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召喚のみでやってきます!  作者: オスめこ
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新人研修①



 体に溜まっていた疲労と、初めて戦闘をした高揚感が心地よく混じり。ゴルさんに抱えられて ああ、まるで幼子のように腕の中で揺れながら眠りこけたその瞬間。何の音や違和感も無かったのに、はっと目が覚めていた。寝起きの微睡みもなく爽やかに起きられたのは結構なのだが、目覚めた先は先ほどの世界とは違い、見慣れたいつもの天井…すなわち現実に戻っていたのである。


「うぉぉぉ、これは凄い、凄かったが…中々疲れるなー」


全身が気だるい。本当に寝てしまいたいと思うほどに疲弊していて、ゲームの中、それも実際に体を動かしたはずもないのに、疲労感は現実にも確かに引っ張られていた。快適に行えるようと機器の中は温度調節もされているが、それでも寝汗をかいたのだろう。衣類から多少の汗臭さを感じる所を見るに、己の体は中々あちらに引っ張られていたようだ。



「ふう…さてどうするかねぇ」


あれからさっさとシャワーを浴び、栄養補助食品を腹に詰め込んだあと――本日2度目のゲームをするか否かを考える。さっぱりした影響で眠気こそ多少とれたものの、疲労感はまだ残っている。深夜から始めたため、ベッドでゴロゴロすれば気持ちよく明日を迎えることが出来ることは必定。

だがしかし、この日の為に有給を取った。取ったのだ。貴重な月曜に回ってきた祝日と合わせた有給2日申請は、家庭を持たない社畜には得ること自体が至難と思える5連休。

中小企業である弊社の中、各分野に〝そこそこ〟働けるというだけで押し付けられるように中間管理職じみたポジションに押し込まれ、上から下から日々報告される苦情と要求を吟味し伝えなければならない胃痛必須の環境。信頼こそ築けているため、申請自体は問題なかったが、いい言い訳が思いつかず、一人になりたいです。旅行に行きますと伝えれば、とても可哀そうな目でお疲れ様と送り出してくれた上司の顔が今でもふとした時に蘇る。


「よし…寝よっ」


勿体ない、もっとやろうぜという心の中の小市民が訴えかけるが、休みはまだ始まったばかり。無理せず休む事に決めた。久しぶりに運動した時並みに疲労感が溜まっているのだ。無理して体調を崩したら本末転倒である。結局翌日のお昼まで爆睡し、起床後は身なりを整えて即座に機械に潜り込んだ。



「お帰りなさいませ大久保様。先日はお疲れさまでした。本日も≪バーベナオンライン≫を起動致しますか?」


「その前に説明して貰いたい事があるんだけどエンプレスちゃん。このアバターと名前?バーベナだと変更できなかったんだが」


「あれはホームで設定したアバターをゲームに反映する際は、設定がロックされてしまう為ですね。契約事項等には記載されておらず、HPのよくある質問第7項に記載されておりますよ」


「ちくしょうどうりで載ってないわけだ。じゃあ今から変更するのは無理か…」


「それを変更するなんてとんでもない!!」


「え」


「いいですか大久保さん!私が作り上げたそのアバターソーニャちゃんは正しく会心の出来!10~13歳をイメージした、思春期に入りかけの第二次性徴、幼さから大人にかけて上り始めた階段の第一歩!男女どちらとも見間違おうその身長とあどけない表情をそそる可愛らしいお顔!女性の象徴部位とされる胸部も厚いローブで覆い隠す事でより性差を無くし、また髪も黒色のショートボブに、瞳の色を美しいブルーにしてですね―」



こいつ本当にAIなのだろうか。いくら進歩したとして、ここまで感情的に、尚且つ拗らせている変態になれるのだろうか。中の人いるんじゃね?と訝しむ間も独白は続いており、気が付けば叫んでいた。


「分かった!分かったからもういい…起動してくれ…」


「むう、その様子ですとまだまだ説明が足りませんが、了解しました。≪バーベナオンライン≫起動」



以前と変わらず、暗闇から光が差して目を開けると、ベッドに寝ているのだろうか、フカフカの何かに仰向けになって寝転んでおり、見知らぬ天井が視界に広がった。


「よっと…ここは宿屋?かな」


体を起こし周囲を探ると、シングルベッドが一つ、机に椅子があり、窓格子は一つ、空っぽの本棚と大きな木箱が整然と壁端に設置されていた。ビジネスホテル並みにシンプルである。唯一、ここが魔法の世界だと思わせんばかりに、ベッドのすぐ横に細長い黒紫色のオブジェが立っていた。色々と探索していると、コンコンとノック音が聞こえ、ガラガラとした声が鳴り響く。


訪問者(トラベラー)どの!訪問者どの!お、起きられましたか。お目覚めならばカウンターに起こしを!カスミナ様がお待ちです!」


「了解しました。今向かいます」


身支度を再度行い、杖などを確認し、ドアを開ける。するとそこには俺と同じくらいの背丈、そして緑の肌で覆われている人?がいた。恐らくゴブリンなのだろうか。耳はとがり、醜悪な顔面こそしているが、なぜか怯えているのか全身がびくびくと震えている。


「さあ、さあ。行きましょう。お早く!カスミナ様がお待ちですので!」


「わわわっ!」


余程あの受付さんが怖いのだろう。いきなり手を引いて小走りで廊下を突き進む。一本道で、いくつか部屋が左右に並んでいるが、それぞれ個性が強いのか扉はすべて飾りが違っている。花で色鮮やかに飾られる部屋から、隙間から怪しげな煙が立ち込める場所。ハンドルが燃えている扉まである始末だ。


少し歩むと階段と眩い明りが見えてきて、らせん階段となっており、前も見た酒場に直接繋がっていた。バタバタとゴブリンと駆け足で受付さんの元へ向かう。相変わらず気品があるというか、業務をしている姿が様になる人だ。


「こんにちはカスミナさん。本日もよろしくお願いします」


「こんにちは【ソーニャ】さん。前日は見事、試験を合格しお疲れ様でしたね。本日から依頼の斡旋、物品の購入や備品の使用許可などが可能となりました。ですがその前にー…」


おおっと いやな前置きをしてくるが、しかしなんてことはなく


「本日は座学をしていきますよ!」


新人研修の続きであった。








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