不良の奴は情に厚い『悪魔』
路地は不良が集まっていて、むせ返るような煙草の匂いが充満している。その合間を縫ってフウを先頭に六人は歩く。シンは独特の香りや物騒な会話に一々反応していた。
「金髪率高いな。俺が来てた時から数年しか経ってないのに随分チャラついて……」
他のクラスメイトには聞こえない声の大きさで呟くシン。
「あそこにいるのヒルだ。おーい!」
フウが手を振っている。落書きだらけの壁を背に、バイクに手を掛けながら仲間と話している少年。他の仲間より見た目が若い。黒っぽい服にチェーンがジャラジャラと付いている。
「ぁあ? 誰だてめぇ……はっ?」
ヒルは突然の呼びかけにメンチを切ったが、ここにいるはずのない顔ぶれに目を丸くした。
「よおヒル! ノワからのメッセージ見たか?」
片手を上げて挨拶をするフウ。その後ろにクラスメイト五人。
「なんでここにいるんだ、おい」
ヒルは質問には返事をせず、彼を睨めつける。
「ここ『唯一のスラム街』って呼ばれるくらい治安悪いんだぞ。俺らみたいな不良だけじゃない。やばい仕事の奴らも割と見かける。――――帰れ。お前らなんか良いカモだ」
フウを睨みつけるヒル。そうしていると、ヒルと一緒にいた年上の不良仲間たちがフウたちに近づいてくる。
「なんだこいつら、てめぇのダチかよ」
煙草の煙をフウたちに吹きかけてくる青年。
「はぁ、んな訳ねえだろ」
煙草をふかす青年の隣で、しかめ面をするヒル。
「帰る訳にはいかないんだ」
ヒルや年上の不良仲間と、フウの間に割って入るテン。背が低く見上げる形になるが、毅然とした態度をとっていた。
「メッセージまともに見てないから、事情を説明してくれ」
空は完全に夜の装いになる。冷たい風が路地の間に吹き付け、そこかしこから言い争う声が聞こえてくる。若者たちの夜はこれからが始まりの様だ。
「何があったか説明するよ」
テンがここに来るまでの経緯を話す。ヒルはその間、テンを睨み下ろしている。シンはヒルの顔をそっと盗み見る。
「……意外とまともに話聞いてくれるんだな。殴り飛ばされると思ってた」
シンがテイに耳打ちをすると、テイも小さく頷いた。
「――と言う訳なんだ。トルカとは連絡が取れないけど、身代金の電話も来ていないみたい。警察が動いてくれるような証拠写真が撮れたら通報する。それまでは僕たちでトルカの行方を追いたいんだ」
テンは真剣な眼差しでヒルを見る。全員がヒルをじっと見つめる。
「帰れって言うかな……」
シンが呟く。野良猫が彼らの脇を通り抜け、ゴミ捨て場を漁る。
「それは許せねえ話だ。奴らの仕業だな……。よし、お前ら。俺が連れてってやる。けどな。お前らは知らないだろうが『唯一のスラム街』はお巡りが近づきたがらない。通報しても来てくれるかは微妙だ」
ヒルの三白眼がぎらりと光る。
「そうか…………。よしっ、頼むぜ」
フウは覚悟を決めた顔をしていた。ヒルが頷く。
「ねえ、シン……」
か細い声でテイがシンに話しかける。
「なに」
「警察も入らないって聞こえたんだけど……」
「俺は最初に言おうとしたけどフウが……。この辺は警察も手が付けられないワルが多いから、呼んでも警察は来ないんだよ」
「大事なことじゃない! 早く言いなさいよ!」
「おいそこのカップル揉めんなよ」
ヒルがシンとテイを指さす。
「違うっ、私がシンの世話焼いてるだけ!」
「……」
シンは無言でそっぽを向く。
「どうでもいいや。とりあえずあっちに行けばいいから……」
「おい、ヒル。奴らホントにヤバいからさ……こんなの放っといて遊ぼうぜ」
ヒルと駄弁っていた若者の一人が彼の肩に手を置く。
「俺らの『唯一のスラム街』を荒らす大人たちをぶっ潰してくるから、お前らはついて来たくないなら適当に遊んでろ。んじゃ」
手をヒラヒラと振り、ヒルは路地を奥へと歩き出す。
「バイク置いてくのかよ。 ――勝手に使わせてもらうからなぁ!」
「免許持ってねえだろアホ! ……ったく」
ヒルはため息を一つつくと肩を回す。
「最近喧嘩も減ったからな。久しぶりにひと暴れできそうだ」
楽しげに路地の奥へと進んでいくヒルとは対照的に、他はガチガチに緊張していた。ただミカミは一言も発していないため感情は見えない。
「言っとくけど、四対七じゃなくて、四対お前だからな。俺らを戦力だと思うなよ」
シンは吐き捨てられたガムやその他諸々のゴミを踏んでいないか足の裏を確認しつつ、ヒルに念を押した。そして大勢の反感を買った。路地裏は徐々に建物が減り、廃れた雰囲気になる。
「建物少ないと暗くてあんまり見えないねぇ」
ノワは何度か躓きそうになる。
「今ごろ家で飯食ってるはずだったのに……今日は何時に帰れるんだろうな」
シンは誰ともなく聞いた。答えられる者はなかった。
建物はおろか、街灯の間隔も広くなっていく。所々木々が生い茂っていて、そろそろ街中と呼ばれる地域は終わりだ。その時、遠くに停車している車のライトが見えてきた。
「ねぇ誘拐犯の車かな。襲ってきたらどうしよう。……怖くない? 怖くない?」
テイは泣き出しそうな声でシンに何度も聞く。シンは腕に、しがみつくテイの温度を感じて平静を保つ。七人は警戒しながら、闇の向こうのライトを見ていた。




