第十四話 見る力
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
それからしばらく経った。
依頼。
訓練。
依頼。
訓練。
依頼。
訓練。
毎日同じことの繰り返し。
なのに不思議と飽きなかった。
やることが多すぎたからだ。
***
ある日。
森の巡回依頼。
特別な依頼ではない。
最近受け慣れた仕事だった。
それでも。
以前と違うことがある。
俺は歩きながら周囲を見ていた。
木を見る。
地面を見る。
草を見る。
空を見る。
音を聞く。
匂いを嗅ぐ。
全部。
講習会で聞いたことだった。
『魔物を見るな。』
『周囲を見ろ。』
講師の言葉を思い出す。
聞いたときはよく分からなかった。
今も半分くらいしか分からない。
でも少しずつ意味が見えてきた。
「……あれ」
足が止まる。
地面を見る。
足跡。
新しい。
牙鼠だ。
しかも複数。
だが。
その先にさらに別の足跡があった。
大きい。
牙鼠よりずっと。
「何だこれ」
しゃがみ込む。
観察する。
すると。
毛が落ちていた。
黒い毛。
太い。
硬い。
「熊?」
確信はない。
でも。
普通の牙鼠ではない。
少し考える。
そして依頼書を見る。
森の巡回。
異常の確認。
それが仕事だった。
なら。
これは報告するべきだろう。
そう判断した。
***
ギルドへ戻る。
受付へ行く。
「巡回終わりました」
「お疲れ様」
受付嬢が書類を受け取る。
だが。
俺は続けた。
「それと」
「うん?」
「たぶん大型の獣がいます」
受付嬢が顔を上げる。
しばらく説明する。
足跡。
毛。
場所。
方向。
見たもの全部。
すると。
後ろから椅子を引く音がした。
ギルド長だった。
「どこだ」
短く聞く。
俺は地図を指差した。
ギルド長は数秒黙る。
それから。
「なるほどな」
とだけ言った。
何か分かったらしい。
「坊主」
「はい」
「これ見つけたの、お前だけか?」
「たぶん」
「なんで気付いた?」
少し考える。
どうしてだろう。
足跡があったから?
毛があったから?
そうじゃない気がした。
「最近見るようにしてるので」
「何をだ」
「全部です」
ギルド長が沈黙した。
***
翌日。
答え合わせがあった。
別のパーティが森へ向かった。
結果。
大型の黒熊が発見された。
しかも依頼区域の近く。
普通の新人が遭遇したら危なかったらしい。
***
ギルドが少し騒いでいた。
すると。
前に組んだ剣士が近付いてくる。
「聞いたぞ」
「何をですか」
「熊」
どうやら広まっているらしい。
「お前よく見つけたな」
「見つけました」
「普通気付かねぇぞ」
「そうなんですか?」
俺には逆によく分からなかった。
痕跡が残っていた。
だから見つけた。
それだけだ。
剣士は笑った。
「いや」
「?」
「お前さ」
肩を叩かれる。
「戦う才能は分かんねぇけど」
「はい」
「冒険者の才能はあるかもしれねぇな」
その言葉に。
少しだけ嬉しくなった。
冒険者になって一ヶ月も経っていない。
強くもない。
Dランクですらない。
街一番なんて程遠い。
それでも。
初めてだった。
誰かに才能があるかもしれないと言われたのは。
***
夜。
ノートを開く。
新しいページ。
そこへ書く。
『見る』
それだけ。
そして下へ続ける。
『足跡』
『毛』
『匂い』
『音』
『違和感』
さらに考える。
そして最後に書いた。
『見えるものが増えれば生き残れる』
ペンを置く。
少しだけ思った。
街一番になる方法は。
もしかしたら。
剣だけじゃないのかもしれない。
強くなる。
賢くなる。
見る。
考える。
覚える。
全部必要なのかもしれない。
窓の外を見る。
空には月が出ていた。
「まだ全然足りないな」
そう呟く。
でも。
焦りはなかった。
昨日より見えるものが増えた。
それだけで十分だった。
だから。
明日もまた学ぼうと思った。
お読み頂き、ありがとうございます。




