↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
支持率0%の男が、日本を作り直すまで  作者: 霜月 七日
第4章『独裁者の最後の決断』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
93/100

第93話 久世隆臣の選択

2037年5月10日。


国会では、政府の危機対応権限をめぐる議論が続いていた。

その裏で、元財務事務次官・久世隆臣は、一枚の名刺を前に眠れない夜を過ごしていた。

かつて日本の財政を支え、黒崎政権の改革に厳しい批判を向けてきた男。

その過去の判断が、思いもよらない形で現在の危機につながっていた。

久世は、自分の社会的地位を守るか、それとも知っていることをすべて明かすか、選択を迫られる。

2037年5月10日。

午前6時41分。

東京都内。

元財務事務次官、久世隆臣(くぜたかおみ)の自宅。

書斎の机には、一枚の名刺が置かれていた。

東亜政策開発機構 特別顧問

長峰啓介(ながみねけいすけ)

久世は、その名前を見つめていた。

長峰啓介。

六十三歳。

かつて内閣官房の政策調整に携わり、退官後は複数の政策研究機関で顧問を務めてきた人物。

久世とは、二十年以上の付き合いがあった。

政治家ではない。

選挙に出たこともない。

だが、政権が変わっても、官僚や経済団体との人脈を維持してきた男だった。

昨年十二月、東亜政策開発機構の会合へ久世を誘ったのも長峰だった。

『黒崎政権の改革について、財政の専門家として意見を聞きたい』

当時、久世はその言葉を疑わなかった。

黒崎の消費税率引き下げには、財源面で大きな懸念がある。

行政改革の削減見込みも、実際に実現するかどうかは別問題だ。

専門家として批判することに、何の問題もない。

そう思っていた。

だが、今は違う。

久世は、昨夜見つけた会合資料を開いた。

十二月十七日。

東亜政策開発機構の内部会議。

議題は『国内政策変更に伴う社会的反応の分析』。

その末尾に、小さく記されていた。

『国内最終確認者:H-3』

久世は、隣に置いた名刺を見た。

長峰が、以前使っていた業務用の署名にも、同じ符号が記されていた。

H-3。

当時は、何の意味も考えなかった。

久世は、静かに息を吐いた。

「……長峰」

二十年以上の知人。

かつては同じ政策課題について議論した相手。

その男が、今回の事件に関わっているかもしれない。

久世は、スマートフォンを手に取った。

長峰の番号が表示される。

しばらく、画面を見つめた。

そして、電話をかけるのをやめた。

先に確認すべき相手がいる。

久世は、警察から渡されていた連絡先を開いた。

* * *

午前8時23分。

警視庁。

滝沢修一(たきざわしゅういち)は、久世からの電話を受けていた。

「……新しい資料が見つかったんですね」

『はい』

電話の向こうで、久世が答えた。

『昨年十二月の会合記録です』

「内容は?」

『H-3という符号について、心当たりがあります』

滝沢の表情が変わった。

「……どなたですか?」

久世は、少し間を置いた。

『長峰啓介という人物です』

滝沢は、その名前を書き留めた。

「長峰啓介」

『東亜政策開発機構の特別顧問です。私を会合に誘った人物でもあります』

「その方がH-3だと判断された理由は?」

『以前の業務資料に、同じ符号が使われていました。ただし、本人のものだと断定できる証拠ではありません』

滝沢は、うなずいた。

「分かりました」

久世は、続けた。

『……それと、私自身についても、お話ししなければならないことがあります』

滝沢は、ペンを止めた。

「何でしょう?」

『私は、長峰から政策研究への協力を依頼され、何度か助言をしました』

「はい」

『その際、黒崎政権への批判が社会にどの程度広がるかについて、意見を述べています』

「……具体的には?」

『消費税率引き下げの財源不足や、行政改革の効果が不透明であることを、国民がどう受け止めるかという話です』

