけられていることに気がつけば、バレちゃう。その前に早くメンバーを集めないと」
「集めるって言っても僕は魔王になんかならないよ?」
「レンタローもいい人いたら連れてきていいからね?」
聞いてないし。
でも自分の命が狙われるのは嫌だし。
かと言って人を集めたら魔王選定戦を棄権するという僕の作戦が潰えてしまう。
僕はどうするべきなのだろうか。
プリムラの言う通り仲間を集めるべきか……それとも……。
困った時は大親友のゼラに聞いてみよう。
と言うことで、魔王とかその部分は隠して、今ヤバいって状況だけを伝えた。
すると……。
「URL?」
それだけが送られてきた。
しばらく待っても、それ以上の返信はない。
そのリンクをクリックして開くと、動画配信サイトに飛んだ。
どうやら、この前僕が教えた小悪魔系VtuberのASMR配信の動画のようだ。
これで癒されろってことか。
ほんと、こういうの興味ないんだけどさ。マジで、全然かけらも興味はないけれど、せっかくの親友が送ってくれたものだ。雑に扱うなんて俺にはできない。
仕方ない。ここは友人のよしみだ。しっかり、最後まで聞いてやるよ!
とってもエッチでした! ASMR最高!
*********************
――魔界。
ここは人間界とはまた別時空に存在する魔族たちの住む世界。
そんな魔界のある家のある一室。
「フヒヒヒ、分かりやすいな~。レンのやつは」
生活感溢れるというか、もうゴミ屋敷になり果てているその部屋を照らすのはモニターの画面のみ。
そして、その部屋にいるのはたった一人。
>ごめん! 今晩もまたプリムラのやつに勉強会だって言われて、遊べそうにないや……。
「む~~~~、レンのバカ」
そのチャットを見ていた少女は拗ねて布団に包まった。
「最近、レンばっか楽しそうでずるいよ。うちの友達はレンしかいないのに……」
コンコンっ。
不機嫌そうな彼女の部屋に来客が来たようだ。
「な~に~?」
「ゼラ、今日も学校行ってないんだってな」
「っち、パパかよ。うっさい、さっさとどっか行って!」
2人は扉を開けず、そのまま会話を続ける。
「なぁ、そろそろ学校行ってみないか?」
「行くわけないでしょ! 何度言ったら分かんの! キモいから喋りかけてこないで!」
「やっぱり、いじめか? 誰だ? 主犯は誰だ? すぐにパパが殺してくるから」
「そう言うところ! うちのパパがそんなんだからうちが学校で浮くんだよ!」
「え? え? でも、パパはまだ殺してないよ?」
「殺してなくても、うちのパパなら平気でそうするって思われてんの! 分かるでしょ! だって、パパは………………………」
彼女の名はゼラニウム・グリーヴニル。
足元まで長いぼさぼさの黒い髪、暗闇の中でも光り輝く紅い右目と蒼い左目。
細長く伸びるその尻尾の先は槍のように鋭く、側頭部からは頭を守るように黒く太い角が前に向かって尖っている。
人によく似た外見をしているが、彼女は紛れもなく魔族だった。
しかし、ただの魔族ではない。
「だって、パパは魔王じゃん!」
ゼラニウム・グリーヴニル。
憐太郎のネット幼馴染みにして……
魔王の娘だ。




