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(2)ヨーロッパ相撲大会

ジェームズはリバプールのどこでその大会が行われているのか知らなかった。間の抜けた話だが、ルーシーを驚かそうと応援に行くとは言わなかったのだ。そのうえ、初めての土地なので東西南北のどの方向を向いているのかさえ分からない。

 ジェームズはルーシーに電話しようとプッシュしかけて、本当に俺は能天気だと、それでも気が付いて良かったと、安堵で一杯だった。ルーシーが電話に出られるわけはないし、出たらサプライズにはならない。子供でも分かることだ。

 だったら、ルーシーの友達にかけてみようか?でも仲良しのリタやミッシェルが応援に来ていたらサプライズにならないし、もし黙って大会に参加していたらルーシーに悪いしと、なぜかマイナスのことばかり考える。

 ジェームズはだから雲を見ていたわけではないが、それでは何も前には進まないと思い直し、ゆっくりと階段を降り、それでも気になるのか時々は空を見上げながらも、坂道に沿って歩き始めていた。

「お腹が空いたな」と、今まで思わなかった生理現象が、急にジェームズに芽生えた。一刻も早くルーシーの所に行かなければならないのに、身体は別なところに勝手に行こうとしている。

 店に入るのも億劫だったので、アルバート・ドッグ沿いに止まっているスクールバスを改造した屋台に近づいた。黄色一色だと思ったのに、よく見ると虹色の帯がある。しかし、変な違和感はない。見上げるように、ホットドッグとコーラを頼んだ。人のよさそうな目のくりくりとした髭面の店主は、にこりと笑って作業に入った。待ち時間がどれほどのものかはわからなかったが、数秒で出来るわけもなく、近くにあったベンチに腰掛けた。

 ジェームズは何に焦点を合わせるでもなくただ周囲を眺めていた。あの綿菓子雲はまだあるのだろうかと空を見上げたが、七つの雲がまばらに漂っているだけで、どれひとつとってもおいしそうには見えなかった。風の強さがおさまってきたからなのかもしれないと思っていると、一人の男の人が目に入った。

 少し距離があったので、最初は確認しづらかったが、目を細めて集中してみると、視界にはっきりととらえられるようになった。ジェームズと同じようにリュックを背負い、ノーネクタイのワイシャツに紺のブレーザーで、少しサイズのゆったりとしたジーンズに革靴という身のこなしだ。もちろん明らかに同世代ではない。太ってはなさそうだが、壮年という印象だ。

 その男性は、なぜだが気をつけの格好をしてみたり、両手でピースサインをとってみたり、斜に構えたり、座ったりと、様々なポーズをとっている。そうか旅行者なのかと、立派な建物を背景に自撮りしている。

 ジェームズは最初何気なく眺めていたが、そのうちその光景から目が離せなくなった。なぜなら何度見ても自撮り棒が見えなかったからだ。手から完全に離れている。それなのにスマホはちゃんと空中にある。まるでスマホに羽がついていて、ドローンのように自由に飛び回って撮影しているようだ。