滝沢は、静かに聞いていた。

久世は続けた。

『私は、それを政策研究だと思っていました』

「……はい」

『しかし、その意見が世論操作に利用された可能性があります』

滝沢は、少し考えた。

「久世さん。直接お話を伺えますか?」

『もちろんです』

「資料も確認させてください」

『……すべて持参します』

滝沢は、うなずいた。

「お待ちしています」

通話が終わった。

滝沢は、すぐに捜査員へ声をかけた。

「長峰啓介について、公開情報とこれまでの提出資料を確認してくれ」

「はい」

「それと、久世さんの聴取を準備しよう」

滝沢は、メモを見つめた。

H-3――長峰啓介。

ようやく、符号に対応する名前が現れた。

ただし、名前が浮かんだことと、犯罪への関与が証明されたことは違う。

滝沢は、その区別を忘れなかった。

* * *

午前10時06分。

首相官邸。

副総理は、政府の危機管理担当者から報告を受けていた。

「昨夜から、政府による情報配信停止命令を求める署名活動が広がっています」

「規模は?」

「複数の団体が、それぞれ署名を集めています。ただし、重複や実在性を含めた確認はできていません」

副総理は、うなずいた。

「世論の一つとして受け止めましょう」

担当者は続けた。

「一方で、政府の権限強化に反対する声明も出ています」

「そうでしょうね」

副総理は、資料を閉じた。

「どちらの意見も、無視するべきではありません」

別の閣僚が発言した。

「ただ、今回のような混乱が続けば、政府が迅速に対応できる仕組みは必要です」

「その点は理解しています」

副総理は答えた。

「しかし、制度の必要性を説明するには、まず何が不足しているのかを示す必要があります」

「はい」

「それと、総理からの意見もあります」

副総理は、黒崎が示した方針を確認した。

現行法での対応を優先する。

新たな権限が必要なら、具体的な不足を明らかにする。

政府だけで判断できる制度にしない。

副総理は、静かに言った。

「……この方針で進めます」

* * *

午前11時48分。

東京都内の病院。

黒崎玲司(くろさきれいじ)は、リハビリ室で歩行訓練を終えたところだった。

今日は、廊下を往復する際、左側の壁との距離を意識して歩いた。

まだ、身体を動かすたびに緊張する。

それでも、昨日よりは落ち着いて歩けた。

「……少し慣れてきました」

黒崎が言った。

理学療法士は、うなずいた。

「いいですね。ただ、疲れが出てくると注意が散りやすくなるので、無理はしないでください」

「分かりました」

病室に戻ると、秘書官の小野寺航(おのでらわたる)が待っていた。

「総理、お疲れさまです」

「お疲れさまです」

黒崎は、椅子に座った。

「何かありましたか?」

小野寺は、少し考えた。

「……捜査に進展があったようです」

黒崎が顔を上げた。

「そうですか」

「海外の情報提供者から寄せられた資料と、国内の関係者が保管していた資料の照合が進んでいます」

「情報提供者の安全は?」

「引き続き確認中です」

黒崎は、静かにうなずいた。

「……早く確認できるといいですね」

小野寺は、資料を開いた。

「それと、国内の政策研究機関に関わっていた人物が、新たに捜査対象として浮上しています」

「……誰ですか?」

小野寺は、少し間を置いた。

「長峰啓介という人物です」

黒崎は、その名前を聞いて、少し考えた。

「……長峰さん」

「ご存じですか?」

「名前は知っています。以前、政策研究機関の報告書で見たことがあります」

「はい」

黒崎は、資料を見た。

「……その方が、事件に関わっているんですか?」

「現時点では、関与の有無を確認している段階です」

黒崎は、うなずいた。

「分かりました」

そして、静かに続けた。

「……捜査は、警察に任せましょう」

「はい」

黒崎は、少し考えた。

「ただ、もし海外からの工作が事実なら、国民にはきちんと説明する必要がありますね」

小野寺は、うなずいた。

「政府としても、証拠が確認された段階で対応を検討します」

