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足を失ったはずのウェンディゴは、ズタボロになって支えにもならない足を地面に付ける。
人工血管は潰れて、出血は抑えられているが、このままだと色々不味い。
それに、人工神経が飛び出しているという事は、ウェンディゴは今、風が吹くだけでも痛みを感じる。
「GIGAAAA!!!」
「うっしゃああああああ!!」
足りな踏み込みと、高い腰により、ベルの腕に押され始めるウェンディゴ。
しかし、それすら物ともせず、本体の有りそうな場所に突き進むものの、最早それがどこなのかも、検討が付かないほどの巨体。
このパターンを想定していた副院長は、事前にベル対策についての説明をしていた。
『妹殿が凶暴化してしまった場合、取るべき行動は、ノア殿を呼ぶこと。間違っても立ち向かうことなど、してはいけない。君を一瞬で無力化したノア殿でさえ、骨を折られた相手なのだ。』
つまり、初動の段階から、ウェンディゴは副院長の忠告を丸無視していた。
決して、ベルの暴走を軽視しているわけでも、この機に乗じて、良い感じになろうとかでも無い。
そんな事を考える余裕は無い。
「ぜああああ!!!」
肉が襲い掛かり、文字通り牙を剥く。
全身に傷が付きながらも、ウェンディゴは前に進み続ける。
そして、特別な何かが起きる事は無く。
ただ地味なだけの行進は、ベルに届く。
体が半分以上、肉の壁に埋まり、グズグズと音を立てて沈んでいく。
殴る事も蹴る事もせず。
一切俺や副院長の言った事を守らなかったくせに。
このアホは、肉の中から、ベルを引き剥がしやがった。
「どうだぁ!!傷付け無くても、オレならベルを助けられたぞ!」
誰に叫んでいるのか。
もしかしたら、隠れている俺に向けた言葉かもしれない。
もしくは、自分に対する激励の言葉かもしれない。
はたまた、ベルに対しての意志の表明なのかもしれない。
真意はウェンディゴだけが知ることだが、それでも、今のウェンディゴは......
副院長が全力で号泣するくらいにはカッコ良かった。
◇◆◇
「副院長は近隣住民に対して説得と、場合によっては買収を。」
「ウェンディゴの治療は俺が、ベルさんの治療はヘレナ女医が行ってください。」
「筋肉が厚い分、内臓には達していないかもしれませんが、最悪のケースも想定して余念無く診てください。」
『分身』でいくつかの作業を分担する。
衛兵を呼んだり、住民を説得したり、巻き込まれた人の治療と売名行為をしたり、色々だ。
特に、クソ野郎は衛兵に気絶したまま突き出し、とりあえず『民家倒壊』と『婦女暴行』、『殺人未遂』まで吹っ掛けてきた。
まあ、民家にぶち当たって壁を壊したし、ベルにセクハラしてたし、アイツのせいでウェンディゴ死に掛けたし、拡大解釈だとしても構わないと思ったので、ウェンディゴの怪我と気絶しているベルはアイツにやられた事にした。
まあ、多少良心が痛むが......いや、ゴミ野郎に人権は無ェ。
『んんん、今回はノアらしくねェやり方だったし、なんかいつも以上にブレーキぶち壊れだったけど、どうかしたのか?』
『あのクソ野郎が生理的に無理だっただけだ。他意は無い。』
マキの指摘を適当に受け流し、作業を進める。
大変なデートだったが、ウェンディゴの真意や、ベルの過去との決着的なモノをつけられて良かったんじゃないかと思っている。
しかし、そうなると......
ふむ、まあ構わないかな。
◇◆◇
「なっ!?病院から出て行くううう!!?」
叫ぶ副院長に首肯で返す。
ベルの問題は解決したと言っても過言ではない。
仮に、まだ完治していないとしても、それは恐らく、俺よりもウェンディゴが適任だろう。
そして、ヘレナ女医に、俺の知識は粗方教え終わった。
後は薬なんかの方に進む必要があるのだが、まずは生産系を極めるしかない。
やりたいことはいっぱいある。
少なくとも、【幼児】が抜けるまでの二年間の間に、できるだけの事はやっておきたい。
楽しくて仕方が無いこの人生に、飽きが来ることは無いだろう。
「とりあえず、定期的に『分身』をこちらに送ります。交流はそちらで行いましょう。」
「う、うむ。我らとしても、ヘレナ院長がいたら、他の仕事はできるようになった。だが、如何せん寂しいものだ。」
「そうですか?まあ、今生の別れではありません。大丈夫ですよ。」
「達観しているのだな。」
達観しているのではない。
ただ、こういった出会いや別れは、嫌という程経験しているだけだ。




