第1話 友だちになりたい
季節感ゼロですが、友だち作りに苦労したお話です。
昭和57年4月。桜はとっくに散っているのに、校庭の空気だけは、まだ入学式の日のきまり悪さをひきずっていた。
高校に入って一週間。もう、クラスにはいくつも「仲良しグループ」ができあがっていた。教室のあちこちで、机が自然にくっつき合って、笑い声のかたまりができている。 まだ、どこのかたまりにも入れていないのは、たぶん私だけだった。
このまま友だちができなかったら、この一年はきっと地獄だ。そう思うと、朝ホームルームに向かう足取りが、日ごとに重くなる。
同じ中学出身の子は何人かいる。ゆかり、いくこ、きみこ。顔を見れば名前が出てくる程度には知っている子たちだ。 でも私は、もうその輪に入ることはあきらめていた。 中二のときに同じクラスだったゆかりとは、そこそこ話す仲だったはずなのに、あの「事件」以来、私が挨拶をしても、彼女は聞こえなかったふりをするようになった。
いくこときみこにいたっては、中学で同じクラスになったこともない。向こうからすれば、ただの「同じ中学の知らん子」だろう。
黒板の上の時計の音だけがやけに大きく感じる四時間目。私の斜め前の列から、明るい笑い声が弾けた。
「ひろみ、声おっきいって。隣のクラスまで聞こえてるで」
からかう男子の声に、また笑いが重なる。
ひろみ。別の中学から来たらしいその子は、私の視界の端で、いつも楽しそうに笑っていた。 背は高くないのに、教室のどこにいてもすぐに見つかる。まっすぐなストレートのサラサラ髪が、蛍光灯の光をきれいにはね返しているからだ。
くせ毛で剛毛の私にとって、それはそれは憧れの髪だった。
ひろみの笑い声は、本当に隣の教室まで聞こえているのかもしれない。そんなふうにからかわれても、彼女はむっとするでもなく、「えー、そんなん言わんとってや」と、また笑いながら返す。
そのおおらかさと、くったくのない笑顔。見ているだけで、胸のあたりが少し温かくなるような女の子だった。
ひろみのとなりには、いつも数人の女の子がいる。その中にいるショートヘアの子が、あきえだ。通称アッキー。実は私と同じ中学出身だが、私が挨拶をしても返した試しがない。理由はわからないが、単に私のことが気に入らないのだろう。剣道部で県大会で上位入賞したことは,中学のときの学校だよりで見たことがある。日に焼けた肌に、くりっとした目。色は黒いのに、顔立ちは整っていて、男子の間ではかなり人気があるらしい。
そして、ひろみのもう片側には、いくこときみこ。こちらはいかにも「幼なじみの親友」といった雰囲気で、二人並んでいる姿を見ると、間に割り込む余地なんてないように見える。
同じ中学出身同士で固まっているグループも、いくつもある。
休み時間になるたびに、廊下から「久しぶり」「中学のときさあ」といった声が聞こえてきて、私は内心でいらいらしていた。
せっかくいろんな中学から集まってきているのに、どうせならもっといろんな人と話せばいいのに。袖すり合うも他生の縁って言うでしょう。
心の中でそう毒づいてみても、私自身が誰とも袖をすり合わせていないのだから、説得力なんてない。
まずは友だちをひとりでも作らなければ。クラブなんて、それからでいい。
私の頭の中は、ほとんどそればかりになっていた。
そして、いつのまにか私は、心の中で「狙い」を定めていた。
ひろみと、友だちになりたい。




