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おかわり ~悪戯~

ガヤガヤとした休み時間に、突然目の前に影がさして顔をあげる。


「トリック・オア・トリート!」


やけに明るい声で、そう声をかけてきたのは、普段からそう話すことのない同じクラスの奴だった。わざわざ人が座っている所を狙ってきているのだから、テンションが上がって誰彼構わず声をかけているのか、嫌がらせなのか怪しいところだ。


頬杖をついたまま、無言で見ていたのが気に障ったのだろう。嫌らしい笑みを浮かべながら、クラス中に聞こえるように、声をあげた。


「あっ、泰知は彼女の作ったものしか食べないから、菓子なんか持っているわけないかー」


「おい、わざわざ声かけといて、それはないだろ?」


佐藤が眉をしかめながら、掴みかからん勢いで突っかかっていく。さっきまで幸せそうな顔で菓子を貪り食っていたのに、ずいぶんと変わり身が早い。庇ってくれた奴を見捨てるのも、気が咎める。今にも言い合いを始めそうな2人の間に、すっと菓子を差し出した。


「えっ、これ……」


「何だよ。菓子が欲しくて、手当たり次第に声をかけていたんだろ?」


まさか僕が市販の菓子を持っているとは思わなかったのだろう。酷く驚いた顔をした後に、悔しげに歪められた顔をみて溜飲を下げる。こいつは何かと智会との仲をからかったり、茶々をいれたりしてくる奴だ。きっと今日もこれ幸いと仕掛けてくるだろうと、智会が持たせてくれたのだ。こんな奴に、悪戯と称してイジられるなんて冗談じゃない。智会も同じ気持ちなのだろう。例年より、大容量の菓子を買い込んでいた。


予想外の行動に驚いたのは、1人だけじゃなかった。


「た、泰知が菓子を持っているだなんて……。そもそも、俺にはくれなかったのに、酷くないかっ?」


「いや、佐藤は泰知はトリートだよなって、勝手にガムのおもちゃ出してきたんだろ?」


佐藤はどうやら、わざわざ弟のおもちゃを借りてきてまで、ハロウィンの気分を味わいたかったらしい。「食べないからいらない」と言う僕の言葉を無視して、ガムを引っ張ると指を挟まれるおもちゃを、無理やり掴まされた。

もはや、こんな物を僕に差し出す時点で怪しんでいたから、きちんとした悪戯になっているのかも怪しい。僕に少しでも疎外感を感じさせないように、佐藤なりに考えた結果なのかもしれないが、素直に喜べないところだ。


佐藤に何と返すべきか考えていると、後ろから声をかけられる。


「あっ、それうまかったよ。ありがとな、泰知」


「おーう」


「えっ、まさかお前まで貰っているとか、どうなっているんだよ!」


ギャーギャー騒ぎだした佐藤のお陰か、嫌に注目を集めていた視線も、まばらになった。端のほうで心配そうな視線を向けていた智会に笑いかけると、ほっとしたように目元を和らげている。



何とか今日と言う日を乗り越えて、家にやってきた智会を捕まえる。


「Trick or Treat?」


「えっ?」


智会にばらまき用のお菓子を沢山買ったから、分けてあげると渡されたのは、昨日のことだった。帰りの荷物を軽くするためと言いながら、貰った菓子も含め全て平らげていたのは知っている。


今日は帰りがけに買い出しもしていないから、自然と選択肢は限られるだろう。スポッと智会の頭に、猫耳カチューシャをかぶせる。


「ど、どこから出したのっ?」


「来年は希望を聞いてあげるから、今年は猫コスで我慢してね」


質問には答えず、にこりと笑ってみせる。

何も、市販の菓子を食べられなくても、ハロウィンを楽しめなくなるわけではない。


「お、お菓子なら沢山あげたのに!」


「智会のお陰で、たちの悪い連中に絡まれないで済んだよ。ありがとう」


「そ、それなら」


「でも、あれはあくまで『僕以外』のものでしょう?智会から僕だけお菓子を貰えないなんて、ひどいと思わない?」


「ひ、酷いのは恩を仇で返そうとしている泰知でしょう!」


愛しい彼女の文句は聞き流して、僕は思う存分、ハロウィンを満喫したのだった。



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