第八話
お待たせしました。
どうぞお楽しみください。
今回は会話シーンがかなり長い、というかほとんどです。
読みにくかったらごめんなさい。
「また随分古めかしい感じで無造作な所にあるな」
「こんなに豪華な船なのにね」
本来脱出艇とかいうものは緊急時に即使えるようになってるものなのだが……。
船体の横に吊るされる形で設置されていた。
まさにお飾りと言った状態である。
「しかも手動とか明らかに使う気ないな」
下におろすための機構はクランクのついたウィンチであった。
「船が手漕ぎじゃないだけマシだと思うよ?」
「それは確かに。とりあえず下ろそう……んく! ……硬ぇ」
本気で使う気は無いようで、ウィンチは潮風にさらされて錆びてる。
普通は錆びない加工くらいされている筈なのだが。
「動かせないほどじゃないけど、こりゃ時間かかるな。恵里香、悪いが警戒しといてくれ」
「わかった、何か来たらすぐ知らせるね」
そう言って少しだけ蒼太から離れて見通しのいい場所に移動する恵里香。
不思議な事に厨房からここまで一切なんにも出会わなかったのである。
だからこそここまで呑気にしていられるのだが……。
少々気を抜きすぎな感じがするのは気のせいか?
「ひいい……手が痛てぇ……」
およそ15分かけて何とか蒼太は船を下におろすことが出来た。
これで燃料が無いとか言われたら笑うしかない。
「終わったぞ、恵里香。……恵里香?」
反応が無いことを訝しく思った蒼太は振り返る。
「んー! んー!」
「お疲れさん、待ちくたびれたぜ」
そこには恵里香を拘束し、ナイフを突き付けているエルマーが立っていた。
「……随分と遅かったじゃないかエルマー。団体さんまで引き連れて、にぎやかだなオイ」
「食事する時間を与えてやったんだ、感謝してほしいくらいだな」
「そいつはドーモ。それも指示されてか?」
「俺の独断だ。……どうやらオレの正体に気づいていたか……いつから疑ってた?」
「最初からだな」
「……理由は?」
「言葉だ」
「言葉?」
「エルマー、あんたはこの船に乗ってるのが日本人だけじゃないのは知ってるよな」
「当然だ」
「そうなると基本的に最初に使う言語は英語にならないとおかしいよな? なんたって共通語だもんな。だのにあんたは初めから日本語で呼びかけてきた。どうして俺たちが英語苦手なの知ってるんだ? 五千人規模の船でどうして俺たちが英語が苦手なのを把握できたか、この船のどこか……もしくは外部でモニタリングでもしていたんだろ? そこから情報を得た。違うか?」
「……」
「沈黙は肯定だ、とにかくあんたは俺たちを連れ出したかった。実験の一環なんだろうな、そこのレイジ女と団体さん。本当は俺にけしかける予定だったんじゃないのか?」
「……頭の回転が速いやつは面倒だな……」
「そこで韮澤さんが声をかけるというイレギュラーが起きた、そしてアンジェリーナのこともイレギュラーだ。そうだな……俺の集団戦闘における能力と一度でも顔見知りになったネクロを相手に出来るかを見たかったんじゃないか?」
「Fuck! 本当に面倒だ。……その通りだよクソガキ」
「俺はもう24だ。それより、一つだけわからないのは……なんで俺にこだわる?」
「HA! お前だけじゃないな、この女もだ」
「恵里香はただの一般人だろ。俺だって喧嘩の強いだけの一般人だ」
「HAHAHAHA! ソータ、お前はまだ人間のつもりなのか?」
「何?」
「ただ喧嘩が強いだけの人間があれほどの力を持つゾンビどもを相手に出来るとでも?」
「どういうことだ」
「折角だから教えてやろう。お気づきの通りこの船は実験場だ、我々の組織が開発した新薬『ベルセルク』のな」
「ベルセルク?」
「そうだ。そいつをルームサービスの食事に混入させておいた、感染拡大の速度と威力を調べるためにな」
「なんだと!?」
「いいデータがとれたぜ? 小規模の街なら一日で終わりだ。混入させたのは日本、つまり最後の地を発ってから。ベルセルクの効果が現れるまでの時間は人間相手なら1~2日……お前らは? 初日に食ったのは知ってるぜ、今何日目だ?」
