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【回想】視界の隅の彼女は淑やかな『世界』

 教師が教壇に上がると生徒たちは期待の眼差しを向けていたが、シンだけはやる気の無い表情をしていた。前回の授業でもう出ないと心に決めていたが、しっかり席に着いていた。


「サボりたいけど留年したくない」


 机に突っ伏すシン。前の席にいる長身の生徒で教師からは影になっているが、案外寝ていると見つかる。教師は教卓に手をつき、身を乗り出した。


「さあ皆が楽しみにしていた、タロットを学ぶ時間がやってきたぞ」

「「「おおおおお!」」」


 教室が沸き立ち、教師は元気な返事に頷く。


「はいじゃあ起立!」


 皆からワンテンポ遅れてシンはノロっと立ち上がる。


「「「よろしくお願いします!」」」


 教師は生徒たちを座らせると、チョークで黒板に書き込んでいく。


「今日はこれ、シャッフルのやり方を説明するぞー。シャッフルっていうのは知ってるな? 皆が持つ能力を発動するときの文言だ」

「実技でやりたかったなあ!」


 フウが大きな声で言う。


「それは外でこっそりやりなさい。皆が学校で怪我したら先生クビになっちゃうから」

 生徒のためでなく、教師はあくまで保身のために止めた。

「河川敷とか公園とか、大抵の所はシャッフル禁止って張ってあるよな。場所無いんだけどー」


 ブーイングするフウは放っておいて、教師はチョークで書き始める。


「はいはい始めるぞ。タロットは二十二のアルカナに分けられる。アルカナはそれぞれ四大元素の風、水、地、火のいずれかの要素を含んでいる。シャッフルを発動すると自分の元素を纏うことができる。それじゃあフウ! お前のアルカナと四大元素を言ってみろ」

「俺はアルカナが愚者で、四大元素は風!」

「はい正解。次にシャッフルの発動方法だが――」


 すらすらと黒板をチョークでなぞる音が聞こえる。


「発動したい布陣の名前、その後に『シャッフル』と声に出して唱える」


 黒板はすぐに消され、次の文字が書かれていく。


「布陣がよく分からない人もいると思うので、今日は一番簡単なワンオラクルについて説明するぞ。これは、最低一人いれば発動できる。ワンオラクルの後にシャッフルって唱えれば、自分の四大元素を纏うことができる。二人以上いる場合は、ややこしくなるから図を書くと――」


 そう言って今度は図を書き始める。


「これ人に見えるよな? な? フウ」

「…………はい!」

「なんだその間は! ははっ」


 クラスが笑いに包まれる。


「ここに五人の人間がいる。この五人でワンオラクルを発動すると、選ばれた一人だけ前の方に瞬間移動する。その後ろに、残りの全員が集まるように瞬間移動する。ツーオラクルやスリーオラクルもあるが、選ばれるのが二人、三人になるだけだ。布陣には数字の入ったもの以外にも複雑なものもある。はいじゃあここまでで分からない奴――――」


 教師が片手を挙げて教室を見渡す。そしてだんだん雑談に反れ始め、シンはうつらうつらと船をこぎ始めるのであった。

 次に突っ伏したまま意識が浮上したシンは、授業中に寝ていたことに気づく。あまりにも静かなことに気づき、おかしいと思って顔を上げる。


「……ん? いない」


 教師も生徒も、教室に誰一人いない。立ち上がり、皆を探しに廊下に出ようとドアを開くと――全員廊下に立って、笑いをこらえながらシンを見ている。真顔になるシン。廊下に響く大爆笑。近づいてくるテイ。笑いすぎて涙を拭いている。


「シンが寝てたから、先生がジェスチャーで皆に廊下に出てって。あーおもしろ!」

「やっちまった」


 皆の笑いものにされたシンは居心地悪さを感じ、頭を掻きながら教室に入った。端の方でいつもは大人しいトルカが、口元を押さえていたような気がした。

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