神様候補になりましょう!
一瞬の出来事だった。
会社からの帰路、夜道を歩いていると突然光に包まれた。それが車だと分かる前に、俺は世界から放り出された。まぁ、いわゆる交通事故だ。
放り出された、という表現が正しいかどうかは分からないが、そう感じたのだから仕様がない。
じゃあ、どこにって?
俺が聞きたいくらいだよ。
ただ、俺が路上で倒れているのが分かる。
意識はこっち、体はあっち。
そして、轢いた車は道路の彼方。
俺の気分は、海の底。
うん、海の底だ。
自分で言って妙に的を得ている。
意外と心が荒れていないな。
波は立たず、重く、暗く、身動きが取れない。
思考は鈍く、気を抜くと全てを受け入れてしまいそうだ。
そう思うと、自分の身体を見上げているかのような感じがしてきた。
要は、今の状態は身体を見ているというより繋がっているという方が正しいのだろう。
相対的な距離しか分からない。
死の世界というのは、生きていた時とはやっぱり違うということか。
さて、
俺はこの先どうなるのだろうか。
連日続く残業に見切りをつけ、
半端放棄に近い状態で帰路につき、
まだまだこれからという30代前半の身に起きた事件。
漫画やアニメなら、あの世からの使者が現れて導いてくれるのだろうけども。
仕事場と家の中間に位置するこんな所縁もない場所だから、いわゆる地縛霊としてこのままなったりするのだろうか。
そんなことを、ぼんやり回らぬ頭で考えていた時、
遠くの方から小さな、しかし確実に、こちらに向かって来る光を感じた。
目に刺さるような強い光だ。
しかし、俺の周りの世界は急激に色を失い始めていた。
色が灰色になり、輪郭さえも失いそうだ。
その中で、その光だけが、鮮やかに輝いている。
遥か彼方にある小さな光に俺は何を思ったのだろう。
助けて欲しいと思ったからじゃない。
ただ、興味が湧いた一心で手を伸ばした。
しかし、体は昏倒するように沈んで行く。
目蓋が閉じ始め、無音が近付いてくる。
世界が閉ざされていく
手は虚空を掴み、指が踊る。
深海に抱かれるその刹那、
伸ばした手を掴まれた。
一瞬にして世界が色と輪郭を取り戻し、いつもの夜空の中で一筋のスポットライトのように身体が照らされていた。
伸ばした手を強く握っていたのは、翼を広げた、
いわゆる天使だった。
真っ白な羽が舞い、そこだけ時間が止まっているようにゆっくりと落ちていく。
あの光の正体は彼女だったのだろうか
満遍の笑みを浮かべ、彼女は続けた。
「君、どうせ死ぬなら、お仕事してよ」
まさか
お仕事って‥
思考に空白が出来、曇ってきていた俺の意識は、
仕事への拒絶が生まれ、一気に自分を引き寄せる。
引き寄せたは良いがシンプルに拒否反射が発動
仕事は嫌だ
意識が慣れた感覚で遠のいて行く
なんだよ、これ夢落ちなのか?
「こらこら、聞いてる?」
薄れていく意識の中、
やけに鮮明に響く声が耳に木霊する
薄桜色の口元から紡がれる台詞が響いてくる
一筋の光の幕を閉じるのと同時に
2人の姿は最早消え失せ、
残ったのは元どおりの闇夜。
タイヤ痕だけが生々しく残る道で
桁騒がしいサイレンが鳴り響くのは、
暫く経ってからである。




