第2話:勇者死す。〖レン視点〗
2022.2.25…ナイチンゲールの容姿について追記
………翌日。
寂しさのあまりほとんど眠れないまま朝を迎えてしまった………
「………。」
『レン様。』
「…なぁに?ナイチンゲールさん。」
『護衛も兼ねて私が居たのですが、それでもやはりダメでしたか。』
「…うん。ごめんなさい、ナイチンゲールさん。
あなたの事は信頼しているし、実際あの女達を部屋に入れないでくれていたから感謝はしてるよ…?
だけどやっぱり、ボクはもうお兄ちゃんのぬくもり無しではグッスリ眠れなくなっちゃったみたい。」
『…そうですか。
お望みであれば睡眠剤を投与致したのですが……
ナイチンゲールさんは金髪碧眼で長い髪をツインテールに纏めている、幼いながらも綺麗な顔立ちをした正に天使、と言った見た目をした女の子なんだ。
だけど天使だって言われるのは嫌みたい。
だけどそんな姿で医療奉仕していたらすぐに天使扱いされちゃうよ…?
「あはは…昨日の夜もそう言ってくれたね。
ありがとう、だけどやっぱり、お兄ちゃんのぬくもりには敵わないかな……あふ……んぅ………
『…大きな欠伸ですね。
寝不足による集中力と判断力の低下の恐れがあります。
…それでも、行くのですね。』
「うん。ボクは………死ななくちゃいけないから。」
『……従軍看護婦として、多くの【死】を見送ってきた私からすれば、貴方のその“覚悟”は到底許容出来るものではありません。
私の信条を曲げたくもありません。
ですが…貴方はあまりにも幼い。
せめて、苦しまぬよう、痛みを感じなくする薬を投与致します。
…本来であれば、『痛みは、生命活動の証です。』と言いたいところですが。』
「ありがとう……でもね、ボクは生まれ変わるために死ぬんだ…♪
だからね、怖くないよ!」
『…。』
(痛ましいですね。
【勇者】、などというシステムが、幼子をこうも追い詰めるものならば。
そんなものは無くなれば良いのに。
強制的に【勇者】にさせられる、そんな非人道的なシステムなんて。)
…お兄ちゃんが言うには。
英霊、【癒す者】として顕現している彼女は基本的には死を忌避する傾向にある…らしい。
なら何でそんな英霊さんをボクの護衛として残したのかな…
ナイチンゲールさんにとって、目の前で人が死ぬ、なんて辛い事になるのが分かっていて。
「…そろそろ約束の時間だ。行こう?ナイチンゲールさん。」
『ーはい。
これを渡しておきます。
そして私は霊体化して付き添います。
レン様…我が主。』
…ボクは、ナイチンゲールさんが渡してきた鎮痛剤を受け取り、アイテムボックスへ格納してから女騎士達と合流して魔族の元へ向かった。
ーおっ?来たな勇者!!さぁ勝負だ!!!!」
「…うん、死合を始めよう。」
「おうさ!!…んぉ?そう言えばネクロマンサーの兄ちゃんはどした??」
「…キミに態々言う必要は無い。」
「……そうかよ。んじゃ………
この魔族…好戦的なだけで根はいい奴っぽいだけに残念だよ…
もしかしたら、いい仲間になれたかもしれないのに。
だけど、ボクはやらなくちゃいけない。
そう覚悟をして、ボクは自分の武器である、二振りの聖剣を構えた。
「ー殺し合おうや!!!」
ギィィン…!
「っ!!」
ぐ…重…い……!
瞳の色が平常の蒼から交戦の紅へ変わった魔族の大剣を短剣をクロスさせて受け止めた!
…が、いつもであればもっとしっかり受け止められたはずの振り下ろしの一撃が重い。
当然だ。
今のボクにはナイチンゲールさんからのバフ、
【戦場の加護(仮)】:戦闘時筋力アップ(小)
しか無い。
いつもであればお兄ちゃんがもっとちゃんとしていて沢山のバフもデバフもかけてくれているから。
それが分かっているのに何時もの様に行動してしまった辺り、如何にボクはお兄ちゃんに依存した戦い方をしているんだって痛感する。
あ、ちなみに女騎士達は死合が始まって早々に死んだよ。
自ら突っ込んで行って斬られたり、今の余波で身体が砕け散ったり………
お兄ちゃんが居てくれたら最低限自身を守ってくれたであろう障壁すら無いからほぼほぼ自滅だし同情はしないけど。
ボク?ボクはお兄ちゃんがくれた転移石に込められた魔力のお陰でこれくらいなら防いで貰えるから平気…じゃ、ダメだったんだけどねぇ…………
「ハッ!やるじゃねぇか勇者ぁ!!!」
「魔族…キミこそねッ!!」
今度は意識して受け流す様に動きを変え、何とか魔族の猛攻を捌いていく。
ボクはその合間に魔族にも小さな傷を増やしていく。
死ぬつもりではあるけれど、彼に敬意をもって本気で死合をして死ぬつもりなんだから。
「っ…!はぁぁっ!!!」
「クハハはは!!!コレだよコレ!!!やはり死合はこうじゃねぇとなぁァァァッ!!!」
ちなみに彼は多人数戦も歓迎らしい。
だから一対多数でも寧ろ喜んだだけなんだ。
追い詰められる程燃える質らしい。
まぁ、今は一対一…なんだけどね。
「死に晒せッ!!」
ガインッ!!