「あれ」と、さらに体が前のめりになる。

「あの男は?」と、自然と声がでている。

「いやそんなことはないはずだ」と、首を横にする。

「アヤベ」と、つい腰を上げた。

 ジェームズは、ベンチを後にその男に近づこうとしたが、数歩歩いたところで、さっきの店主からの声がして立ち止まった。

 ジェームズはまさかと首を振り、ホットドッグを受け取りに戻った。店の前でケチャップを付けていると、「旅行者かい?」と、聞かれた。

「ああ・・・、はい。いや、ロンドンからですけど」

「そうかい。でも少し言葉になまりがあるな」

 ジェームズは笑いそうになったが、すんでのところでとどまると、

「どうしてそう思われたのですか?」と、聞いた。

「いや、日本人なのかと思ったからさ」

 黒髪だし、ジェームズは確かにハーフだ。

「日本人だったらどうかするんですか?」

「今日、珍しく相撲大会がここであるんだ。さっきもきみより少し年上の男性がやってきて、相撲大会のことを聞いてきたんでね」

「その人は日本人だったんですか」

「ああ、日本からきた旅行者だと言ってたよ。でも、英語が得意じゃないみたいで、それ以上詳しく会話ができなかったんだけど」

 ジェームズはホットドッグを一口かぶりつくと、先ほどの場所からあの男性を探した。しかし、どこを見てもいなかった。もしアヤベだったら、確かに若く見えるかもしれない。

「相撲大会はどこでやっているんですか?」

 ジェームズは引き帰ってきて店主に聞いた。

「頼まれたんだ。宣伝してくれよ」

店主はうれしそうに言いながら、手元に置いてあったチラシを渡してくれた。

「ヨーロッパ相撲大会」と書かれてある。その安っぽい印字には簡単な地図が書かれてあった。

 ジェームズはその地図に従って足早に向かった。入り口には横断幕が垂れ下がっていて、風になびきながら精一杯の呼び声をあげている。しかし、屋内競技場からは、一音たりとも声は漏れ出てこない。

 中に入ると、土俵と言う小高い丘のような四角形の盛り土が目に入る。その台上には、丸い勝負俵が半円上に埋め込まれていて、その円状に区切られていた領域内で、相撲という競技は行われる。きっと日本人なら誰でも知っていることなのだろうが、おそらくここでは説明がなければ、誰も理解できないだろうと思っていると、先ほどもらったその紙の裏側に、簡単な相撲の解説が書かれてあった。

 ジェームズは相撲を実際にまじかで見たことはないが、テレビでは見たことがある。だから、盛り土は低かったが、ここの土俵が案外精巧に作られていることに驚いた。

「ルーシーはどうだった?」

「あら、ジェームズ」

 やはりリタとミッシェルが応援に来ていた。気配を一切感じなかったというより、相撲大会に熱中していたのか、ジェームズの突然の出現に、まるで幽霊でも見たかのように驚いている。

「ルーシーは今から決勝戦なのよ」

 やはり勝ち進んでいたんだと、ジェームズはほっとした。

「一回戦から順調だったんだけど、前の試合で右肩を痛めたの。さっき、心配だったので見に行こうとしたら、関係者以外は立ち入り禁止だって。でも、ちょうどルーシーと一緒に来ていた選手がいて、テーピングで何とか出られるんじゃないかって」

 リタは心配そうだった。

「でもね、ルーシーって、中量級でしょう。みんな投げ技で勝負してくるの。それにお互い動き回ることが多いから、もし、利き手に力が入らなかったら不利だって」

 ミッシェルも気が気でない様だ。

「それで、決勝の相手は?」

「フランス代表よ。去年のチャンピオンなの。でもね、大会前に膝を痛めて、今回はあんまり動き回れないみたい」

「じゃあ、ごぶごぶだね」

「そんなことはないわ。チャンピオンは経験もルーシーよりも豊富だし、それに堅実に投げ技でこれまで勝ちあがってきたの」

「ルーシーが投げ技を受ける前に、何とか押し出せればいいんだけど。そうよね、リタ?」

 ふたりは何やら言い合っていたが、ジェームズはルーシーがどんな姿でどんな表情で出てくるのか心配だった。だから東西に分かれている選手の出場門をきょろきょろと何度も首を左右に振りながら眺めていた。

 その動作の丁度真ん中だった。

「えっ」

 ジェームズは目をこすりもう一度見てみる。

「アヤベ」が笑っている。スマホを持っている。

 その時だった。歓声が沸き、二人が入場した。西口にルーシーが立っている。強面の気合が身体全体から漂っているのかと思ったが、ルーシーは真一文字に口を閉じている以外はすこぶる平静そうだった。もちろん裸ではないので肩周囲にどれほどのテーピングが施されているかはわからない。だからそれを確認すると素早く東口をみた。フランス代表の元チャンピオンは、反対に熱気ムンムンと言う感じで、鋭い視線と眉間のしわが印象的だ。ルーシーよりも小柄だったが、リタが言うように均整の取れた、いかにも重心が低そうだった。この選手も、当然どのようなテーピングが膝に施されているのかはわからなかったし、足を引きずりながら歩いているということはなかった。