黒崎は、資料を閉じた。

「……お願いします」

* * *

午後1時17分。

警視庁。

久世隆臣は、滝沢の前に座っていた。

机の上には、持参した資料が並んでいる。

「……長峰啓介さんとの関係について、教えてください」

滝沢が尋ねた。

久世は、静かに答えた。

「二十年以上の知人です」

「仕事上の付き合いですか?」

「はい。官僚時代から、政策に関する意見交換をしていました」

「昨年十二月の会合に参加した経緯は?」

「長峰から誘われました」

久世は、資料を一枚差し出した。

そこには、会合への案内メールが印刷されていた。

『黒崎政権の財政政策について、専門的な見地から意見を伺いたい』

滝沢は、内容を確認した。

「……この時点では、通常の政策研究に見えますね」

「はい」

久世は、うなずいた。

「私もそう思っていました」

滝沢は、次の資料を手に取った。

「では、H-3という符号について教えてください」

久世は、名刺と古い業務資料を差し出した。

「長峰が以前使っていた署名です」

資料の末尾には、次の記載があった。

『国内調整担当 H-3』

滝沢は、眉を寄せた。

「……いつの資料ですか?」

「二〇三五年です」

「長峰さんが作成したものだと確認できますか?」

「私が本人から受け取った資料です。ただし、署名の意味までは確認していません」

滝沢は、うなずいた。

「分かりました」

久世は、少し間を置いた。

「……それと、もう一つあります」

「何でしょう?」

久世は、別の資料を差し出した。

昨年十二月の会合後に作成された、自分自身のメモだった。

『黒崎政権の政策不信を拡大させるには、財源問題を中心に説明する必要あり』

滝沢は、資料を見た。

「……これは、久世さんが書かれたものですか?」

「はい」

「どのような意図でしたか?」

久世は、静かに答えた。

「政策批判の論点整理です」

「……はい」

「私は、黒崎政権の消費税率引き下げには、今でも財源上の問題があると考えています」

滝沢は、うなずいた。

久世は続けた。

「ただ、その批判が、特定の国民へ偽情報を届けるために使われたのなら……」

言葉が止まった。

滝沢は、急かさずに待った。

久世は、ゆっくりと続けた。

「……私にも、責任があります」

滝沢は、静かに答えた。

「政策への批判そのものと、犯罪への関与は別です」

久世は、うなずいた。

「分かっています」

「そのうえで、何を知っていたのか、確認させてください」

「……はい」

久世は、深く息を吐いた。

「すべて、お話しします」

* * *

午後3時04分。

東京都内。

東亜政策開発機構の特別顧問、長峰啓介は、事務所で電話を受けていた。

「……久世が警察に?」

電話の向こうで、男が答えた。

『はい。資料を持参したようです』

長峰は、少し考えた。

「……そうか」

『どうしますか?』

長峰は、窓の外を見た。

「何もしなくていい」

『しかし、H-3の記録が残っている可能性があります』

長峰は、静かに答えた。

「残っているだろうな」

『……よろしいのですか?』

長峰は、少し笑った。

「今さら消せば、かえって不自然だ」

電話の向こうの男は、黙った。

長峰は続けた。

「それに、記録が残っていても、それだけで何かが証明されるわけではない」

『……はい』

長峰は、机の上の資料を見た。

そこには、華龍国際情報研究有限公司との連絡記録があった。

「……梁は、どうしている?」

『現在も現地にいます』

「そうか」

長峰は、静かに言った。

「……予定より、少し早く動く必要があるかもしれないな」

* * *

午後4時52分。

警視庁。

滝沢は、久世から提出された資料を解析担当者と確認していた。

「……H-3が長峰啓介を指している可能性は高まりました」

捜査員が言った。

滝沢は、うなずいた。

「そうだな」

「ただし、まだ本人が今回の計画を承認した証拠はありません」

「分かっている」

滝沢は、資料を見た。

