高いお買い物
時は20〷年。日本のゲームはVRが支流となっていた―
というほどの流行りは今はまだなく、ゴーグル被りコントローラーを握りしめてのやり方こそ数世代前と揶揄出来るほどには進歩してきたが、いまだ技術は発展途上。ゲーム以外の観光や観測、医療や軍事と幅広く手を伸ばすも。五感すべてに訴えるような、真に仮想空間の中に入り込んだと断言できるにはまだ言えなかった。
かつて国民的なゲーム機から発売された、画期的なVRゲーム。今でこそ鼻で笑えるほど画質は酷く、酔いやすい人はとことん出来ないゲームだったが、かつての自分はそれに恐ろしいほど感銘を受けたことをよーく覚えている。こんなにもホラーゲームが怖かったのかと。本当に自分がゲームの中に入っているような感覚を覚え、だた一歩歩むだけで息は荒くなり、目の前に現れる悍ましい何かが襲い掛かる様は、大の大人が女々しく悲鳴を上げるのに十分な内容だった。
そうして俺事― 大久保は気づけば30を間近に迫り、未だ独身を貫いて、尚且つVRを追い求めてここまできてしまった。目の前にある浴槽とベットを掛け合わせたような装置を眺めて思いふけっていた。
「ついにやった…ついにやってしまったー!!」
都内郊外近く。近くの駅までバスで向かわなければ出勤不可能の三等地に位置するマンションで興奮と少しだけの後悔を胸に叫んでいた。
[本当の仮想空間に入り込め!」なんて謳い文句から始まるCMで、世界初だの何とか受賞だの、どこか安っぽい宣伝でそれは世に広まった。〝完全なVR〟を目指したそれは、今までの機器とアプローチが異なったもので入眠に視点を当てたもの。大雑把に言えばレム睡眠時に特定の電気信号を機械から発信し、眠りに近い状態でゲームを出来るというコンセプトで、明晰夢のごとく動く事が出来、自身の記録からなる風の匂いや味を堪能できる、正に本当の没入が可能というもの。医学的な知見など万年平社員にあるはずもなく、へーぐらいしか言えんが、場所の確保や長時間のプレイは精神的な疲労感があるなど色々課題があってなお購入に踏み切ってしまった。
お値段なんと3桁万円。金のかからん独身野郎とは言え、購入に踏み切る事にはまあ悩んだこと。
それでも、発売される様々なアプリケーションやゲームの中に、琴線に触れる一つのタイトルがあった
為、1週間うんうん唸りながらもついに購入してしまった。
それはよくある剣と魔法のファンタジーもの。
ではなく、魔法オンリーのMMORPGという攻めたデザインの作品だ。
PVの中には様々なキャラクターがおり、その中では炎を操るものや、雷、氷でド派手に暴れる魔術師、空間から魔法の剣を生み出し、剣闘士のように暴れ回るものまで様々だ。
その中の魔法の一つに、召喚というスキルがあった。小さな精霊や幻想的な魔物、果てはドラゴンに騎乗し、使役する様は自身の癖に突き刺さる物なのだ。
MMOやRPGによくあるスキルではあるが、それをVRで、尚且つまるで生きているかの如く動き、連携する出来栄えの物はそうはなく、新車よりもたけぇゲーム機をポチった訳である。
「風呂ヨシ!飯ヨシ!有給申請よーし!!今日は絶対寝ないぞ!」
パチンと頬を叩き、冷蔵庫にあるエナドリとゼリー飲料を数本用意して。
年甲斐もなくワクワクとしながら、でかすぎるゲーム媒体に身体を眠らせる。
興奮しており、眠れるのか心配だったが、機械から吹き出てきた煙を浴びて、意識はすうっと薄れていき…気が付けばVRのホーム画面のような場所に立ち尽くしていた。




