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退屈なことは魔法にやらせよう  作者: 御神真夜留
一章:printf("Hello,world!!");
4/4

int i = 0; while(i<3){i++;}

 神父さんからもらった本と三枚の紙をバッグに入れて帰ってきた俺に、アルゴの方から話しかけてくる。


「キャスルくん、どうだった?」

「残念ながら黒と闇の二つだけだった」

「二つだけど、珍しい黒と闇で凄いじゃん!」


 属性適性で少ないのは白、黒、光、闇の四つで、これらの属性を持っているのは三属性持っている人と同じくらいだと言われている。勿論、能力的な意味では三属性の方が良いに決まっているが、この珍しい二属性でも無双への道はまだある。


「アルゴは?」

「私は水、氷、風だったよ」

「おお、三属性じゃん。凄いな。んじゃあ早く帰って魔法の練習でもするか」

「うん!」


 アルゴが三属性で、俺が二属性でも不思議と悔しさは感じられなかった。珍しいといわれている属性の二属性だったからかもしれないし、ソシャゲのガチャのように考えていたからかもしれない。どちらにせよ転生もので、ときどきある無能力という訳では無かったのだからよしとするべきだ。


 今はそんなことよりも魔法を早く使いたいという気持ちで心が染まっていた。


 先程渡された三枚の紙。これは魔道具のようなもので魔法を使うときに必要になる。そこに書かれた模様は雨にも濡れても消えることは無い。理由は魔法で守られているからだ。

 魔道具には紙以外にも杖のようなものや指輪、ネックレスなどたくさんの形がある。紙に入っている魔法は一種類のみで、初級の魔法となっている。練習用だから一種類なのであって、一般的に使われる魔道具には複数の魔法が入っている。

 魔道具を使う以外にも魔法のようなものを発現する方法あるが、それは魔術といわれ、魔法の元となった術だとされる。

 魔術を汎用化したものが魔法であるという考えが一般的だ。


 俺の家にある庭に着いた俺たちは早速魔法の練習を始めた。方法は紙に意識を集中させて魔力を流し、魔法名を唱えるだけ。魔法の発現に詠唱は必要ない。慣れてくると魔法名を唱える必要さえなくなる。


 もらった本の通りに目を閉じて紙を深く意識する。魔力を流し込む。そして、静かに魔法名を唱える――。


「――黒光(ブラックライト)


 目を開くと俺の目の前に黒い球体があった。

 これが黒光の力。空間から光を取り除くことに特化した魔法。これから練習を重ねることによって好きなところに発現できるようになり、相手の視界を奪うことが出来る。さらに魔力を操ることによって大きさ、形を自在に操ることも可能となる。

 黒属性の初級魔法であるとは思えないほどに汎用性が高いため、どんなに強くなったとしても重宝する魔法の一つらしい。


「じゃあ私も、……水球(ウォーターボール)


 アルゴが発した直後に現れたのは透き通る球体の水。魔法の醍醐味である無から有を生み出す瞬間だ。無、とはいってもそれ相応の魔力が消費されている。

 これぞ魔法。


 ――魔法は本当にあったんだ!


さっき自分でも魔法を発現したばっかりだが、やはりこう魔法らしいものを見せられるとテンションが上がってしまうのは致し方ない。


 それから俺たちは動けなくなるまで魔法を使った。幸い練習していたのが俺の家にある庭だったので親がそれぞれを担いで無事帰宅することが出来た。


 体力を回復させるために横になっているベッドの上で魔道具を眺める。


 魔道具には特別な型に変換された術式が刻み込まれている、と本には書いてあった。

 どんなことが刻み込まれているのか無理とは分かっていながらも魔道具を強く見つめた。その時――。


[ed 31 89 49 5e d1 89 48 48 e2 e4 83 50 f0 49 54 c0 c7 13 60 00 40 c7 48 f0 c1 40 12 48 00 c7 c7 08 66 00 40 87 e8 ff ff f4 ff 0f 66 44 1f 00 00 7f b8 60 20 55 00 2d 48 20 78 00 60 83 48 0e f8 89 48 76 e5 b8 1b 00 00 00 00 85 48 74 c0 5d 11 ……]


 ――ッ!?


 突如現れた大量の文字に驚き、魔道具から視線を外してしまう。

 今目の前に出てきた文字……俺の記憶が正しければ、バイナリファイルを見た感じに近かった。……というかバイナリデータそのものではなかろうか。

 バイナリとは本来二進数のことを表す。コンピュータが扱えるように二進数化されたファイルをバイナリファイルと呼び、表現の形式をバイナリデータという。本来であればゼロと一の文字で表される。しかし、流石にそれは人には読みづらいという理由で、十六進数に変えて表示するエディタをバイナリエディタという。


 本当に魔道具がバイナリデータであるのか、確かめるべくもう一度睨みつけるように魔法陣を見た。


[ed 31 89 49 5e d1 89 48 48 e2 e4 83 50 f0 49 54 c0 c7 13 60 00 40 c7 48 f0 c1 40 12 48 00 c7 c7 08 66 00 40 87 e8 ff ff f4 ff 0f 66 44 1f 00 00 7f b8 60 20 55 00 2d 48 20 78 00 60 83 48 0e f8 89 48 76 e5 b8 1b 00 00 00 00 85 48 74 c0 5d 11 ……]


 さっきと同じ文字列。ゼロからこの世界で十五にあたる数字で表現されたそれは正しくバイナリデータそのもののようだ。尤も、これは俺の知識の中だけなので確定ではないというのが現状。実際に知っているバイナリデータとは細かいところが異なるかもしれない。とはいえ、これが魔法陣の中身であることは間違いない。