そのとき、別の捜査員が入ってきた。

「主任。外務省から連絡です」

「何だ?」

「海外の日本大使館に寄せられた追加資料について、確認が進みました」

滝沢が顔を上げた。

「内容は?」

「H-3に関する記録です」

捜査員は、資料を差し出した。

そこには、海外企業の内部連絡とみられる文章が記されていた。

『国内調整担当H-3の確認後、第二段階へ移行』

滝沢は、資料を見つめた。

「……これが本物なら、かなり重要だ」

捜査員は、うなずいた。

「はい」

「ただし、送信者と受信者、作成日時を確認する必要がある」

「分かっています」

滝沢は、静かに続けた。

「……それと、長峰本人がどこまで関わっていたのかも」

* * *

午後6時29分。

東京都内の病院。

黒崎は、桐生美月(きりゅうみづき)と病室で話していた。

「……今日は、リハビリどうだった?」

美月が尋ねた。

黒崎は、少し笑った。

「昨日よりは、よかったよ」

「本当?」

「うん。少し長く歩けた」

美月は、うれしそうに笑った。

「よかった」

黒崎は、うなずいた。

「でも、まだ疲れるね」

「焦らなくていいよ」

「分かってる」

美月は、黒崎の顔を見た。

「……ニュース、見た?」

黒崎は、うなずいた。

「少しね」

「政府の権限を強くする話、まだ続いてるね」

「うん」

美月は、少し考えた。

「……玲司は、どうするの?」

黒崎は、静かに答えた。

「……必要な対策は進めるよ」

「うん」

「でも、国会を飛ばして何でも決めるようなことは、したくない」

美月は、うなずいた。

「……そうだね」

黒崎は、少し笑った。

「俺が間違えたときに、止めてくれる人が必要だからね」

美月は、黒崎を見た。

「……じゃあ、私も止める」

黒崎は、少し驚いた。

「……美月が?」

「うん」

美月は、真面目な顔で言った。

「無理して仕事しようとしたら、止める」

黒崎は、笑った。

「……それは、もう止められてるね」

美月も笑った。

二人は、しばらく笑い合った。

* * *

午後8時17分。

東京都内。

久世隆臣は、自宅に戻っていた。

警察での事情聴取は、長時間に及んだ。

知っていることは、すべて話した。

資料も提出した。

だが、気持ちが軽くなったわけではない。

久世は、書斎の椅子に座った。

机の上には、長峰の名刺が置かれていた。

二十年以上の付き合い。

政策について議論した日々。

そして、昨年十二月の会合。

久世は、静かに名刺を見つめた。

「……長峰」

そのとき、スマートフォンが鳴った。

画面に表示された名前を見て、久世の表情が変わった。

長峰啓介。

久世は、しばらく画面を見つめた。

そして、通話に出た。

「……久世だ」

『久しぶりだな』

長峰の声だった。

「……ああ」

『警察に行ったそうだな』

久世は、黙った。

長峰は続けた。

『何を話した?』

久世は、静かに答えた。

「……知っていることは、すべて話した」

電話の向こうで、短い沈黙があった。

『……そうか』

久世は、ゆっくりと言った。

「長峰。H-3という符号について、聞きたい」

長峰は、すぐには答えなかった。

久世は続けた。

「……お前のことなのか?」

しばらくして、長峰が答えた。

『……それを聞いて、どうする?』

久世は、息をのんだ。

「……やはり」

長峰は、静かに続けた。

『久世。お前は、黒崎の改革が危険だと言っていたな』

「……ああ」

『財源の裏付けが弱い。行政改革の効果も不確かだ。そう言っていた』

「今でも、そう思っている」

『ならば、なぜ今さら黒崎を守る?』

久世は、少し黙った。

そして、静かに答えた。

「……私は、黒崎の政策を支持しているわけじゃない」

『では?』

久世は、はっきりと言った。

「日本の政治を、外国の組織に操作させたくないだけだ」

電話の向こうで、長峰は黙った。

久世は続けた。

「政策が間違っているなら、国会で批判すればいい」

『……』

「選挙で判断してもらえばいい」

『……』