 日本の大相撲と違って、場内アナウンスで土俵に上がる。そして、蹲踞(そんきょ)の姿勢と言って、上半身はまっすぐに、踵を挙げ、膝を折り曲げて、少し開脚しながら座り込む姿勢をとる二選手がいる。

「見合って、見合って」と、レフリーである行事が二選手に声を掛ける。大相撲なら行事は着物姿だが、ここではそうではない。レスリングのようなストライプの服装をしている。

 二選手が蹲踞の姿勢から立ち上がり、再び中腰で前のめりの姿勢に移動しながら、両こぶしを前方に伸ばそうとしている。立ち合いと言われ、相撲はお互いが呼吸を合わせながら、土俵に両拳をついた時にはじまる。

「待った」と、大相撲ならそう言う掛け声で行事が諫めるが、その代わりホイッスルの音が会場に響き渡る。

 フランスの選手が、ルーシーが拳を土俵に付ける前に前のめりになって当たって行ってしまったのだ。しかし、ルーシーは動揺しない。表情一つ変えない。それでも会場からはため息が聞こえてくる。そして、もう一度蹲踞からやり始める。今度こそ呼吸を合わせようとするが、今度はルーシーの方が早く拳をつき、立ち会ってしまった。日本ではあまり見られない光景だが、行事がそれぞれにまるで柔道の審判のように口頭で注意を与える。

 会場からは先ほどの緊張感が嘘のように、掛け声があちこちから発せられた。それでも相撲という日本の国技に対する厳かさというか、畏敬は少なくとも観客は共有している。だからもう一度蹲踞をし、大きく深呼吸をした時にはまた静かさに包まれていた。

 その静寂さはまるでスローモーションのように観客には映ったのだろうが、お互いが蹲踞の姿勢から拳をつき、今度はきれいに立ち上がり、まず数発の張り手から、回しを探ろうと、懸命に体を左右に動かし始めると、熱風が突き破るような歓声が拡がって、皆が思い思いの声援を二人に送り始めていた。

 ルーシーは、両手でしっかりと回しを取られたら、いや掴まれたら不利だと思い、相手が手を伸ばそうとすると、瞬時に体をねじりながら移動する。相手はさすがにチャンピオンで、膝が悪いはずなのに、上半身と下半身のバランスが崩れて前のめりにならないようにすり足になって、重心を上げずにルーシーについて行く。だから、ルーシーは一気に懐に飛び込んで、脚力で押し切ろうとは簡単に出来ない。平静を装っていても、そういう一瞬のためらいが相手に見透かされる。相手はそのすきを狙って一気にルーシーを押し出そうとする。膝が悪いはずなので、回しを掴む組相撲を予想していたルーシーは、たちまち劣勢になり、土俵際まで追い込まれた。

 ルーシーは相手が喉元と胸の所に手をつけ、強引に押し出そうとしてくるのを、俵に足を掛けながら懸命に我慢した。のど輪が食い込み、ルーシーの顔はみるみる紅潮していく。もし、のけぞった姿勢のルーシーが腰を浮かし、身体の重心を上げていたら、一気におし出されていたのだろうが、そうならないように懸命に土俵際を横に体を動かしながら、一直線の力を分散させる。それでも相手もそう簡単には手を緩めない。

