♯44 買い物と昼食
すいません買い物で一話使ってしまいました。
「マサトさん。これなんかどうでしょう?」
アルとギルド前で別れてから一時間。
この店に着いてから約五十分。
俺はすでに心身共に疲れ切っていた。
ティーナ達に連れられ水着を扱っている店に来るまではまだよかった。
「楽しみですね」とか、「どんな水着があるんでしょうね?」など言っているティーナ達にただついていけばいいだけだったのだから。
問題は水着を扱っている店に来てからだった。道から見た店の雰囲気は普通の洋服店だったのだが、水着売り場が店の一番奥にあり、その途中どうしても、下着売り場を通らないといけないようになっていたのだ。
それだけならまだよかったのだが、あろうことか、水着を買いに来たはずのティーナ達が
可愛い下着を見つけたらしくそれを持ってきて、「マサトさん、これどうですか?」などと聞いてくるのだ。
これは何と答えればいいのだろうか? とても反応に困る。そんなわけで、なんと言えばいいのかなどと考えていると、徐々に聞いてきたティーナの目に涙がたまってくる。今ここで泣かれては困るので、とりあえず、「ティーナに似合うと思うよ」などというと「マサトさんのエッチ」と言われ、顔面を殴られたのだ。
これは俺に責任があるのか? どう答えればよかったんだ? 周りのお客さんからは、女の子を泣かせかけた男と認識されてしまったみたいで、冷たい目が俺に向く。
リーナ達からも「お姉ちゃんに何してるんですか?」等々言われた。結構ひどい言われようである。
これで、さらにリーナ達に同じような事を聞かれ答えても、答えなくても俺が悪いことをしている。そんな感じになってしまった。水着を買いに来たはずなのに俺は下着売り場で何をやっているのだろう。
と、まあここまでがこの店に着いて三十分程の流れだ。
ここまではまだいい方だった。
一通り下着を見終えたティーナ達は水着売り場に歩いていく。
さっきの一件で、変態というレッテルをはられた俺は近づいたら襲われる。などありもしないことを言われ、ティーナ達の半径五メートルには入ってはいけない、と言われてしまった。
俺はどうすれば正解だったのだろうか。
水着売り場に着いたティーナ達はそれぞれ水着を選び始めたのだが、ここにもまた問題が発生した。
ティーナ達が俺にいちいち試着して似合ってるか聞きに来ては、半径五メートルに入ったからと言って顔面を殴っていくのだ。
しっかり行っておくが、決して俺から皆の半径五メートルに入ったわけではない。
皆の方から俺に近づいてきたのだ。
理不尽な話だが、この場に俺以外このことを理不尽だと思っている人間はおらず。
今ではもう「理不尽だ」というのも諦めて、水着が似合ってるか聞きに来たら、「似合ってる」と返しておいておとなしく殴られることにした。
鏡では見ていないが、恐らく俺に顔は見るのも嫌なほどに腫れてしまっているだろう。
ああ、なんか泣きたくなってきた。
俺このままいったら将来シャルと結婚する可能性が高いけど、一生逆らえない気がする。
逆らったら、ティーナ達を読んで説教みたいなことになるのかな? そういえばうちの親父も母さんによく理不尽な事で叱られてたな。
こんな気持ちだったのかな? なんか会いたくなってきたな。会えないのは分かってるけどさ。
「マサトさん? どうかしましたか? 涙が出てますよ。よければこれ使いますか」
ティーナが顔を覗き込みながらハンカチを差し出してくる。ちょっと感傷に浸ってしまったみたいだ。
少し会っていない両親を考えただけでここまで涙が出るとは思わなかった。
ありがたくティーナの差し出したハンカチを借り涙をふく。
自分のハンカチもあるが……。まあいいか。
「ありがとう。少し両親を思い出しててな」
「ご両親……。ですか」
「ああ、遠くにいるんだけどな。ティーナはどうなんだ?」
「どう? とは?」
「両親と会ったりしてるの?」
「はい。結構仲はいいんですよ。違う国に住んでいるのでなかなか会えないですけど」
ティーナが笑顔で言う。
その笑顔が少しさびしそうに見えたのは俺の気のせいだろうか。
「そんな事よりこれ、似合ってますか?」
ティーナが今試着しているのは、水色と白のしましまのビキニだ。
「ああ、似合ってるよ」
俺はこの決まり文句を言った。
ティーナもリーナも、シャルも花音も全員かわいいので、ビキニが似合っていないなんてことはない。
俺はファッションセンスなんか全然ないし、元の世界では、そこまで服を選ぶのに時間をかけるタイプでもなかった。どちらかというと、服は着れたらそれでいいっていうタイプだった。
なので、一つの物を選ぶのになぜこんなに、時間をかけるか分からなかった。
「ありがとうございます。買ってきますね」
どうやら、ティーナはその水着を買うことにしたようだ。試着室と思われる所に入っていった。
すると、ティーナと入れ違いに今度は花音が来た。花音が今きているのは、黒一色のビキニだ。花音はもっと明るい色が好きなイメージだったのだが、黒は黒で意外と似合っていた。
「正人、どう、かな?」
上目づかいに顔を下から覗き込むような花音のしぐさに一瞬ドキッとしたがそんなことは顔に出さない。
花音は、スクールカーストトップに君臨していたようで、男子を扱いなれている。
前にその事で、「ビッチ」と読んだら、顔面を殴られた。