「馬鹿な!」
「そうだ、本来ならベルセルクの効果でお前の言うレイジになってなきゃオカシイんだよ。抗体があるのか共存してるのか……観察していた組織の結論は共存だ。お前とコイツは重要なサンプルなんだよ」
「……もう一つ聞かせろ」
「なんだ?」
「その団体さんの事だ、お前が無事な理由はそのレイジ女じゃないのか?」
「その通りだ」
エルマーはポケットから一つの小さな機械を取り出す。
「なんだそりゃ」
「これはある一定の周波数で電磁波を発する機械だ。そしてこの女の脳には受信機が埋め込まれている。つまりこの機械を持っていればこの女に命令が出来るわけだ」
「なるほどな」
「この女は組織から預かった特殊個体だ。通常の個体と違って力は少し弱いが代わりにこの動く死体に命令を出せる。突然変異かどうかは知らねえがな」
「あの悲鳴がそうか」
「ま、この女がゾンビに命令できると言っても単純な指示しか出来ないがな。襲え、守れ、動くな、大雑把に分ければこの三つだ」
「へー、じゃあそいつを倒せばここに居るネクロは普通に襲ってくるんだな。なんでそこまでペラペラしゃべってくれるんだ?」
「これからお前らは自我が崩壊して廃人になるまで調べつくされるからだよ。今知ったところで忘れちまうからさ」
「おお、こわいこわい……色々教えてくれてありがとよ。大体わかった……もういいぞ恵里香、やれ!」
「What!? いぎ、ぎゃあああ!!」
蒼太が叫んだと同時にエルマーは叫び声をあげた。
見ると左の太ももに深々と肉切りナイフが刺さっている。
「恵里香は先に船へ!」
「わかった」
「オラ!」
恵里香の返事を聞いた蒼太はそのまま船とは逆に走り、エルマーの傍らに居たレイジ女の脳を破壊する。
待機の命令が下されていたため、回避行動など一切を行わずにただ茫然と頭部に一撃を受けて呆気なく沈黙した。
「そんな哀しそうな顔すんなよ……恨むなら俺じゃなくてこいつらの組織とやらにしてくれ」
「い、ぎ……ギザマァァァァ!」
「最初から疑ってたと言ったろ? 対策しとくのは当然だ、残念だったな」
蒼太は脱出艇に向かう間に恵里香に予想していた事全て話していた。
肉切りナイフを渡した意味、エルマーが生きているだろうこと。
この事態の黒幕か、それに通じる人間であろうこと。
今の状況を鑑みて生きたまま連れ帰りたいだろうこと。
そして、蒼太の戦闘力を警戒して恵里香を人質にしようとするだろう事。
最初は信じられないと言っていた恵里香も、最後には納得した。
だから捕らえられやすいように態と蒼太から離れた。
何処かで観察してるであろう人間に油断していると見せかけるために呑気に振舞っていたのだ。
結果は見ての通りである。
「嵌めたつもりが嵌ってたのはアンタだったんだよ、エルマー」
「kill! I'll kill you!! なるべく生け捕りと言われたが片方生きていれば十分だ!」
「今のは分かる。『お前を殺す』だったか? ……無理だな」
「What did you say?」
「日本語でしゃべれ……まあアレだ、後ろ見てみろ」
「……bullshit……」
統率者を失ったネクロが徐々にその支配から放たれ、思い思い(?)の動きを見せ始めている。
「そういう事だ、せいぜいその足で足掻いてくれ。じゃあな」
完全に自由になったネクロが二人の存在に気付く。
基本的にはまず一番近い方から襲うだろうと蒼太は足早にその場を逃げ出した。
「ソータ、wait! ……Fuck! Get out of here!! Don't……Don't kill me、stahp! スタァァァップ!!」
お約束展開です。
どうにも私は状況描写を減らして(無くして)会話で回す癖がありますね。
掛け合いの雰囲気で状況を想像してください。
というのは言い訳ですかねえ……。
お付き合いいただき有難うございました。




