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闘技場内で、ハクと向き合う。
いつもニコニコ顔で、元気よく話し掛けてくるハクとは違い、表情も気配も真剣そのもの。
両手には、この闘技大会中ずっと使っていた一対の剣が握られており、今までの試合よりも眩い光を放っていた。
「ノァが言ってた剣は、まだ召喚できない。だけど、勝つ。」
「くれぐれも無傷で終わらせようなんて思うなよ。もしも手加減なんてしたら、その場で自殺してやるからな。」
「......ッ!!」
図星を突かれた様に、目を見開き硬直するハクに、薄く笑いかける。
どうやら、ハクはお望みの、『俺を傷付けない剣』を召喚できるようになるまで、俺に全力をぶつける気は無かったようだ。
だが、そんな事は気にしない。
そんなナメた真似を許すわけにはいかない。
「今までハクには黙ってたけど、俺は素手の方が強いんだ。」
「......知ってる。なんとなくだけど、ノァは剣を使う時、すごく変な顔をしてる。」
そんな変な顔をしていただろうか。
すこしその話について聞きたいが、今は試合に集中しよう。
『決勝戦ッ!開始ィ!!!!』
銅鑼の代わりに実況のコール。
それと同時に、俺達は互いの距離を詰め、射程距離内に入った。
【魔剣】と『魔力拳』が交差し、互いに互いをぶつけ合う。
密度を高め、発動に200以上も魔力を使った『魔力拳』に対して、ハクが使っている【魔剣】を召喚するのに使った魔力は一桁から二桁。
分母を考えるなら、互角なのだが、それを扱う者のステータスに差がある。
片や、素の筋力が俺の数倍あるハク。
片や、ハクよりも【称号】で嵩増ししている俺。
そんな一見互角の様な状況でも、数歩分ほど、ハクの方が数値的に高い。
「うぉおおおお!!!」
「はぁああああ!!!」
剣を弾き、かわし、打ち付け、紙一重で避ける。
拳を切り払い、叩き付け、突き刺す。
両者の剣と拳は速度を上げ続け、次第に残像が見え始める。
『これはッ、なんという速さッ!!見えませんッ!私の視力は1.5ですが、一切見えませんッ!』
『瞬きすらできない様な、異常な戦いです。本当にこれが8歳同士の戦いなのでしょうか。』
観客席では、感嘆や驚愕の声が聞こえ、司会は具体的な説明が出来ずに、ただ凄い凄いと言い続けている。
「ノァは、強い。今まで見てきた中で一番だ」
「イキシア姉さんよりは弱いよ。」
「ううん、そういうことじゃない。」
ハクは両手の魔剣を俺に向けて投擲した。
慌ててキャッチをしたものの、それにより両手が塞がり、大きな隙ができてしまった。
「『デュランダル』」
それはハクの声だったのか。
咄嗟に出た俺の声だったのか。
見覚えのある黄金の剣が、眼前に迫る。
俺の頭部を目がけて、綺麗に振り下ろされたその剣は――
スレスレで寸止めされていた。
「ノァは強い。普通なら、自分の腕を切り飛ばした剣を見た時、もっとパニックを起こす。」
「......」
「それなのに、目も瞑らず―――」
「......ッざけんなよ。」
目の前が赤く染まる。
突き出した顔に、『デュランダル』が深く切れ込みを入れ、そこから流れた血が目に入ったからだ。
ゴロゴロする目に、それでも瞬き一つしない俺に、ハクは慌てて『デュランダル』を引っ込めた。
「俺の言った事が分かってないのか......?手加減すんなって言ったよなァ!!?」
「それは、でも、あのままだと、ノァが」
「こんなナマクラに俺が殺されると思ってんのか!!?あ゛あ゛!!?」
ドスの利いた声が喉から出る。
8歳には出せない声に、ハクが後ずさる。
「ハク、俺をナメたツケは払って貰うぞ......」
俺は両手に掴んだ双剣を渾身の握力で砕くと、その内包魔力を『魔力拳』に吸収させる。
その流れで、『デュランダル』の腹を両手で挟むように殴りつけ、その内包魔力の9割を削る。
体を地面に沈ませるように、大きく反動を付けて膝を折り腰を落とす。
その体の落下を全方向へとベクトル変化させ、まるで水中のイルカの様にハクのふところへと潜り込む。
「邪技『千弁万華』」
足を両手で掴み、筋力のままに振り回す。
体重が見た目にそぐわないハクは、まるでゾウの様に重いが、それでも構わずと力を入れる。
普段なら味わう事の無い、下から上へ向かった重力を感じ、胃袋の中の物がせり上がり、脳が充血する。
「苦しいか?まだまだこれからだぞ。」
「......ぐぅ」
呻くハクの声と、手から伝わる足首の外れる音。
そして、ハクの体から感じる水の音を聞きながら、俺は次の手を講じる。




