友達はリーダーで『愚者』
車一台分の駐車場で、頭をくっつけて話し合う高校生の集団。
「ていうかフウ、さっき俺を庇っただろ。俺に格好つけてどうするんだよ」
シンは不満げに言う。
「それはお前が運動音痴な俺より運動音痴だからだろ? あと居眠りしてばっかりのお前がいざって時に力を発揮できる気がしなくて。少しでも強い方が、弱い方を守んなくちゃ」
「っかーっ! そういうのはさぁ……えーそういうのはさ……なんかさ…………もごもご」
納得いかないようにシンはぼやき続ける。
「――――なあシン、シンもそれでいいか?」
フウがまん丸い目で見てくる。
「…………? あ、ああ……うん。それは良い案だな」
焦った声でシンは返事をする。内容は知らない。
「じゃあ早速、トルカが連れ去られた方に案内してちょうだい!」
テイがノワの両肩を叩く。
「決定的な写真が撮れたら警察に通報する。これで決まりだね」
テンが両手を合わせて皆を見回す。
「えっ……そう言う話しだったのね……とほほ……」
「よっし! じゃあ道案内は頼んだぜ」
ノワに向かって真剣な眼差しを送るフウ。
「おっけぇ」
ノワの返事は間延びした調子を取り戻していた。ノワが急ぎ足で大通りまで出て、その後を五人が追う。通りへ出ると、しばらく来た方向の飲み屋街とは反対に歩く。
「ここ、ここを入って行ったよぉ。これ以上は分からない」
ノワが指さした方向は路地になっている。店の裏口が路地に向かって開いていて、各店の前にゴミが大量に纏められている。それから腐敗したゴミの匂いがして、そこに羽虫が集っている。
「ここって『唯一のスラム街』じゃないか……だから警察は……」
シンが喋っている途中で、「今さら行かないは無しだぜ」とフウ。
「臭ぁ……やっぱり警察に……ふぇぇ汚い」
シンの背中に隠れるテイ。
「俺が一番先に行くから、お前ら着いて来い。シンは副リーダーだから一番後ろを歩けよ」
「りょ、了解」
初耳の副リーダーに驚くシン。並びはフウの後ろに小さいテン。その後ろにさらに小さいノワが必死に着いていく。その後ろは死神のマスクを付けたミカミ。そしてテイ、最後尾がシン。登山でよく使われる、体力が少ない者を列の真ん中に入れる方法だ。
「何でテイがこんなに後ろなの。女子は真ん中でしょ、危ないんだから」
「シンに庇われるなんて思ってもみなかった。一人じゃ心配なのよ。何にも一人じゃできないんだから。ノートも私のを写させてあげてるでしょ、宿題だって私のを見せてあげてるでしょ。それから……」
「でも宿題はテイが間違ってるからそれを写した俺も間違って、よく居残りになるだろ。押しつけがましく言うなよー」
「んーっ! もうバカぁ」
テイが列から逸れないように時々前を見ながら、シンに絡みついてくる。
「前向けって、危ない」
「あ、ネズミいた」
フウの一言にテイが肩をこわばらせる。
「守られるべきはテイだと思うんだけどね、俺は」
シンはそういうが、ネズミを必死に探すテイには聞こえていない様だ。そのうちに野良犬や野良猫たちが多く通るようになる。日は傾き、夕日の柔らかい光は路地まで届かない。
「ねぇフウ、どっち行けば良いか分かってるのぉ?」
ノワが質問する。
「いや、適当だけど」
「おっけぇ。見つかるといいねぇ」
「そうだね、見つかるよきっと。『運命の輪』のノワがいるんだから。運命が僕たちと彼らを引き寄せてくれるはず」
テンがノワを振り返りながら言う。
「ノワって他の『運命の輪』より引き寄せ力が強いのかな」
シンがテンの背中に話しかける。
「確かにね。良くも悪くも強い。けど今回のは良い運命を引きつけたんだと思うよ。だってトルカが連れ去られる瞬間を見たんだから。早く助けに行ける」
「そっか……てっきり私が悪い運命を引き寄せちゃったから、トルカが誘拐されたんだと思ってた」
ノワは下を向いていた。その前方では、フウが頭を掻いている。
「うげえ、見つかんねえよ」
日が沈んだ後は急に暗くなり、路地裏はガラの悪い若者で賑わい始める。
「どこ行きゃあいいんだ……って、いた!」
叫ぶフウの声に列から顔を出すと、目の前の袋小路に誘拐犯の車と同じ色と形状――ノワから教えて貰った――の車が止まっているのだ。
車は突然バックで走り出す。慌てて端に寄る六人。車は鼻の先を掠め、分かれ道が出るまで下がると左に曲がって猛スピードで走り出した。
「あ、あっちだな……」
フウは息を荒くして壁により掛かり、心臓のあたりを押さえながら顎で路地を指す。車を避けるのに必死で、誰一人として車の中を見ていない。そのため誘拐犯に気づかれたかどうかも分からなかった。
日が完全に落ちた路地裏は街灯に照らされ、夜だというのに蒸し暑く、至る所からゴミの異臭が漂っていた。




