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機械仕掛けのエデン  作者: null
一章 貴方に近づきたくて

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貴方に近づきたくて.1

初めましての人は初めまして、お久しぶりですの方はお久しぶりです。

定期的に百合小説を投稿しているnullと申します。


いつもであればどんな百合か書き込みますが、あまり物語の核心を記載しても面白くはないかな、と思いますので、今回は割愛します。

男性キャラも登場しますが、彼らも同性愛者であるため百合には関与しません!

ニッチな内容かもしれませんが、ご興味ある方はぜひご覧ください!

 凛と伸びた背筋が、艶やかな黒髪。


 低く、きちんと調律されたピアノみたいな音を奏でる声。


 それらが、私の視線をいつも吸い寄せていた。


 二十人程度のクラスメイトたちが一斉に詰め込まれた教室に、抑揚に乏しい調子で古代史のテキストを読み上げる先生の声が響いている。


 スクリーンに投影されている映像の中では、遥か昔に起きた戦争の話だったり、今では失われた技術で栄えた灰色の町のことだったりの説明がなされていたが、依然として私は、彼女の背中を見つめていた。


(一番後ろの席になったからって、じっと見すぎかな…?)


 そんなふうに反省しかけるくらい見つめている彼女の制服は、校則で決められたどおりに着こなされており、生真面目でドライな印象を受ける彼女の分身みたいに思えた。


「では、ツヅリさん。西暦人類の人口の99%を削ることになった出来事は何だったのか。覚えていますか?」


 ぴくり、と先生に指名されて、彼女――ツヅリが顔を上げた。


「はい」


 椅子から腰を浮かせたその立ち姿は、歪みも澱みもない。


「核保有国同士の衝突から始まった第三次世界大戦と、戦時中に発生したφウィルスによるパンデミックです」


「よろしい」


 すらすらと答えたツヅリに、先生の声も高くなる。


 これといって取柄もない…強いて言えば、毎日元気でいられることぐらいが取柄の私と違って、ツヅリは成績も良かった。


 それだけならルイに劣る。だが、いつも背を丸めて歩き、誰とも視線を合わせない彼に対し、ツヅリには気品がある。まぁ、人付き合いを好んで行わないのは彼女も一緒だが…。


「では、次」


 先生がレーザーポインタでスクリーンを指す。スクリーンには、人口が激減していく世界地図が描かれており、どこもかしこも真っ赤に染まっていた。


「残された1%の西暦人類は、人種を越えて団結することになりました。彼らがその後どうしたのかは、西暦人類白書の45Pに…」


 私は先生の解説もそこそこに、再びツヅリの背中を見つめた。


 一番後ろの席は、壁とくっついているも同然だから、まあまあ不便だった。しかし、こうして誰にも気づかれずツヅリのことを眺めていられると思えば、先週の席替えは僥倖だったと言えるだろう。


 優等生で、女子の中では背が高くて美人で、あまり群れたがらない。


 それくらいだった。高校生になったばかりの私がツヅリについて知っているのは。


 ツヅリと同じ棟から来た生徒に、何気なく彼女について尋ねたことがあるのだが、彼らは、「頭がいいし、美人だよな」と言った後に、「でも、あんまり知らないや。ツヅリさん、ずっとブックリーダー見てるから」と口を揃えて締めくくった。


 どうやら、人づてにツヅリのことを詳しく知るのは無理そうだった。


 でも、そんなことでは諦めきれない。


 彼女は…私の好みど真ん中だったのである。


(あー…どうにかお近づきできないかなぁ)


 今、ちらりとでもこちらを振り返ってくれないだろうか?


 そうしたら、もしかすると勇気を出してツヅリに話しかけられるかもしれない。『さっき目が合ったよね、どうかしたの』なんて。


 そんなロマンスも裸足で逃げ出す妄想をしていると、不意に、ツヅリがこちらを振り返った。


 え、嘘、と喜びかけたのも束の間。他の生徒も揃ってこちらを振り返っていた。


「――さん。アイさん」


「あ、はい!」


 唐突に先生から名前を呼ばれ、思わず私は飛び上がる。いや、ずっと前から呼ばれていたのか。


「アイさん。聞いていましたか?」


「え?あー…」


 一瞬、嘘を吐いて誤魔化そうかと思ったが、すぐに考えを改める。他者を欺けるようなこと、私が思いつくはずもない。


「すみません。聞いてませんでしたぁ」


 ぺこり、と軽く頭を下げれば、先生はため息一つ吐くことなく、もう一度質問を繰り返した。


「残った1%の西暦人類は、どのようにして絶滅を免れたでしょうか?」


「あー…」


 確か、昨日の授業の内容だった。復習なんてしてないから…答えられない。


「こういう学校みたいな施設を作って、戦争を逃れたんじゃなかったでしたっけ?」


 一応、適当な解答を口にはしてみた。しかし、案の定、先生が満足するような答えを出すことはできなかった。


「では、他の方。いかがでしょう?」


 そんなふうに、先生は誰か他の回答者を求めた。だが、しばらく待っても、誰も手を挙げなかった。そのまま誰も発言しない…と思われた直後、すっと真っすぐ、白い手が天井に伸びる。一ミリたりともずれのない、直立だった。


