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Mortal Luxury Cruise Ships  作者: 江上 那智
第一章 船上の悪夢
9/22

第九話エピローグ

お待たせしました。

一応最終話的な状態です。

「星がきれい……」


「そうだな……」

二人は大海原の真っただ中にいた。

悪夢のような船から降りて数時間、あたりは夜の帳が降りている。


脱出艇のエンジンには御多分に漏れず燃料が入っていなかった。

何度も言ったが完全に飾りである。

なので、漂うしかないのだ。


「恵里香、寒くないか?」


「ううん、今は平気」


「そうか」

潮風は身に染みる、大丈夫と思っていても意外に冷えるだろうと蒼太は着ていた上着を恵里香の膝に被せた。


「ありがと……私たち、どうなるのかな」


「どう……って?」


「助かるのか? っていうのもそうなんだけど……」


「ベルセルクか……」

あの後、戻ってきた蒼太の目を見て恵里香は驚いた。

厨房では気づかなかったが赤い目をしていたから。

興奮状態が落ち着くにつれて元の色に戻っていった蒼太の目。

レイジたちと同じ目……。


「私もなんだよね……」


「……なんとかなるさ。守るって約束したしな」


「ふふ……期待してる」



――漂流二日目



「あ、イルカ」


「へえ、こりゃ貴重な体験だな」


「こんな状況じゃなきゃもっと楽しめるのに」


「……だな」

この日も特に何もなく、途中少しだけ非常食を食べて水分補給をして終わった。



――漂流三日目



「蒼太、何か聞こえない?」


「ん? モーター音……あ! あそこ見てみろ!!」


「船だ! おーい!」

運よく日本の方に流されていたようで、近づいてくる漁船は日本のものだった。

何処かで発見してくれたらしい。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「助かりました」


「ありがとうございます」


「なに、いいって事よ。しかしおめえらなんでこんなとこに?」

この人のいいおじさんは秋元鉄心(あきもとてっしん)さん。

漁の帰りで、明らかに漂流してる風に見えたので来てくれたそうだ。

二人は自分たちの身に起きた事を一部を除いて全て話す。


「はあー、大変だったなぁ……とにかく行くか」


「はい、お願いします」

鉄心の船は力強く海を進んでいく。

大した時間もかからずに陸地が見えてきた。


「おお……陸だ……日本だ」


「私たち助かったのね……」


「ああ……こんな事になるなんて思ってなかったから朱音に悪い事したなぁ」


「朱音って?」


「従兄妹、留守番してもらってる」

常陸朱音(ひたちあかね)、蒼太の従兄妹。

そう言えば朱音が居たな……完全に孤独という訳でもなかった。

早く行ってやらないとなと蒼太は考えたが、それよりも大した時間も経っていないのにやたらと久しく感じる大地に目を向けた。


「何か、感慨深いな」


「本当だね……まさか本当に生きて帰れるとは思わなかった」

うっすらと恵里香の目に涙が浮かぶ。

つられて蒼太もつい泣きそうになったが、次に視界に入ってきたモノがそれを止めた。


「……なんだアレ?」


「……鉄の……壁?」


「ああ、おめえらは三日漂流していたんだったな。じゃあ知らないのも無理はないか。アレは隔離壁だ」


「「隔離壁?」」


「ああそうだ、今見えてるのは第一層隔離壁。見えないけどその奥には第二層隔離壁がある」


「隔離ってことは何かを閉じ込めてるんだな?」


「おめえらの言ったレイジ? を閉じ込めてる」


「そ……そんな……」

隔壁がたてられたのは三日前。

タイミング的にはちょうどエルマーが蒼太たちを探しに来たあたりだった。

その頃くらいから、狂犬病のように人間が凶暴化する病気が流行りはじめ、空気での感染はしないことが即座に判明したために感染者を隔離する壁が設置された。


「神保町を中心に広がって今は千代田区全域が第二層隔離区域だよ。あそこは手の施しようがないほど汚染されている。その周りの港区、渋谷区、台東区、文京区、江東区までが第一層隔離区域。ちなみに今見えているのが江東区の隔離壁だ」


「じ、神保町!?」


「ん? そうだが……ひょっとして?」


「蒼太……?」


「ああ、俺の家がある。そこに朱音も居る……」


「蒼太、助けに行かないと!」


「ああ!」


「第一層周辺までは行けると思う。だが、壁の向こうには入らせてもらえないだろう」


「なんとかするさ」


「……言っても聞かなさそうだな。ならこれを持っていけ」


「これは?」


「クールダーEX。新型ウィルス『ベルセルク』の拮抗薬だ、天保製薬が開発した。認可は降りてないらしいが少しでも発症を抑えられる薬として今出回ってる……普通の薬から見たら死ぬほど高いがな」


(組織とやらには天保製薬が絡んでるのか……酷いマッチポンプだ)


「ありがとうございます、秋元さん。大事なモノなのに……」


「保険的に持ってただけだからいいって事よ! それにもし従兄妹の嬢ちゃんが感染してたら必要になるだろう? 治せる薬じゃねえが、何かの足しになるだろうよ。んじゃ頑張れよ!」

そのほかに鉄心が知ってる限りの情報を貰うことが出来た。


まず先も言った通りクールダーは拮抗薬であって治療薬ではない。

第一隔壁の内部は薬で抑えられてる人たちが多く居る。

薬は定期的に「軍」によって隔壁内に届けられる、食料も。

ベルセルク発症には一週間前後。

クールダーを使えば一か月近くは発症させずに済む。

クールダー使用者は監視つきで外で働くことを許される。

情報的には一般の人間ならこれくらいが限界だろう、それでも随分役に立つ情報だ。


「エルマーさんから聞いた発症までの時間が変わってるね」


「薬の効果を変えたんだろう、外の人間に拮抗薬を売るためにな……」


「なんだっけ、マッチポンプ?」


「そうだ、多分壁の中はあの船同様実験場だ。クールダーの効果を確かめ、臨床実験を繰り返して効果が確立すれば……」


「隔壁の外の人間にも感染させる?」


「だと思う。まったくふざけてる、そうして常に薬が必要な状況を作り出して儲けるつもりだろう」


「酷いね……」


「ああ、反吐が出る。ま、とりあえずは朱音の救出だな」


「そうだね! がんばるぞー」


「……戦えない恵里香はまず隠れるのを上手くなろうな」


「……がんばるぞー……」

この後も続くのですが、陸に上がった為にタイトル変えるか悩んでます。

一応完結済にはしてませんが……。

このままのタイトルで続けるかシーズン2として別タイトルにするか。

どちらにせよこれで終わりではないので読んでくださってる方はご安心を。

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