 俺の知っている異世界転生ものでも魔法がプログラムのように扱われているものが多少あった。そう考えるとこの魔道具は一種のソフトウェアで、術式はプログラミング言語のようなものである可能性があるのだ。


 そんなことを考えながら文字列が動かせないかと思い、手をかざして上にスライドすると――。


[78 bf 60 20 ff 00 66 e0 1f 0f 00 84 00 00 00 00 c3 5d 1f 0f 00 40 2e 66 1f 0f 00 84 00 00 00 00 78 be 60 20 55 00 81 48 78 ee 60 20 48 00 fe c1 48 03 e5 89 89 48 48 f0 e8 c1 48 3f c6 01 d1 48 74 fe b8 15 00 00 00 00 85 48 74 c0 5d 0b 78 bf ……]


 ――出来てしまった。


 もしかして、これがよく分からないのじゃロリの言っていた三つの加護の一つなのだろうか。名付けるとしたら、そうだな……いや、面倒くさいから『仮・バイナリエディタ』でいいや。

 この『仮・バイナリエディタ』があったとして、何かの役に立つという訳ではないのが悲しいところか……。


 読みやすいように、十六進数になっているとは言え、それを見てどういう処理をしているのか分かる人など、元の世界を探しても数千人いるかいないかだろう。何を考えているのか想像も付かない、ある意味頭がどうかしている人だけだ。

 ……そう言えば、学校の先生が十六進数は友だちだとかなんとか言っていた、かもしれない。


 俺の人生……普通の友だちが欲しい人生だった……。

 学生、教員、職員と、変人奇人しかいない魔の学校だったからな……。

 寮の電気を使って消費電力の大きいパソコンを動かしたり、音ゲーのガチ勢だったり、コミュ障だったりと、普通の人がいなかった気がするんだよな……というのは置いておいて。


 今はこの仮・バイナリエディタの話だ。これにもしも逆アセンブル機能でも付いていれば、元の術式が分かったかもしれない。まあ、無い物ねだりをしても仕方が無いか。仮に逆アセンブル出来たとして、俺が読める形式ではないかもしれないのだ。


 ……決まった。これから俺がするべきことは、特別な型に変換する前の術式を学ぶことだ。


「キャスー、アルゴちゃん来てるわよー」


 俺が決意したとき、下から母親の声が聞こえてきた。

 アルゴが何しに来たのか分からないが、体力が戻り、下へ行こうとしていたから丁度良いタイミングだ。


「分かったー。今行くー」


 部屋を出て階段を降りていくと徐々に騒がしい空気が伝わってくる。

 これがいつもの、俺の親が営んでいる宿の音だ。

 王都にある最も大きい宿が俺の実家である。


 多分、アルゴが来ているのは裏なので、表には行かず、直接裏へ回る。

 俺が一階についた途端、姿を確認したアルゴはすぐさま駆け寄ってきた。


「私、決めた。魔法技師になる。だから……その――」


 次の言葉を申し訳なさそうに紡ごうとしているアルゴの言葉を遮る。


「――大丈夫だ、俺も魔法技師になりたいと思ってたところだったんだ」

「え、でも……前、冒険者になりたいって」


 一ヶ月くらい前、俺とアルゴは将来何になりたいのかを話していた。その時、二人とも冒険者になりたいと言ったのだ。

 冒険者は魔法適正判定の儀が終わるとすぐになることの出来る職業だ。危険が多いが、魔法の力を付けるためにはこれが一番手っ取り早い。

 もしも冒険者にならないのだとすれば俺たちには二つの選択肢が残る。家業を継ぐのと、勉強してから冒険者なり役職なりに就くものだ。

 家業は、俺の場合は宿屋、アルゴの場合は八百屋。

 勉強して就ける職業は魔法技師、宮廷魔法師、魔法鍛冶などがある。


 その選択肢があったとしても、当時の俺たちは冒険者になるのが将来の夢だった。


 しかし、今は――。


「俺、思ったんだ。魔法を作ってみたいって。だから魔法技師になろうと思う」


 この考えに至ったのはついさっきだ。魔法の術式がどうなっているかを知りたい。もしかするとプログラミング言語で書かれているかもしれない。

 そうだとしたら、俺は自分で動く魔法。人工知能みたいな魔法を作りたいのだ。

 これは元の世界でも夢だった。人工知能について勉強もしていた。もしかすると、この世界で夢が叶うかもしれないのだ。


 俺が、冒険者にならず、魔法技師になろうと決めたことを知って、アルゴはニッコリと笑った。


「そう……なら一緒の学校に通えるねっ!」

「アルゴはどうして魔法技師になろうって思ったんだ?」

「それは、キャスルくんとほとんど同じ理由だよ。魔法についてもまだ分からないことが多いし、その謎が解ければ面白そうで、魔法を作ってみたいって」


 決まりだ。後は親の許可を取るのみ。


「アルゴは、おじさんたちにもう言った?」

「うん、もう言ったよ。自分の未来なんだから自分の好きなようにしなさいって、きちんと自立できるまでお金は出してあげるからって」


 そうか、なら俺も早速……。


「キャス、あんた、魔法技師になりたいの?」


 ……親に言おうかと思った時丁度話を聞いていたのか、母親が訊ねてきた。


「……だめかな」

「なーに言ってんの。いいに決まってるじゃない。宿屋なんて大変なだけだし、あんたにはちゃんとした職業に就いて欲しかったからね。勉強頑張んなさいよ」


 そう言い残して、母は表へ戻った。


「……ありがとう。俺頑張るよ」


 今日、俺の、俺たちの目標が決まった。

 王都魔法学園の入学式は一ヶ月後、それまでに準備をしなければ。

バイナリデータは適当に自作のプログラムから取ってきました。

そのものに意味は無いので、あまり気にしないでください。

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