革の手袋
#「お義母さん、眠ったみたいだね。」
「ああ、しかしよく寝るなあ、家でも布団を敷っぱなしだし、いつもあれこれ外も内も動き回っていた昔を思うと、考えられないよ。」
「昔の女はよく働いていたって言われてるもんね。貴方がお義母さんの話してくれる中で、お義父さんが風呂からあがると、言われなくても脱衣所のカゴに新しいタオルと下着が必ず用意されてたって、まあ私には出来ないけどね。」
「アハハハ、そんなこと考えてたの?、いえいえそれ以上にお世話になっております、貴女様にお金を稼いでいただいていることですから、そんなことをしろなんて、口が裂けても言えませんのでご安心ください・・・それに。」
「それに何?」
「私目が勤めを引退する頃は、管理職の君は偉くなっておられるはずですから、老後も安泰、優雅な扶養引退生活を送らせていただきますので。」
「何を言ってるんですか、働かざる者食うべからずですからね。当然、再就職していただきますから。」
「えええ!、いいじゃないの~。」
「ダメヨ~、ダメダメ。」
もう風化してしまった懐かしいギャグをとばしながら、街中から外れて、細い山の車道を上がって行けば、今も拡張に励む病院へと到着した。
# ガガガコンコンコン ガガガ
相変わらず山中にこだましている工事音、病室でも響いている中、親父は大きく口を開けて、顎を突き出すように眠っている。そして、右手左手それぞれが、固い革の手袋をはめられていた。それは何か意味があるのだろう、とは思うが、当然何かを持ったり掴んだりすることが出来ない。
#「母さん、親父は手袋されてるけどどうしてか分かる?」
「お父さんはね、もう、食べることができないんだよ。」
「ああ、それは分かってる。だから、点滴と鼻からチューブで栄養を採っているんだよね。」
「そうだよ、だから何でも掴んだら口に入れようとするんだよ。この前なんか服のボタンをちぎったんだよ。」
「そうかぁ、それで指が動かせない固い手袋をされているのか。」
眠っている時ならまだしも、これでは、不自由なことへのストレスが溜まってしまうだろう。
#“失礼します。”