「うぐぅっ…!」
っ…く…………
魔族の掬い上げる様な攻撃によりボクの右手の短剣が弾き飛ばされる………
空高く飛んでいく短剣。
しばらく落ちては来ないだろう………ね………
「ハッハァ!!やっぱテメェはあの兄ちゃんが居ねぇと弱ェなぁぁっ!!!」
「そりゃそうだよ………だって………!!」
それでもボクは左手の短剣を振るい、反撃に出る。
ボクは端から文字通り死ぬ気で戦ってるから。
「お兄ちゃんは!!最高の!!お兄ちゃんなんだからぁぁぁっ!!」
カンカンカァァン!!
「ヌッ!くっ!?ははははは!!やるなぁ勇者!そんなナリで俺様にここまで攻め込むたァ!!!ぁあ楽しいぜぇぇ………!!!」
ボクはとにかく自分の持ち味を活かして手数で攻め立てる!!
まだ……まだ………!限界を超えたその先へ………!!!
「っ…!っ…!!うぁぁぁぁっ!!!」
「ドオゥラァァ!!!」
「カハッ…!?」
しかし、そんなボクの奮闘も虚しく、お腹に突き刺さる強力な拳で、ボクの意識は薄れていく………更に……
ーヒュンヒュンヒュン!
ドスッ!!
「あ…ぐ…ぁ…………
「あ?」
ドサリ…
「…………………。」
「はぁ…?俺様がカチ上げた短剣に首を斬られて終わりだァァ!?はぁぁぁぁっ!?ザッケンナ!!
自滅かよ!!!勇者が自滅してんじゃねぇよ!!!
聖剣に斬られて死ぬ勇者ってなんだよ!!!
フザケルナァァァァァァ!!!!!」
『…。』
(レン様…)
それが、ボクが【勇者レン】として、最期に聞いた言葉。
出来ればお兄ちゃんの声が良かったけれど、でも、次に目が覚めた時はお兄ちゃんの妹として、だと思えばまぁ良いか、と思えた。
(!)視点変更(!)
レン→ナイチンゲール
勇者レン様。
勇者システムによりその人生と人格を狂わされた幼き犠牲者。
そんな彼が、私の目の前で死にました。
……ええ、私がちゃんと動ければ、少なくともレン様が死ぬ事はありませんでした。
ただ、私の本来の主であるリト様の命で『レン様の自死に手を出せない』ので、こうなったのです。
幸い、私が渡した薬をちゃんと飲んでいた様なので苦しまずに死ねた様ですが。
「くそったれが!!
こんなのは勝利じゃねぇ!!ただの事故死を俺様は勝利と認めねぇッ!!
畜生ッ!!出て来いやネクロマンサー!まさかテメェも既に死んだ訳じゃねぇんだろ!!出てきて勇者を蘇らせやがれぇぇッ!!!
ウガァァァァァァッ!!!」
……この魔族の方とは何度も戦ってきました。
極度のバトルジャンキーな方のようで、何度も蘇るレン様と、レン様を蘇らせ、本人自体も強者であるリト様を気に入っていたようです。
だからでしょうか?
ひとしきり叫んだ後………スゥ、と、瞳の色が紅から蒼へ、交戦時から平常時へ戻った彼は、ハッとしてから直ぐにレン様の死体のそばにひざまづきました。
「…ありがとよ、勇者。
お前には殺し殺され、散々楽しませて貰ったぜ……後はゆっくり眠れ。
出来れば、あのネクロマンサーとペアで戦ってるお前に、こんな事故死では無く真に勝ちたかった。
………1日に12回は自動的に蘇っちまうから半不死身である俺様と、対等に戦えるお前達に、な……
…レン様の身体は、その言葉を待っていたかの様に薄れ、光の粒となり消えていきます……
どうやら、転移石が起動した様ですね。
「お前も逝くのか…?そうか……なら、生まれ変わったお前達に会えた時は、俺様も仲間に………なんてな……アバヨ、戦友。」
………どうやらリト様が居ない理由を既に死んだからだと思っているようですが、
やはり、根は良い方ですね、あの魔族の方。
平常時はなんと優しい目をなさるのか。
さて、レン様としての死を見届けたので私もリト様の元へ帰ると致しましょう。




