第十章 ファイナルアクト
光が晴れた瞬間、
スフィアの前には──
ルナとルミナが並んで立っていた。
二人の身体からは、
これまでとは比べものにならないほど澄んだ光が溢れている。
ルナは気まずそうに頭をかいた。
「……迷惑かけた、スフィア」
スフィアはため息をつきながらも、
どこか安堵の色を浮かべた。
「本当よ……でも、戻ってきてくれてよかったわ」
二人の纏う光を見て、
スフィアは目を細める。
「……その力なら、後は任せても大丈夫ね」
ルミナは深く頷いた。
「スフィアさん……エルフの里のみんなをお願いします」
「わかったわ」
スフィアは振り返り、
里へ向かって駆け出した。
その時──
前方から、
黒い靄をまとった“魔王サン” がゆっくりと歩いてきた。
空気が震え、
大地が低く唸る。
存在そのものが“異質”で、
近づくだけで周囲の魔力が歪む。
ルナは剣を構え、
一歩前へ出る。
「サン……すぐに楽にしてやる」
剣が振り下ろされた瞬間、
眩い光が舞い散り、
サンは素手でそれを受け止めた。
衝撃波が爆ぜ、
周囲の木々が一斉になぎ倒れる。
ルナは精霊王の力に振り回され、
制御しきれずよろけた。
その隙に、
サンの黒い靄が横薙ぎに弾け、
ルナの身体を吹き飛ばす。
岩壁に叩きつけられたルナは、
息を呑んだ。
ルミナは一歩前へ出る。
「……私だって!」
ピアスが強く光り、
魔力が溢れ出す。
「──極大魔法!」
炎の竜巻がサンを包み込む。
「できた……!」
続けて、
ルミナは両手を掲げた。
「極大魔法!」
風の竜巻が炎を増幅し、
巨大な火柱となって天へ伸びる。
さらに──
「極大魔法!」
雷鳴が轟き、
巨大な稲妻がサンへ落ちた。
炎と雷の渦が吹き飛び、
大地が抉れる。
その中心に──
膝をついたサンの姿があった。
ルナは剣を握りしめ、
サンへ歩み寄る。
「……終わりだ」
だが、
サンの紋章は胸から消え、
額へ移動していた。
魔王印と重なり、
黒い靄が渦を巻く。
ルナが剣を振り下ろすと──
見えない力に弾かれた。
靄が晴れる。
そこに立っていたのは、
サンの姿をした“何か”だった。
髪も瞳も真っ黒に染まり、
肌は灰色。
その口元がゆっくりと歪む。
次の瞬間、
サンはルナの目の前に移動していた。
ルナが剣を振るうが、
すべてかわされる。
「……未来視……なのか……?」
ルミナが魔法を構える。
だがサンは、
まるで知っていたかのように手をかざした。
重力がねじれ、
ルミナの身体が地面へ押し付けられる。
魔力が軋むような圧が走り、
ルミナは息を呑んだ。
ルナが叫ぶ。
「……重力まで……!」
サンが手を振ると、
ルナは弾き飛ばされ、
ルミナの近くへ倒れ込む。
二人はしばらく見つめ合った。
ルミナが震える声で問う。
「ルナ……どうしたの……?」
ルナは静かに呟いた。
「……ごめん」
そして──
ルミナのピアスを外し、
自分の耳へつけた。
「だめ……!
ルナの身体じゃ耐えられない……!」
ルナは微笑む。
「いいんだ。
俺も……女神の歯車なんだろ。
それに……サンを一人にするのは、可哀想だろ」
ルナの身体が光を放ち始める。
剣も同じ光を帯び、
空気が震えた。
そして──
ルナの身体の奥から、
不吉な軋みのような音が響いた。




