脱出劇①
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後方からおぞましい叫び声と共に、奴らが近づいてくるのを如実に表す振動もまた、ヒュージタイガーの背中を通して感じてくる。音は次第に大きくなっている、恐らく途中で合流し、大きくなっているのだろう。なんら規則性のなかった叫び声は、今では鈴虫の合唱のような大反響だ。ビリビリと木霊し、未だ追いつかれていないはずなのに、恐怖が背中を擦るような感じがして、気が気でないほどの緊張感が生まれてくる!
「ガルルルルッ!」
「うぇーん!あいつらしつこいよぉ~!」
目の前に広がる暗闇だが、しかしタイガーは躓くことなく俊敏に走り抜ける。時にはジャンプしたり、壁を蹴り上げ登ったり。目まぐるしい事この上ないが、今はこいつが命綱だ。痛いほどサドルを握りしめ、
べったりと体を伏せ振り落とされないよう体を固定させる。そんな中でも叫べる余裕のあるシルフィーヌは大した奴だ。舌をかまないよう、起伏の無い一本道を走っている最中に相談する。
「シ、シルフィーヌ!お前言ったよな!ほとんどが出られないって!つまり一部の人間は脱出出来たってわけだ!出口とか脱出方法があるって事だろ!なんか知らねぇか!?」
「う、そりゃあいるよ。いるけど…」
「なんだ!何でもいいから教えてくれよ!」
「うううぅ~知らないんだよぉ。脱出出来たっていうやつら、そのほとんどがいなくなるか、廃人になったっていうし…唯一まともに探索したっていう、偉いエルフの将軍も、脱出に関しては口を噤んでいたから、ホントにわかんないんだ…」
マジで分からないのだろう。いつもの勢いもなく、最後には声量も落ち、また襟元に包まってしまった。怒鳴った事を謝ろうとしたが、タイガーがジャンプしたため、慌てて口を噤む。
上下左右。どれほど逃げ回ったのか。一体時間はどれほど立ったのだろうか。もはや分からないほど動き回るも、奴さんたちは絶対に許さないらしい。いよいよ後ろを覗き込めば、あの気持ち悪いシルエットが暗がりに映りだされてきた!恐ろしい数の化け物は、まるで一匹の生物のように纏まっており、視界に入るのは足と口がうじゃうじゃと。飲み込まれればどうなるかなど、想像したくもない。いよいよケチっていた魔力を回す時が来たようだ。
(タイガー。頼むぞ!)
サドル越しに、スケさんにバフする要領で祈り、願う。すると、タイガーの一部分に赤い痣が広がってゆく。真赤な模様は、血管を彷彿とさせるもので、強化を施した瞬間、タイガーの速度は明らかに増した!
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暗闇に浮かぶ複数の口から、銃弾のような速度で、黒いナニカが飛び出してくる。いずれもガチガチと牙を打ち鳴らしながら飛翔するも、タイガーは後ろに目が付いているのかのように、最小限の動きで躱してゆく。それでも避けきれない数の投射物が背中に向かってくるが、尾に付いていた槌のような器官で、ビュンビュンと打ち払い、叩き潰していく。
「ッ……おいおいおいマジか!!」
バフを施し、更に逃げ回る。体感的にはもう一時間近く逃げ回っている気がしているが、何とか距離を開けれたと安堵した瞬間。タイガーが急ブレーキをかけて立ち止まった。
「此処まで来てかよっ!」
目の前に広がるのは、大きく開けた空間で、ぽっかりと空いた大きな穴が目の前に広がっていた。天井を見れば、今までとは違う、白い光が差し込んでおり、出口を思わせる光景なのに、そこに至る道が無い!
「シルフィーヌ!お前、飛んで逃げられるか!?お前だけでもいいから逃げろ!」
「えっ…でもそうしたらあんたは…」
「こうなったらもう無理だ!お前が俺も浮かべさせるならともかく、それ以外で道なんてない!あいつらももうすぐ来るんだ!急げ!」
恐らく、俺を浮かべさせることが出来るのなら、さっさとやっているだろう。喜々として自分の優秀さをアピールしながら向かうに違いない。だがこいつは出来なかった。そして今でも迷っている。全く、仕方ない奴だ。
「ああもう、先に謝る!ごめん!いくぞぉ!」
「ふぇ!?お前何して、うわぁぁ!?」
シルフィーヌを握り、思い切りに投げ飛ばす!野球ボールのように光に突っ込むも、力足りず半分くらいの距離でふわりと羽を広げ留まった。そして覚悟が決まったのだろう。こちらを不安げに見つめるも、表情を引き締め、光の中に消えていった。
「おいら、あんたの事、絶対忘れないよ!ここから出たら、必ず助けをよぶからね!ちゃんと無事でいろよ!」
「ああ、分かったよ。色々約束したし。な」
小さな友を見送り、地響きと共に鳴り響く絶叫に目を向ける。此処まで魔力を使いまくった影響だろう。なんだか久しぶりの疲労感が体を襲うも、ただで死んでたまるかと杖を握り、スケさんを召喚する。
「ここで死んだらどうなるかねぇ。支店に戻れるのか、それともロストしたりするのか…ま、無事にリスポーンできるのを期待するか」
ナイフを抜き、静かに備える。仁王立ちして燃え盛る剣を構えるスケさんにも予めバフを施し、黒いオーラが鎧に反射して、気迫十分と待ち構えた。
通って来た道の角から、黒い足節がうじゃうじゃと姿を現した。こいつら、ここが行き止まりだと知っているのだろう。先ほどの勢いは収まり、ゆっくりと、まるであざ笑っているような様で口を開きながらこちらに向かってきた。垂れ流しの涎は、まるで水たまりのように地面に広がってゆく。ああ、あれに嚙まれりゃ流石に痛そうだ。
「ふぅーっ……よっしゃあ!掛かってこいやぁ!」
『…!』
「ガルッ!」
どうせなら最後までと、気合を引き締め待ち構える。
その叫びが契機となったのか、あるいは脱出した者が出たからなのか。大穴の奥底から、恐ろしい咆哮が空間全てを震わせた。それは大きな質量と共に襲い掛かり、強烈な突風と、地震を同時に引き起こす。グラグラと地面が揺れ、風が背中を強く押し、ゴロゴロと地面に転げた。怪物たちも同様で、こちらに来ることなく、いや恐れているのか、恐慌した様子で元来た道に逃げ帰ってゆく。
「ッ…スケさん!」
『……!!』
まるで意思があるのかのように、俺の体は大穴に引き寄せられてゆく。スケさんの手を取ろうと伸ばすも、指先しか触れることは出来ず、気が付けば真っ逆さまに落ちていった―




