第七章 コントラスト 8
ルミナは裂けたドレス――いや、鎧を抱えながら尋ねた。
「この……服、いつ治りますか?」
ギルド長は腕を組み、少し考え込む。
「素材がほとんど流通してないレア物だからねぇ……」
そう言いながら、ふと何かを思い出したように指を鳴らした。
「……あ、そういえば私の手持ちがあったわね」
ルミナの目がぱっと開く。
ギルド長は微笑み、軽く肩をすくめた。
「この依頼が終わったら取りに来なさい。
それまでに直してあげる」
「ありがとうございます!」
ルミナはその鎧をギルド長に渡し、深く頭を下げた。
サンは立ち上がり、軽く伸びをする。
「よし、行くぞ」
アリスも立ち上がり、扉へ向かう。
だがその時、ギルド長が声をかけた。
「ちょっと、ルミナ。いいかしら」
サンは振り返り、軽く手を振った。
「下で待ってる」
アリスも「ゆっくりでいいからね」と言いながら扉を閉めた。
部屋に静寂が落ちる。
ギルド長はルミナをじっと見つめ、
ふっと優しく微笑んだ。
「あなた、杖……持ってないでしょ?」
その一言に、
ルミナの肩が小さく震えた。
返事はなかった。
ただ、ゆっくりと視線を落とす。
――道具屋で門前払いされた日のことが、
胸の奥にじわりと蘇る。
悔しさ。
惨めさ。
“持つことすら許されない”という現実。
ギルド長はその沈黙の意味を理解したように、
そっとルミナの頭に手を置いた。
「ちょっと待ってて」
そう言って奥へ消える。
静かな時間が流れた。
やがて、
ギルド長は一本の杖を抱えて戻ってきた。
その杖は、
淡く、静かに光っていた。
まるで呼吸しているかのように。
「私のお古だけど……使って」
ルミナはそっと杖に触れた。
その瞬間――
胸の奥がじんわりと温かくなる。
懐かしいような、帰ってきたような、不思議な感覚。
耳元で、
ピアスが“チリ…”と微かに鳴った気がした。
「ギルド長、これは……」
ギルド長は優しく首を振る。
「世界樹の杖よ。
それに、貸したわけじゃないわ。
……全てが終わったら返しに来なさい。
必ず、生きて」
その声は強く、
けれどどこか寂しげだった。
そして、いたずらっぽく微笑む。
「それとね。
私は“ギルド長”って名前じゃないのよ。
ソフィア。覚えておきなさい」
ルミナの胸が熱くなる。
「……ありがとうございます……ソフィアさん!」
その目から、
ぽろりと涙がこぼれ落ちた。
ソフィアはそっとルミナの頬を拭った。
「ほら、サンが待ってるわよ」
ルミナは深くお辞儀をし、
杖を抱えて走り出した。
扉が閉まる。
ソフィアはその背中を見送りながら、
静かに微笑んだ。
「……たしかに、お返ししましたよ……
どうか……どうか……
ルミナを守ってください……」
その呟きは、
誰にも聞こえないほど小さかった。
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