事務所棟
親父の様子を見ているところで、若い女性の声がした。
「芦川様のご親族の方でしょうか?」
「ええ、父、進次郎の息子の信也です。ケアマネージャーの山田様ですか?
はい、本日、お父様の転院のことでお話をさせていただきますが、これから宜しいでしょうか?」
第一印象で、その人の性格や行動がある程度読み取れると言われるが、電話での声や話し振りでもそうではないかと思う。これまで、受話器を通して頭に描いていた人物像が、あながち間違っていなかったのである。つまり、相手の気持ちや考えを気遣わず一方的に話を進めようとする態度である。どんなに丁寧な言葉遣いや仕草を入れたとしても、身勝手な話というものは全く心に伝わって来ないものである。これは、接遇の研修を生業とする会社から派遣された社員講師の指導でよくお目にかかる。俺から言わせてもらえば、そんな薄気味悪くわざとらしい笑顔やあいづちは、逆に相手の猜疑心を煽るようなものである。どうしてこのように不自然な定義が良しとされ確立したのだろうか?そして、現場の職員に対し、どういう事情の窓口かも知らず、その接客状況に頭からダメだししているわけで、全く理解に苦しむところである。
俺とカミさんは、案内されるがまま、病棟から渡り廊下で接続している事務所棟へ歩いて行った。
# ポコポコ ポコポコ
事務所棟は、工事現場の仮設事務所を彷彿とさせるプレハブの建物であった。まあ、入院患者には関係ない職員の作業場だからと考えれば、そんな簡易でちゃちい造りでも構わないのだろう。廊下の床が直の張り物の様で、乾いた靴音がしていた。
#「こちらの応接室です、お入り下さい。」
4畳ほどの狭いところであった。真ん中に引き出しも無い平机とその周りに4つの丸椅子が置かれてある。どうみても簡素な打ち合わせ場所である。そして、ケアマネと向かい合わせで座ると、カミさんが俺の横に付いてくれた。
#「1週間程前にお姉様が見舞いにこられましてですね。」
『????!』
意気なり会話の冒頭で、爆弾を放り込まれた。
「・・・そうですか?」
どうせろくなことじゃないだろう。その後の続きを聞く気にならない。なので、そこまでの返事であった。