 ルーシーは負傷しているはずの右腕に力を入れて、のど輪を掴んだ。渾身の力を込めて右に移動すると見せかけて、素早く左に移動してその手を外した。相手はその素早さに思わず前のめりになる。今度はルーシーがそのすきを逃さない。素早く相手の横に移動すると左手で回しを掴んだ。もともと左回しは得意ではない。だから投げ飛ばすほど力がない。しかし、ここぞのチャンスだと体を寄せて押し出そうとする。相手は踏ん張りがきかないようだが、とっさに回しの前方である前みつを掴んで、押し出されないようにする。ルーシーは渾身の力を込めて、それでも土俵際に押し込んで行くが、相手も必死になって踏ん張ってくる。

 一瞬、相手の膝が崩れ落ちるような感触がルーシーに伝わってきた。しかし、それは錯覚であったかのように、お互い右手が上手となるような右よつで両まわしを掴んでいて、相手はルーシーの押しに耐えながら、ゆっくりと土俵の中央部に押し戻してくる。もし、少しでもバランスを崩せば相手に投げられる。そんな殺気がルーシーの体を重くした。

 お互いの呼吸は、すでに、はあはあと、会場中の歓声を押し戻すくらいに体中から発せられる。しかしそれは喘ぎではない。覇気である。

「はっけよーい」と、レフリーのたどたどしい日本語が聞こえる。それでも少しも笑い声など聞こえてこない。もはや、この二人の世界に観客は飲み込まれている。

「頑張れ」と、元チャンピオンにはここイギリスでは完全にアウェイなはずなのに、もはやどちらかだけを応援しているという声援ではない。勝負だ。観客の誰もがそのことを知っているし、残酷だがそのことを楽しんでいた。

 相手は力を入れて左腕を持ち上げ、ルーシーの右腕から回しを外そうとする。利き腕である右腕が、いつもならそう簡単には外れないが、この時はもはや限界だった。だから相手が体を手前に引いた時に外れてしまった。相手はそのすきを逃さない。自分の左手も外してしっかりと回しを掴んでいる右腕一本で投げに行こうとする。ルーシーは左腕だけは何とか離さないように踏ん張る。そうすることで遠心力を弱めてこらえる。しかし、そのまま、二人は土俵際までやってきて、相手は右手に渾身の力を籠め、投げようとし、そしてルーシーは両足で、なんとか踏みとどまろうとしている。

 ルーシーは懸命に相手に投げられるのをこらえていたが、急に左の回しを外してそのまま相手の右腕をかかえるようにつかんで、その力を殺しながら反対に投げ出そうとした。きっと最後の一か八かの賭けなのだろう。しかし、そう簡単ではない。だから最後には二人ともに体を預けるようにして土俵の外に転がり落ちるように倒れて行った。

 

 午後五時ちょうどにユーストン行きの特急は発車した。ジェームズは進行方向と反対向きの座席に座ると、スマートフォンにイヤホンを付け、駅舎内で買ったカプチーノを飲み始めた。陽射しの目立った衰えはまだなかったが、ここに初めて到着した時に比べると、真っ青な空には少し色むらがあった。白い雲が穏やかに浮かんでいるということもなく、その代り一本のコントレイルが、うっすらと矢印のように、ロンドンへの方向を示している。

 ルーシーは負けなかったが、勝てなかった。あの勝負は結局「同体」といって、土俵から同じようなタイミングで外に出て、同じように着地したということになった。むろん引き分けということは取り直し、つまり再試合になるはずなのだが、ルーシー達は、お互いの投げ合いに懸命で、着地の際の受け身など考えていなかったので、そのまま絡まるようにして倒れて行った。その結果、ルーシーは右肩を再び強打し、相手は右膝をねじった。

 どちらともに、もう一度相撲を取ると主張したのだが、審判団が競技の終了を宣告し、異例のことだが、このクラスは同時優勝という形を取った。それでも優勝者は世界大会への切符が得られる。今までの成績から相手にまず権利がある。だからルーシーは何度も何度も相撲の取り直しを主張したそうだが、むろん認められなかった。

