〈小噺〉ラインハルト陛下の憂鬱
異世界と言う所は、何処まで発展している国だったんだろう。
私は最近よくそう考えるようになった。
私は私なりに、この国を発展させようと努力してきたつもりだった。
しかし、グレイシアやリディアの一言の方が、効果があることの方があるのだ。
グレイシアはまず道を作れと言った。
これは私が意見を求めた時に控えめに助言してくれたものだ。
彼女は基本政治にはかかわらないという姿勢らしい。
しかし、私は国や民が豊かになるなら、誰の主導で政が行われようと構わないと思っている。
グレイシアは謙虚で聡明で努力家な女性だ。
子育てもほとんどの貴族の奥方は乳母にまかせっきりの事も多いにも関わらず、三人の子をほとんど自分で育てている。
初めての子、リーンハルトだけは出産後、体調の不調で乳母の手を借りざるを得なかったが。
しかしその体調不良も、何事にも規格外の妹のおかげで完治している。
逆にその規格外の妹は子育てが苦手らしい。
グレイシアは子供の靴下などを編んでやったりと細々したものを手作りしていたが、どうもあれはそう言う家庭的なことが苦手のようだ。
確かにそんなことを教えてくれる人はいなかったのかもしれない。
そう考えると、申し訳ない気持ちになるが、それは今更言っても仕方ないことだ。
話がそれたな。
政の話だ。
道を作れと言ったグレイシアにリディアが賛同したのだ。
まず大型馬車が快適に通れる輸送路で、各地方の要所を繋げと言う。
確かに利にはかなっているが、それは最優先なのかと聞き返すと、二人そろって頷いた。
私は今一つ実感のないまま、しかし各都市の流通の確保は必要だとは思えたのでその案を実行した。
効果が出たのは早かった。
今まで近隣でしか、取れた作物を売れなかったのが、遠くまで売りに行けるようになり、作付面積も増加した。
各貴族領間での食料に関税は掛けるなと言うことを言ったのはリディアだった。出来ればすべての関税は撤廃して、一貴族領単位ではなく一国として流通を管理するのだと。
そうすると翌年には中央の穀倉地帯には麦や、一部米の余剰分が出る程に収穫は増えた。
売れると思ったら作付面積を増やせる余地はまだまだあったのだ。
余剰分は、不作の年のためにとリディアが作った巨大な「貯蔵庫」に貯蓄された。
これは中に入れておくと、扉が閉まっている間は時間の流れを止める仕組みがしてあるとかで、本人は「状態保存魔術」と呼んでいるが、私はそんな魔術は始めて聞いた。
いやまぁ、アレが規格外なのは本当に今さらだ。それはいい。
二人は「病院のシステム」や、「義務教育」など他国では考えられないようなことを提案してくる。
確かに今の我が国では不可能ではない。
それだけ景気も良く税収も潤っている。
しかし貧民がいない訳ではないのだ。
出来るだけ貧民からは税金を安くするよう工夫はしているが、それでも子供まで働かねば食べていけない場合もある。
そうしたら、各貴族領に援助を出してでも文官を増やし、貧しい家族には国家が援助を出し教育は受けさせろと言う。
そんな事例はさすがに、どんなに時代をさかのぼっても前例は無い。
しかもその財源をどうするのか。
そう言ったら、規格外の妹は少し考えて、グレイシアの病を治したドラゴンのいる一帯を自分の領地に欲しいと言いだした。
それは全く構わないが、それと財源とどういう関係があるのか。
そう思っていた3日後。
ドラゴンのいる森の近くに、金鉱を見つけたと言う。
しかも複数。
開いた口がふさがらないと言うのはこのことか。
財源はお前に言えばいくらでも出てくるのか。
早速、森を伐採して鉱山技術者を集めて… そう思ったら伐採までは自分がやっておいたと言う。
いい加減にしろ。
どこの世界に土木工事をする公爵夫人がいるんだ。
だから育児も乳母任せになるんだぞ。
何でも、元の世界ではグリフォンと言うのは伝説の生き物で、金を守っていたらしい。
あそこにあれだけグリフォンがいたので金鉱があるのでないかとは思っていたと言うのだ。
思っていたら言ってくれ。
そう言ったら、あの山脈にも水の魔石がたくさんあるとか、北側のレオダニスとの国境付近には火山があって、そこには火の魔石が取れるだろうとか、王都近くにもまだミスリルの鉱脈がありそうだとか……
私はどうしたらいいのか、誰か教えてくれ。
そんなにたくさんの鉱山を一度に開発などできない。
