初期設定
前回のあらすじ おっさんがウキウキでゲームを始めようとしたようです
全身がぞわぞわするような、不思議な感覚が五感を刺激しつつ、目がだんだんと覚めてくる。
目の前には鮮やかなブルーを基調とした広場のような場所が広がっており、地球を模したであろう大きな球体がドンと金の盆の上に鎮座していた。
「うおおお…こりゃすげぇな」
今までのVRは必ず頭部にデバイスを着用していた。時代が進むごとに軽量化と性能は向上していったが、どれほど進歩したとしてもそこは変わることのない不変な部分だったはずだ。だが今頭への違和感は消え去り、自然体でVRの中に入り込んでいる。
『アベリアにようこそ!私の名前はエンプレス。これからあなたのアバター/ホームベースの設定を行って
いきます。ああ、基本的なプロフィール設定ですので、プリセットでいい方はお勧めをご紹介しますね』
おそらく目の前の地球儀が話しているのだろう。綺麗な声でつらつらと初期設定を進めていく。しかしまあなかなか感情的にしゃべるAIちゃんだ。少し前までこういった会話も出来なかったが、技術の進歩か、齟齬もなく会話を行うことができた。
「テキトーでいいよ。ランダムで。ホームも今はいいから、≪バーベナオンライン≫起動してくれ」
『了解しました。私のセンスにお任せください!≪バーベナオンライン≫ 起動 』
若干不穏な発言とともに、視界は黒一面に染まっていく。アバターを作らなかった弊害だろうか。自身の実態は見えないのに、どこに手があるのかはなんとなく分かり、少々奇妙な感覚になりながらも、それに対する不安などよりも興奮が勝っていた。
まだかまだかとローディングをじれったく待っていると、遂に目の前に小さな光が灯されていき、次第に光は大きくなっていった。ひときわ光が大きくなり、視界を真っ白に塗りつぶした後は数十回は見たであろうPVで見た風景が目の前に広がっていた。大きな草原にうっそうと生い茂る深い緑色の森。遠くにデカい山がつらつらと等間隔で並んでおり、きらきらと青く輝く大海原が横一面に広がっていく。
景色が一通り流れた後は、ゲーマーなら幾たび見たであろうキャラクリ用と思われる部屋に場面が切り割っていた。のめり込めばここで数時間消費することは必須。元々そこまでこだわる方ではないのだが、如何せん今回の意気込みは相当なのだ。伊達に数百万は使っていない。
さてどうするかと頭を悩ませていると、急にぱっと体が出来上がっていった。
驚きながら鏡を見つめていくと、全体的に身長は小さくなり、髪の毛は艶のある黒髪。ショートカットで首元あたりで整えられ、何より非常に中性的で可愛らしい顔が出来上がっていた。
なるほど可愛い。しかし外面がどれほど好かろうと中身がおっさんとなれば話は別だ。
「なんじゃあこりゃあ!おいおいおい変更できんぞ!どうなってるバグか!?」
必死になってメニューをタッチしていると、隅っこにメッセージが届いているであろうアイコンが光っている。ああ畜生。絶対あいつだろ。
「…………」
―――とりあえず読んでみよう話はそれからだ。