 ジェームズの鼓膜を軽快なポップミュージックが揺すっているが、今はその振動は脳には伝わってこない。ただずいぶん懐かしいメロディーだ。誰だったっけ?と、まじかで手を振っている四人組が、もう少しでその輪郭をはっきりさせてくれそうなのに、薄っすらと涙でかすれた瞳には映って来なかった。

 発車してからどれくらいたったのかはわからないが、ゆっくりと周囲から陽射しが静かに幕を下ろしていく。黄昏色に田園が染まっていくということはなかったが、ゆっくりと静かな色で染めようとはしていた。

 そんな感情と時間の推移を列車が急に止める。停車したのだ。何か事故でも起きたのかもしれない。

 ジェームズはイヤホンを外した。いつもならイライラするのだが、今日はそんな感情の起伏はない。それどころか、ロンドンへの到着が遅くなることを却って望んでいる自分がいる。

「ルーシーは今頃どうしているんだろう?」

 リタとミッシェルはルーシーに付き添って病院へ行った。ジェームズは、「俺は男だから」と言って、二人と別れた。その選択が正しかったのかわからない。どうして、「友達だから僕もついて行く」と、素直に言えなかっただろうと、何度も自問していた。

 ジェームズは耐え切れなくなってもう一度イヤホンを付けたが、あのメロディーは聞こえてこない。

「どうしてルーシーに会って声を掛けてあげなかったのですか」

 誰かの声がする。

「ルーシーは僕になんか励まされたくなかったんだと思うよ」

「あなたはいつもそうです。確かめる前に自分ですぐ結論を決めつけてしまうのですね」

「でも、相手のことを思っちゃあダメかなあ」

「相手の気持ちを考えるのは確かに大切です。でも、お互いが声を出さなければわからないことだってあるでしょう。それはお互いが傷つく結果になるかもしれませんが、わからないよりはましだし、わからないことをくよくよするのは無駄なことだとは思いませんか?」

「わからないことは時には必要だと思う。それになんでも白黒はっきりさせなきゃならいないなんておかしいし、時間がお互いをゆっくりとまた近づけてくれることもあるから」

「ルーシーとのことですか?ルーシーはいつまでもあなたのそばにいてくれるのですか?」

「そりゃあわからないよ」

 ジェームズは、やっとこの会話が夢ではないような気がしてきた。そして、進行方向に向かってジェームズの方に視線を向けているあの男に気付いた。席を立って今度こそ彼と話さないといけないと思ったが、金縛りになっているようでびくともしない。

「そうでしょう。わからないことがあればわかろうとしたいでしょう。あなたはいつも何かから逃げていますね。それは本当の優しさではないと思います。わかりますか?」

 ジェームズが見ている男は表情一つ変えない。勿論口も一ミリさえも動かさない。しかし、イヤホンから、声は聞こえ続ける。

「逃げてばかりいてはいけません。皆を思う気持ちは大切ですが、真実を知るために、そして人を助けるためには、追いかけないといけない時もあるのです。身体がきつくても、心が折れそうになっても、捕まえて話し合わなければならない時もあるのです。ルーシーや私を追いかけたように」

 ジェームズは無性に彼に何かを伝えたかったが、何一つ言葉は浮かんでは来ない。英語でも日本語でも他の国の言語でもない、太古の人々がやっと使いだした嗚咽のような片言だけが、客車内を浮遊している。

 男はそんなジェームズの感情を、身体全体で、まるで相撲のぶつかり稽古のように、ずっしりとした重みで受け止めながら、最後にこう言い放った。

「オホナモチ・ジェームズ・ナナモ、あなたは王家の継承者になるべき男なのです。だから、逃げていてはいけない。たとえつらくとも追いかけてきて下さい。私は信じています。そして待っています」

「アヤベ!」と、ジェームズがやっと言葉を発せられ、体からすっと力が抜けて立ち上がれるようになった時に、あの日本人の姿は消えていた。代わりに列車が動き出し、あやうく倒れそうになるほど体が揺れた。



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