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軋轢魔法少女イリーガル・ストライプ  作者: 井土側安藤
幸せになりたい人達
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弐拾陸――覚醒・変質

 体が軽い。体操服のジャージの形をしていると言えどこれは鎧。機械の鎧なのだ。内側にもびっしりとよく分からないぴかぴか光る機械がはっ付けてあったりと、それを羽織っているのだから重たいはずだ。だが、不自然なほどに、私の体は軽かった。まるで何も着ていないかのように。スパッツだけの下半身がスースーする。


「………………」


 そう思うと本当に着ているのか少し心配になって確認してしまう。アイツ等の事だからもしかしたら私にしか見えないようにしていたりしないだろうかとか邪推しながら、私は夜の街を走っていた。

 雲一つない。月が闇夜を映し出していた。


『……――ナ、…………リョウナ、聞こえるか』

「ん、聞こえるわよ」


 耳に取り付けたインカムから洋の声が聞こえる。

 私の周囲の状況に合わせて、洋が逐一ある程度は指示してくれるらしい。私としてはとても心強い。今まで何十年間も逃げ続けてきたかいあって、戦う事には慣れていたが、あくまで逃げる為のものだった。こうして戦う為に戦う事は初めてだから、傍に誰かいるという感覚は心細さを埋めるにはもってこいだ。


『この近くには三人いる。気を付けろ』

「分かった」


 人気のない、明かりもない夜の街。私達を照らすのは星空と月光だけ。サブマシンガンのライトで足元を照らしながらビルとビルの間の路地を進んでいた。


『来たぞ』

「――ッ!!」


 私がそう考えると、足の筋肉に尋常ではないほどの力が入る。足だけではない、体中の筋肉が、自分のものとは思えないほどに熱くなっている。力が入る。

 研ぎ澄まされた感覚が……敵の居場所を知らせていた。

 上だ。


 私のいた場所に、音速の速さで鉄骨が突き刺さった。

 まだ来る。その場から飛びのいてビルの壁を掴んでその場に留まっていたそこに、鉄骨が飛来する。砕け散る鉄筋コンクリート。

 私の動きを追うように何本も現れる鉄骨を、中空で私はキャッチした。

 まるで、空気に足が付いているようにその場で自身の体を軸に鉄骨を振り回し、追撃は全て迎撃。


 分かる。見える。どこから来るのかが手に取るように分かる。


 次々と落ちてくる鉄骨を避け、拳で弾き飛ばしながら前方へ駆け出し敵影を探す。この暗闇だ、どこかに隠れて影から私を狙っているのだろう。


 出来上がっていく鉄骨ハリネズミを背景に、遂にビルの隙間から抜け出した。異常なくらいに青白い月の光が、眩しく目に刺さる。

 敵はいない。やはりビルの中?


「だとしたら……全部ぶっ壊す!! いいわよね!? 洋!!」

『ああ、どうせもうあいつ等の攻撃でボロボロだ!!』


 拳に力が……今までのものとは比べ物にならない程の剛力が込められ、収束を始める。

 何かとてつもないGに引っ張られていく体を前へ、前へと無理やり押し出す感覚。

 足を地に縫い付け、膨張する筋肉。

 腰に据えた右拳を今一度握りしめた。

 星の光が、月光が、私の拳に収束していく。強風も空気も熱も何かもが収束し、そして、全ての重力を解き放った。


 突き出された右拳から前方にある全てを、あらゆる全てを吹き飛ばすべく力学的エネルギーをぶっ壊した衝撃波を熱量と烈風を伴って駆け抜けた。




 紙粘土のように崩れ去るビル。

 そう、これはあらゆる全てを破壊する圧倒的で壊滅的な力。

 しかしただ一つ、絶対に壊せないものが存在した。


「成功……ね」


「な……にが、起きた? あ、あれ……? 裸!?」


 崩れた紙粘土の上でポカンとする裸の少女。その身に纏っていたはずの鎧はビルと同じく崩れてなくなっていた。

 指定した概念を除いてそれ以外の全てを破壊する力。私の曖昧な精神に影響して軋轢魔法が変質したのだ。ちなみに、さっきのは人間を指定していた。


「じゃあ、そこでちょっと眠ってて」

「え? あ……」


 裸の少女に当身をして、紙粘土の上に優しく寝かせた。


『どうだ、感想は』

「正直、自分でも驚いたわ……こんな事ができるなんてね」

『”破壊”という概念を最大限に引き出し力として放出する軋轢魔法の特性を、魔術で作られた魔導アーマーが更にその意味を増幅させた結果だ。そこまでのアホみたいな威力が出たのは、リョウナの精神性が曖昧な事も起因しているだろうな。』

「それって褒めてる?」

『ああ』

「へへ……」

『照れてないで次だ。できるだけ多く無力化して、来るべき時の布石にするんだ。アイツとの戦いは一対一でないと不利だからな』


 アイツ、と洋は無理に名前を伏せて言ったには私は気が付かないはずがなかった。

 きっと、いや絶対に、還崎洋の妹である還崎(かえざき)哉江(かなえ)の事だ。

 私に今の洋の心の中は分からない。ただ一つだけ確かなのは、私がやらなければいけないという使命感。あくまでこれはただの私の自分勝手だが、このままでいいはずがないのだ。

 許せないのだ。

 失っていいはずがない。

 何よりも大切な、それがある者にとって一番近くにいる存在。

 それをただ諦めて見捨てるなんて、絶対に許せない。

 それを他人に任せるなんてもっと許せない。

 だから、私が哉江を洋の前に引っ張り出して、その上で文句を言ってやるんだ。お前の妹なんだから自分で助けろや!! と。

 洋ならまだ、間に合う。


『待て止まれ。近くにいる』

「………………」


 人のいない幹線道路のど真ん中、まったく姿を隠す事無く『ソイツ』は現れた。

 体にぴったりとくっついた、白を基調とし袖の端に赤い線が二本入った体操着。その所々に漆黒色の外殻が取り付けられ、淡く青い光を放っていた。腕には同じく漆黒色で淡く光る肘から手の全体まで隠す籠手を嵌め、下は体操着の半ズボン。


「還崎、哉江――」


 その拳で敵なる者を打ち砕く、鬼神の如き少女が、私の前に立ちはだかった。

魔術図鑑

デミウルゴスの槌・(くろがね)

 この世界に存在する金属製の物質の中から指定したものを、質量・形状・大きさ等を設定してその通りのものを無から創造する魔術。魔導アーマーに補助されているからこそ発動可能な、ゼロから物質を生み出す神の領域スレスレの魔術である。

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