美女と戦う美少女は『女帝』
「ワンオラクル、シャッフル! 俺も岩属性だああああ!」
パンクファッションのヒルは、ズボンに付いたチェーンを鳴らしながら飛び出す。
朽ちたレンガ塀の路地裏。街灯一つの明かりが、その場を限定的に照らしている。
ヒルは強烈な頭突きをマッチョ男に喰らわせる。岩属性の彼は言葉どおり石頭だ。男はコンクリートに尻を打つ。
一方、先程首に蹴りを食らったシンはゆっくり体を起こす。
「頭割れそう」
隣には包帯が巻き途中で放置されたフウと、近くで丸まっているノワ。そして先ほど食らった攻撃からなんとか体を起こしたテンとミカミが地面に座っている。
マッチョ男がゆらりと立ち上がる。
「てめぇを見るも無惨にしてやる」
額に青筋を浮かべ、屈辱に震えている。男はシャッフルを唱えることもせず、ヒルに殴りかかる。岩属性を纏ったヒルの拳と衝突。拮抗している。ヒルはなんとか男の拳をいなす。
「っだあ! タロット使わないでこの力かよ!」
ヒルが叫ぶ。その戦いの背後から、デスメタル男がシンたちの方へ歩いてくる。
「残りは俺がぶっ潰す! 一人でも残したら俺があの人に殺されんの?」
デスメタル男はちらりと後ろのハーフ女に聞く。
「よく分かってるわねぇ!」
「ワンオラクル、シャッフル!」
唱えながら勢いよく飛び出してくるデスメタ男。急いで立ち上がるテン、ミカミ、そしてシン。身を固くするテイ。そのとき、パサッと布が落ちる音。全員が一瞬視線をやると、モヒカン男のズボンが足下に落ちていた。男はその裾を踏んでしまい、下はパンツ一枚で前につんのめる。
「うおあっ」
「はあっ?」
ハーフ女が目を見開く。モヒカン男は転ぶのを耐える。
「ベルト締め忘れた! 取りに行ってくるから後は任せたぜ! 帰りは車で来る! うおおおお久しぶりに走ったあああ脚しんどいぜぇ――――」
モヒカン頭のデスメタル男は走り去る。
「……は、はあああっ? だからてめぇとは組みたくなかったんだクソがああああ!」
ハーフ女の咆哮が路地裏に響く。その間、ずっとヒルは筋骨隆々の日に焼けた男と戦っている。
「どうやったらこいつら倒せるんだクソッ」
シンが掃き捨てる。残りの敵は二人である。
「早くトルカを連れ去った車を追わないと」
シンは蹴られた首が痛む中、踏ん張って立っている。ヒルと敵の拳がぶつかる音と、シン自身から発せられる荒い呼吸が聴覚を支配していた。
ヒルの岩属性を纏った拳は、空を切る音を立てながらマッチョ男めがけて放たれる。男のズボンがはち切れんばかりに膨張し、素早く跳ねる。対するヒルは浅い呼吸を繰り返している。
「っはあ、はっ……早く……くたばれ、よ……」
一方そのマッチョ男に先ほど殴り飛ばされたフウは座ったまま、崩れたブロック塀に寄りかかっている。体中に包帯が巻かれているが、頭からの出血がひどく、包帯が血でぐっしょり濡れている。ぼんやりした視線は、目の前のじり貧の戦いに注がれている。
「ワンオラクル、シャッフル!」
低い女の声。誘拐犯の一味、ハーフ女から発せられたものだ。水を纏った脚、切り裂くような蹴り。
「ワンオラクル、シャッフル!」
悲鳴のような声でテイが唱える。迫り来るハイヒール。思わず出たテイの手は、風を纏っている。手のひらを貫通するヒール。
「ひぎぃっ」
歯を食いしばるテイ。ヒールが突き刺さったまま、靴底を押し返す。しかし手から力が抜けていく。肘を伸ばし、全体重を手の付け根にかけて押す。
「テイっ!」
シンは声を上げ立ち上がる。しかし蹴られた首から手足に痺れが走り、倒れ込む。
「……っくそぉ、こんな時にっ……」
視界いっぱいに映るコンクリの地面。スニーカーを履いた足が戦禍へ飛び出していく。二人だ。顔を上げる。テンとミカミが、ハーフ女に飛びかかっていた。急いで蹴り出した足を引っ込めるハーフ女。ハイヒールが脱げ、素足で地面を踏む。テイは手に刺さったままのハイヒールを目をつぶって一気に引き抜く。
「んうああああ!」
そこから血が滝のように流れ、ふらつきながらフウやシンの居る塀際へ戻ってくる。
「水が……刺さる……刺さるから……」
そう呟きながら、塀に寄りかかる。ノワは慌てふためきながら、ミカミの放置した鞄を漁る。そして目当ての包帯を取り出すと、めちゃくちゃに巻く。
テンとミカミは、ハーフ女を前後から挟むように戦っている。テンは男だが金髪女より背が低く、動きも稚拙で全ての攻撃を喰らってしまう。一方のミカミは死神の仮面を付けたままで視界が狭いにもかかわらず、対等に戦っている。
「ただ家に引きこもってたとは思えないな」
シンは地面に突っ伏したままミカミを見ていたが、時間をかけて起き上がる。手足を動かしてみる。若干の違和感はあるが問題ない。しかし、目前の戦いはより一層激しさを増し、入る隙が無い。
「タイミング逃したな」
しかし座るとまた立ち上がれなくなる気がして、そのまま立ち尽くす。
「よっ」
「はあ?」
突然話しかけられたシンが素っ頓狂な声を出すと、見覚えのある人間であった。
「トワ!」




