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第33斤

 午後7時50分。自室にて。


 もうすぐ、わっちん二度目のコラボ配信が始まろうとしていた。


 今日は先に見ておきたい動画もなかったので、いつものようにスマホでYouTubeのアプリを開いたら「繰夢ムリムofficial」のチャンネルに飛び「【超音波注意報】わっちんとカオスなゲームやるよ【同期組だよ】」という配信予定になっている動画のサムネイルをタップした。サムネはディエゴパーティーのタイトル画面の両サイドにリムリムとわっちんが貼り付けられているという簡素なものだった。ちなみにリムリムのチャンネル登録者数は17万人と表示されており、ちょうどわっちんの倍くらいのようだった。


『わくわく』『昨日も面白かったから楽しみ』『超音波待機』『クリームパン食べて待ってる』


 なだらかに流れるチャット欄を眺めていたら、気になる名前を見つけたので流される前にタップしてみた。その名前は『まおうえびふらいこ』で、アイコンはスカイツリーをほぼ真下から撮影した写真だった。


 魔王エビフライ子なんてそれはもうエビ子ちゃんしかいないじゃん。でも書き込んでいる内容は我は魔王だとかではなく『初リアタイです』という無難な内容であった。となると書き込んでいるのは斉藤先生なのだろうか。そのうち偬鳴架という名前も見られるかもしれないなと思っていると配信が始まり、デフォルメされたリムリムが大海原を泳ぎ続けている配信準備中の画面になった。


 ややあって画面が切り替わり、右下にSDイラストのわっちん、左下にゆらゆら動いているリムリム、画面中央に大きくディエゴパーティーのゲーム画面が映し出された。


『無理とは絶対言わないよ! クリームパン系VTuber、繰夢ムリムです! そ・れ・とー?』

『くろわわ、わわわわ、わわわわわ~。クロワッサン系VTuber、黒和わわ~と!』


『こんむりむー』『きたあああああああああああ』『わっちんかわいい』『クリームパン系VTuberってなんだよ』『それは禁句!』『キエエアアアアアアアアア』


 2人が挨拶をするとチャットの流れるスピードが一気に速くなった。


『はーい! 今日もね! わっちんと一緒にディエゴパーティーやっていきたいと思いまーす!』

『いえーい』


 明るい声のリムリムにわっちんが拍手みたいな音を出しながら乗った。


『実は今日一日、あたしひとりでずっとこれやってましたw』

『えぇ!?』

『最初は理不尽すぎてなんだこれって思ったんだけど、段々わかってきたらもうやめられないとまらないって感じでw』

『私よりハマってない!?』

『そうかもw』


『確かにリムリムが好きそうだったけどもw』『草』『血が目覚めちゃったかw』


 あのゲームをずっとやってたのか。わっちんはともかく、少なくとも僕よりかはあのゲームにはハマっている。僕だったら多分頑張っても3時間が限界だ。


『という訳で! 今日は2人でバトルモードやっていきたいと思うんだけど、これがまあまたまたカオスでw』

『私もやったことあるけど……一体どうなることやらって感じ……』

『やる前からわっちんがビクビクしておりますが、はてさて一体どうなるんでしょうかー!』


 リムリムが威勢よくそう言ってバトルモードが選択されると、ゲーム画面が暗転した後、カートゥーンアニメ調のムービーが流れた。


『その日、世界は闇に包まれた。人類は異形の存在と化し、人類に牙を剥いた。人類は逃げ惑い、悲鳴と絶叫の中で自らも異形の存在となるか、死を待つことしかできなかった。そんな時だった。人類が生み出した新たなる希望にして、最後の切り札。壊れゆく世界の中で世界を救うため異形に立ち向かう小さきものたちがいた。そう、彼らこそが――『ディエゴパーティー』である!』


 ディエゴのナレーションの後、燃え盛る街を背景にアルマゲドンみたいにこちらへ向かってあの4匹が歩く。ちょうろうが若干置き去りにされていたのであまりかっこよくはなかった。


『ここあたしいっつも笑うんだけどw』

『そうだねw』


『草』『モロパクで草』『ちょうろうw』『どんな世界観だw』


『全員の頭ブチ抜くまで、ジャムるんじゃねえぞッ!』


 サブマシンガンっぽい銃を小さな身体で抱え、ゾンビっぽいやつに派手な動きで弾丸を撃ち込みまくるディエゴが映し出された。やっぱり主人公にあるまじき物騒な言動である。


『ちょっと! こっちにも弾飛んできてるんだけど! 後で覚えてなさい!』


 流れ弾を華麗に避けながら、硝煙が上がる薄暗い空を飛ぶロス。


『わたくしの毒は致死性ですのよ。あ、もう死んでらっしゃいましたね♪』


 ゾンビの身体を這って首筋に噛みつき、ゾンビを倒すシスコ。


『ぐぉおおおお!』


 ゾンビに囲まれボコボコにされるちょうろう。


『ちょうろうw』『不死身だからセーフ』『ディエゴ怖すぎw』『シスコかわいい』


『ここは片付いたな。んじゃ次行こうぜ』


 ディエゴが倒れているゾンビを背景にそう言うと他の3匹も集まり、キャラクターセレクトと表示された。思ったけどこれはゾンビ映画みたいな世界観なんだろうか。そういえばパーティーモードのときも人間の姿はひとりも見かけなかったな。


『これは流石にちょうろうでやるのはやめておいた方がいいよw ちょうろうだけやたらリスポーン早くなってるからそれはいいんだけどねw』

『それは一応知ってる……w』

『という訳でディエゴ選びまーすw』


 リムリムは笑いながらディエゴを選択した。


『カリフォルニア州カミサマ計画実験体13号! ゴールデンハムスター型超動物――ディエゴ!』


 ディエゴがアクション映画の最終局面で黒幕に正体を明かした主人公みたいなことを言った。13番という不吉な数字が主人公感を際立たせている、かどうかはちょっとよくわからないけど、かっこよくはあった。

 

『あ、じゃあ私はシスコで』

『カリフォルニア州カミサマ計画実験体325号――マングローブヘビ型超毒性動物――シスコ、参ります』


 シスコが黒地に黄色い横縞模様が入っている身体を起こしてポーズを決めた。相変わらずお嬢様っぽい凛とした声である。それにしても一気に番号飛んだな。となるとこの4匹が唯一の実験成功例みたいなものなんだろうか。ちょうろうは一体何番なんだろう。


 なんて少し期待してたけど、ロスとちょうろうは自己紹介することなく画面は暗転し、ゾンビがうじゃうじゃいる住宅街のような場所にいるディエゴの背中が映し出された。


『ちょうろうの聞いてみたかった』『!?』『TPS?』『最早別ゲーで草』『ゾンビゲーじゃんw』


 動揺の声が広がるチャット欄をよそに、ディエゴが背中を向けながらこう言った。


『本当のパーティーは、これからだぜッ!』

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