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 計画開始から数日。


「腕の血管は脇の辺りにあり、物を挟むようにして止血し、その間に消毒、縫合をしていきます。消毒には綺麗な水と布を使ってください。場合によっては、買付けておいた酒を垂らすように、余った分は残さずに飲んで構いません。」


 瓶に詰まった酒を見せる。

思えば、この瓶も不可思議だ。

 この世界には、さすがにペットボトルのような物は流通していないのに、瓶や窓ガラス、鏡などのガラスを用いた物はわりとある。

 転生者が広めたのか、やはりこんな所も歪だ。


それと、酒臭いとかもう気にしない事にした。


「あまり長時間止血をしていると、傷口の周辺が壊死、つまり腐るので、早めの施術が必要。内臓に至っている場合に限っては速さよりも慎重さが必要だけど、一応俺一人でやる。縫合の速度は1センチ10秒。感覚は0.5ミリ程度。包帯を巻く時は体の中心に向かって外側から始める。試しに俺の腕でやってみてください。」

「う、うむ」


 町で買った金属を圧縮変形させ、簡易的な針を作った。

手術に使う、人の皮膚という寄せにくいものを縫う為の釣針の様に曲がった針だ。

 これをピンで扱えるようになるまでに時間が掛かるが、あえてその方向で手術をするために、めんどくさいピンを最初から扱わせている。

 変に素手でなれると、ピンの習得が難しくなるからだ。


 ヘレナ女医は、およそ15センチ程の切り傷を付けた俺の腕に顔を近付け、振るえる手でどうにか針を通している。


「15秒経過。まだ二針、まだまだ遅いけど、その分丁寧さがあります。そのままスピードアップを目指しましょう。」

「あ、ああ」


 もちろん、これを教えているのは俺の分身だ。


「患者数は3割程減った。これは定期健診に来る人がいなくなった結果。その分、ベッドの空きが増えたのは僥倖。これからの計画のために、大切なキーとなる。」


 金勘定は、その前の前の前の前から計算して来なくてはいけないから、新しい人間が途中から始めるのは効率が悪い。

 かといって、他の職員は掃除中だし、俺一人がそれに集中すれば、まあそれなりにスムーズには進められる。

 ちなみに、これも俺の分身。


「そっちのシーツ、取ってください!」

「はい、これで50組目。ペースが上がってきましたね。」


 掃除を手伝って、洗濯に必要な桶や洗濯板などを新調し、洗剤も漂白と脱色、消毒を繰り返し行っている。

 やり過ぎると布が痛むので、あまり激しくはできないが、未だに取れないシミは苛立ちの原因だ。


「ぬぅ......!この汚れめ、私はこの病院の副院長だぞ!落ちろ!」


 雑巾を手に壁に生えた苔や蔓に四苦八苦している副院長。

体を動かし始めたからか、なんとなく気持ち痩せた様に見える。


 俺は老婆ではないが、町の馬舎に寄って、馬の尻尾の毛を貰い、カツラを作って渡した所、大変喜んでくれた。

 根は良い人なのだろうが、少しビビりな所が目立つらしい。


そして、言うまでも無いが、これも俺の分身がやっていることである。



「いやぁ、小さいのによく働くねぇ、もしかしたら、ここの次期院長になれるかものう。」

「いえいえ、俺はあくまで技術顧問なので、院長の座に興味はありません。」

「欲が無いのは良い事だが、あまり無欲過ぎると、その内損をするぞ?ひゃっひゃ!」


 患者を相手に雑談をしながら、彼の背にできたデカイ膿の塊を除去する。

毛穴詰まりの延長戦だったので、中身を全て取り除いてから袋を取った。


「次は隣の部屋の方ですね。彼は、骨の接合不全ですか。」

「じゃ、がんばりなぃ!」


 笑顔の患者に見送られて、次の病室に行く俺も、分身である。


◇◆◇


 さて、最後に、本体の俺がどこにいるかというと、病院の地下、つまり、ヘレナ女医の妹がいるという、地下隔離施設にいる。


 金属製の檻の奥に、様々な症状を抱えた患者がいる。

中には、全身を包帯でくるんだ、あの全能神のような見た目の者もいる。


「ベルさん、ベルさん。ふむ、ここらには居ない。あの扉の奥か?」


 薄暗い地下施設の中を歩くと、大きめの扉が見える。

そこは、特に施錠などはされていないものの、明らかに異質な雰囲気を醸し出していて、偶然では絶対に開けないような確信が持てるオーラがあった。


「まあ、暫定ここだろう。ここの患者は比較的、治せる者と治せない者がハッキリわかれているが、ベルさんの『奇獣病』はどうなのだろう。」


 恐る恐る。が正解なのだろうが、特に何も考えずに、その扉を開ける。

最初に目に入ったのは、縦横に交差したタイプの檻。

 棒の量が二倍になっただけだが、その厳重さは明らかに上がっており、どうみても、ただの隔離ではなかった。


『GURRRRR。アナタ、誰?』

「こんにちは、俺はノア・オドトン。貴方の治療を任された者だ。」

『GYAAAA。オ姉チャンカラ聞イタノ?モウ止メテッテ言ッテルノニ。』


 檻の中にいる、形容しがたい毛玉の様な物は、年頃の女性の声で、少し滑舌が悪く、どことなく哀愁漂う喋り方をしていた。


「貴方の姉のヘレナ女医は、俺に貴方の病を治すよう頼んだ。」

『無理ヨ。ドンナ魔法モ効カナイ。日ゴトニ箇所ガ増エルノ。』

「ステータスを見せて貰っても?」

『エエ』


 ギギッと金属を引っ掻く音がしたと共に、目の前にステータス画面が広がる。


それは、あまりにも予想外で、だからこそ意外と予想内な状態だった。


 ◇ ◆ ◇

ベル・ナール 女


HP:ムゲン

筋力:ゴジュウ

魔力:ナナヒャク

敏捷:ヒャクニジュウ

忍耐:エラー

知力:ニ

幸運:###


加護:【偏愛神の加護】【獣神の加護】【全能神の加護】


称号:【神話の化物】【先祖返り】【精神的不安定】


 ◇ ◆ ◇


 能力値の欄はほぼ読めなかった。

筋力と魔力と敏捷、そして知力は数字の読み方を書いていただけだが、HPと忍耐、幸運は明らかにおかしい。ムゲンとエラーと###。


 三つの神からの加護に、称号の謎。


 仮説が立っては消える。

集束するのはどこだ?

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