「だが、偽情報を流し、国民の不満を利用し、人を襲わせるようなことは違う」

長峰は、低い声で答えた。

『……私は、誰かを襲えとは命じていない』

久世の表情が変わった。

「……では、何を命じた?」

長峰は、答えなかった。

久世は、続けた。

「長峰。今からでも、警察に話せ」

電話の向こうで、長峰が小さく笑った。

『……お前は、昔から正論が好きだったな』

「……長峰」

『だが、正論だけでは国は動かない』

久世は、静かに答えた。

「……だからといって、何をしてもいいわけじゃない」

長峰は、しばらく黙った。

そして、最後に言った。

『……もう遅い』

通話が切れた。

久世は、スマートフォンを見つめた。

そして、すぐに警察へ連絡した。

* * *

午後9時43分。

警視庁。

滝沢は、久世からの報告を受けていた。

「……長峰から電話があったんですね」

『はい』

「内容を、もう一度確認させてください」

久世は、会話を説明した。

H-3についての質問。

黒崎政権への批判。

そして、長峰の言葉。

『私は、誰かを襲えとは命じていない』

滝沢は、静かにメモを取った。

「……分かりました」

久世は、続けた。

『滝沢さん』

「はい」

『私は、長峰が何をしたのか、すべて知っているわけではありません』

「はい」

『しかし、今の会話で、彼が何かを隠していると感じました』

滝沢は、うなずいた。

「その点も含めて、確認します」

『……お願いします』

通話が終わった。

滝沢は、捜査員へ声をかけた。

「長峰啓介への事情聴取を検討しよう」

「はい」

「ただし、手続きは慎重に進める」

滝沢は、資料を閉じた。

「……まだ、終わっていない」

* * *

午後11時06分。

東京都内の病院。

黒崎は、ベッドに横になっていた。

窓の外には、東京の夜景が広がっている。

今日も、日本では多くの人が働いていた。

金融機関の職員。

物流事業者。

行政機関。

警察。

そして、国会。

自分が病院にいても、国は動いている。

黒崎は、静かに考えた。

総理大臣は、国を一人で動かす存在ではない。

制度の中で、責任を負う存在だ。

その制度を守ることも、総理大臣の仕事なのだと思う。

黒崎は、少し笑った。

「……まだ、やることはあるな」

そのとき、スマートフォンが震えた。

小野寺からのメッセージだった。

『明日、政府内で重要な協議が予定されています。捜査に関する新たな情報も、正式な経路で共有される見込みです』

黒崎は、返信した。

『分かりました。ありがとうございます』

そして、スマートフォンを置いた。

同じころ。

東京の別の場所では、長峰啓介が一通の連絡を受けていた。

『国内側の調整は、予定どおり進めてください』

長峰は、画面を見つめた。

そして、静かに答えた。

「……分かっている」

電話の向こうの声が続いた。

『日本政府は、まだ全体像を把握していません』

長峰は、窓の外を見た。

「……だが、久世が動いた」

『承知しています』

「警察も、こちらに近づいている」

『それでも、計画は変更しません』

長峰は、しばらく黙った。

そして、低い声で言った。

「……もう、引き返せないということか」

電話の向こうから、短い返事があった。

『そのとおりです』

通話が切れた。

長峰は、机の上の資料を見つめた。

そこには、次の文字が記されていた。

『最終段階――政治的決断の誘導』

長峰は、静かに目を閉じた。

日本を揺るがす計画は、まだ終わっていなかった。

そして、その計画が狙っていたものは、単なるサイバー攻撃や偽情報の拡散ではなかった。

日本政府自身に、取り返しのつかない決断をさせること。

それが、最後の目的だった。

第93話では、久世隆臣が過去の関係を断ち切る覚悟で、警察に資料と証言を提供しました。

また、H-3という符号に対応する人物として長峰啓介が浮上し、国内側の指示系統が少しずつ明らかになっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。