それ以降絶対に「ビッチ」と呼ばないようにしているが、ゲームが好きで、学校には通っているも、そんなスクールカーストトップとは縁のなかった俺からしたら、スクールカーストトップの女子は皆ビッチなのだ。
まあ、知らなかったとはいえ、一時期は(というか今もだが)ネトゲで交流があったことすら信じられない。
花音は男子を扱いなれているため、事あるごとに、俺をいじってくる。だから絶対ドキッとしたことは悟られたくなかった。
「うん、まあ、似合ってるぞ。可愛い」
あ、やべ。最後の一言余計だったか? ここでいつもなら、「何言ってんの?」と、冷めた目で見られるのだが、今日はそれがない。
どうしたのかと思い、花音の方を見ると、花音は顔を真っ赤にしてうつむいていた。
おかしな話だが、花音がこんなんだと、少し調子が狂う。
「ほら、とりあえず買ってきたら?」
これ以上花音がこんな調子だと、こっちが困る。
こんな花音もいいとは思うが、ここは店の中だ。
そして構図は俺が言った言葉により、花音がうつむいている状態だ。
近くで見れば花音の顔が赤いことが分かるだろうが、遠くから見ると、まるで俺が花音を泣かしたように見えなくもないのだ。
さっきまでも目立っていたのにこれ以上目立ちたくない。
「そ、そうね。じゃあ買ってくる」
花音はすぐに元の状態に戻り、試着室の方へ歩いていく。
周りの人から視線を感じる気がするが気のせいだと思いたい。
ティーナと花音は買いに行ったが、リーナとシャルはまだだ。
俺としては今すぐここを出て、早く別の場所に行きたいのだが、そんなことを言うと、怒られるので、絶対に言わない。
この店には女性ものの服しか置いておらず、待っている間に自分の服を見る。などという事は出来ない。自分の服を見ることが出来たら、この暇な時間をつぶすことができるのだが、残念だ。
ようやくリーナが試着室から出てくる。
その両手には、数々の水着がかけられており今までどれにするか悩んでいたことが丸わかりだ。
ようやく決めて、来たのかと思えば、どうやら違うらしい。水着を腕にかけたままこちらに向かってくる。
「マサト、この、白いのと、水玉のどっちがいいと思う?」
俺の目の前に来たリーナは真っ白な水着と、水色と白色の水玉の水着を持ち上げて聞いてくる。
やはりティーナとリーナの姉妹は好みまで一緒なのだろうか?
ティーナも水色と白だったな。
水玉のビキニも似合うと思うが、白の水着も似合うと思う。
「リーナはどっちが着たいの?」
俺に聞かれているのだから、俺が「こっちが似合うと思う」と、言うべきなのだろうが、正直どちらも似合うと思うので、俺には決められない。
リーナは俺が聞くと、「うーん」とうなって考え込んでしまった。
俺はこの時どういえば正解だったのだろう。
「決めた」
考え込んでから十秒もたたないうちにリーナは決めたようだ。
うじうじ悩まれても困るが、逆にここまで早いと俺に聞く必要はなく、自分で決めた方がよかったんじゃないかと思う。
「で、どっちにするの?」
「白の方にする」
どうやら白い方の水着に決めたようだ。
なぜそっちにしたかとは聞かない。恐らく、「なんとなく」という答えが返ってくるからだ。
数か月も一緒にいるとこういう時にどういう反応をするかが大体分かってくる。
「ちなみになんで?」
俺の後ろから声がする。
後ろを振り向くとそこには各々自分に合った水着を見つけたティーナ、シャル、花音の三人がいた。
ティーナと花音の水着は見たが、シャルのは見ていない。
ここで見たいと思うようになっているあたり、俺も徐々にシャルに引かれて行っているという事だろう。
「うーん。特に理由はないかな。なんとなく。それより皆、もう、買ったの?」
「かったよ」
俺の予想通りの答えだった。
リーナは皆が買ったのだと分かると慌てて、「じゃあ、買ってくるね」と言いのこし、他の水着を戻しに行った。
ようやく店から出られたのは、店に入ってから二時間後の事だった。
シャルに「どんな水着を買ったの?」と聞いたのだが、「それは海でのお楽しみですよ。マサト様」と返されてしまった。
残念だ。
「それで? これからどうしますか? 時間はまだありますが」
前を歩いていたティーナが後ろを振り返り俺の方を見ながら聞く。
前には女子四人が歩いていて、後ろから俺がついて行っているので、必ず後ろを向けば俺がいるのだが。
「じゃあさ。そろそろお昼だし。お昼ご飯食べない?」
ティーナの質問に答えるように花音が言う。
それが一番いいかもしれない。事実俺の腹はさっきから「腹が減った」と悲鳴を上げている。
「そうですね。そのあとは、マサト様の服を見に行きましょう」
話に出てこなかったので「今日は俺の服を買う必要がない」と安堵していたのだが、どうやら
それはなさそうだ。
「そうですね」
「そうだね」
皆はもうすでに乗り気みたいで食事の後に俺の服を買うことが決まってしまった。
気のせいだといいのだが、俺の服選びの時、俺は着せ替え人形のような状態になりそうな気がした。
絶対に嫌なのだが、今の俺の状況は、四対一で圧倒的に不利だ。
この状況で反論しても絶対に四には勝てず、押し切られ、着せ替え人形にされてしまうだろう。
自分の服を選ぶのに、自分が選べないかもしれないのは残念だ。
こうなったら昼食の時に少しでも休憩しておかなければいけないな。
王様との食事まであと五時間ほど。
どうやらさらに疲れることになりそうだ。
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