優先順位を付けるから、未開発鉱山をリストにしてくれと言ったらめんどくさいとか何とかいいながらも2週間程で国中をまわったらしく、地図にはびっしりと魔石や魔法金属や、通常の石炭鉄鋼の鉱山が書きいれてあった。
地図の下のわずかに隙間に「義務教育をよろしく」との文字と共に。
確かにこれだけの財源があれば義務教育どころか税金の免除も可能かもしれない。
----しかし、それではいつか国が立ち行かなくなる。
教育は、未来へ種をまくことだ。
きっと数年も経たないうちに芽を出すだろう。
鉱山の利益に頼ることなく義務教育を施すことが可能になる。
グレイシアやリディアの言うことは、皆未来のための布石だ。
私は、今後この国に何かあった時のために、このリディアの作った「宝の地図」を厳重に保管することにした。
最初の義務教育の財源は、リディアの領となった金鉱からの分で十分だ。
きっとその教育をうけた者の中から、次代の財源を捻出できる文官が出るだろう。
ああ、この国の将来が楽しみだ。
しかし、金鉱を開発するにあたり、あの辺りに街を作らなければならない。
しかもあの辺りは、猟師村がわずかにある程度の寒村だ。
そこをリディアが大掛かりに開拓すると言う。
中央の穀倉地帯に負けない耕作地にするというのだ。
しかも水田を考えている様子。
そうはいっても水路の問題もあるし、耕作は簡単ではない。
そう嗜めたら、あの山脈を流れる水は件の水竜が司っていると言う。
と言うことは何か?
苦労して水路を作らなくても、リディアの魔術で川を作ったらそこに竜が水を流してくれると言うことか。水竜の司る川なら氾濫もないと言うことか。
呆れてモノも言えない。
仕方なく鉱山技師と労働者をつのり、現地に大規模な耕作地帯が出来る予定なので、そっちが整ったら鉱山の方でなく畑の方で仕事をしてもらっても良いと言うことで募集を掛けた。
リディアの城下での人気は凄まじい。
リディアの領だと言うだけで人が集まる。
きっと街が出来るのもすぐだろう。
建築士も集めて、大工作業の出来るモノを必要だろう。
---材料はきっと現地で公爵夫人自ら木を切ってくるに違いない。
本当はあんな遠方でなく、もっと近くの便利のいい街をリディアの領にして、出来の悪い貴族を転封するつもりだったのだが。
ドラゴンがいると言うから仕方ないのか。
あの紅竜にも同族が必要だろう。
----そう思っていたら。
リディアの頭の上に乗っている竜が増えていた。
透明に近い青の鱗の小さなドラゴン。
これが、リディアが助けたと言う水竜の子か---
リディアはその水竜の子に『リーちゃん』と言う名をつけていた。
フルネームはリヴァイアサンと言う幻獣だと言う。
---フルネームの方はともかく、その略称の方は何とかしなさい。
しかも頭や肩に二匹も竜を乗せて外を歩くな!
本当に悪目立ちして仕方ない。
子供たちもすでにドラゴンに慣れて、仲良くあそんでいる。
紅竜はさすがにもう子供の扱いがうまく、ちょうどいい大きさに変化して、背に乗せたり低空を飛んでみたりしてくれている。特にリーンハルトとアルフォンス、ディートハルトは大喜びだ。さすがにクラウディアは竜に乗ったりまではしないらしい。サーシャはまだ歩けないしな。もっぱら紅竜が咥えて運んでやっている。
----リディアは子守りまで竜にさせているのか。
子供たちと言えばリーンハルトとサーシャの縁談を進めたいのだがグレイシアの反対にあっている。これ以上ない良縁だと思うのだが---
いや、これも将来の楽しみだ。
これだけ毎日一緒に遊んでいるのだ。
楽しみにしても良いだろう。
リーンハルトはもう6歳。
そろそろ立太子の儀をしても良いだろう。
後継ぎの問題は早く解決しておくにこしたことは無い。
幸いリーンハルトは利発で、あの年にして思慮深い所がある。
-----性格がリディアに似てしまった4歳のディートハルトのフォローに回っているせいもあるだろうが。
ディートハルトは顔立ちや髪の色はロディに似ているのに、瞳の色と性格はリディアに似てしまったようだ。
早めに魔力の測定をした方が良いかもしれない。
…とんでもない魔術を放ってしまう前に。
こまごまとした憂慮はあるものの、この国は繁栄の一途を辿っている。
私は、将来が楽しみでしかたない。
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