「はい、先生。私が」


「ではどうぞ、マキナさん」


 名前を呼ばれたのは、学級委員のマキナである。肌以上に白い髪と、青い瞳が目を引く生徒である。


 やがて、マキナは丁寧で乱れのないイントネーションで滑り出す。


「残された西暦人類は、放射能で汚染された地上から逃れられるシェルターを建て、何世紀もの間、義体を用いて居住可能地域を広げていきました。この学校もその一つで、教育や生活援助、娯楽、あらゆるサービスを義体によって行うことが実現された理想的なシェルターです」


 さすがルイと肩を並べられる秀才、と感心するような視線を多くの仲間たちがマキナに向ける。


「はい。完璧な解答です。みなさんも、マキナさんぐらい――とは言いませんが、シェルターの成り立ちと義体に関する説明が可能な程度には理解しておいて下さい。高校生活初めての期末テストで補習を受けたくなければ」


 先生はそう言うと、脚部に付いている車輪を回転させてスクリーンを向き直った。


 先生の背部には頸椎みたいな形のパイプが何本も頭部に向かってつながっており、時折それが、生き物の血管そっくりに脈動した。


 皮肉めいた物言いは人間そっくりだが、先生は人間ではない。義体だ。


 鉄の体で活動し、疑似音声でコミュニケーションを取る。もちろん、私たちとのやり取りは洗練されたプログラムが行っている。まぁ、とはいえほとんど人間と変わらないなぁ、と私は思っている。


 さっきみたいに皮肉は言うし、怒りもするし褒めたり、喜んでくれたりもする。悲しそうな姿は…あんまり見かけないけれど。


 私たちは、物心ついたときから義体に囲まれて生きてきた。


 たまに、“大人たち”が学校の近くに来たときだけ、生の音声通信でやり取りをすることができるけれど、一年に一度あるかどうかだ。


 そのため実際のところ、義体たちが私たちの親代わりだ。


 勉強が分からないとき、不安なとき、どうでもいい話をしたいとき…義体たちは暖かな心で私たちを助けてくれる。だから、私は先生とか、世話役であるマザーとか、美味しいご飯を作ってくれるコックとかが大好きだった。


(たいして会えない大人たちより……先生とかマザーのほうが、よっぽど家族だもん)


 このシェルター生活では、自分の親の顔さえ知らずに育つ。大人にならないと直接会えない決まりだから。


 鉄とパイプと電気で動く背中を見つめていると、不意に、こつんと私の机の上に丸まった紙が落ちてきた。


 中身を見る前に、飛んできた方向を見やる。まぁ、誰がこんなものを投げてきたのかなんて明白なのだが。


 へへっ、と口元を悪ガキらしく歪ませていたのは、整髪剤で短髪を固めたレイジだった。


『間抜け』と口だけを動かして私に伝えてくる。不真面目で型破りな彼とは、中学校の頃から一緒で腐れ縁だった。


「はぁ…」


 ため息をこぼしながら、紙を開く。私はそこに書かれていた言葉を見て、思わず赤面する。


 ――『ツヅリのこと見すぎだろ、この色ボケ』。


 うるさい、余計なお世話だ。


 私はその紙にそう書きなぐると、飛んできたときと同じ軌道でレイジに向かって投げ返す。だが、それをセンサーか何かで見ていた先生にばれてしまって、また一つ叱られた。


 クラスメイトたちの呆れたような笑い声に囲まれ、首を竦めながら、レイジを睨む。


 この野郎、今日の放課後、覚えとけよ。カラオケ、絶対におごらせてやるからな。


 レイジは私の憤りを理解しているのか、していないのか分からない不敵な笑みを浮かべると、大きな欠伸を一つして背もたれにその長身をもたれかけた。


 私はもう一つ、ため息をこぼして前を向いた。


 狭い教室だった。総勢、二十人ほどしかいないクラスメイト。


 私の中で大ブームを巻き起こしそうなツヅリは、こちらの失態を見向きもしないが、皺ひとつない制服が似合うマキナは、みんなとは一拍遅れてこちらを振り返り、遠慮がちに微笑んでいた。


 美人に微笑まれて悪い気はしない。――それが失態とセットでなければ、だが。




「レイジの馬鹿。みんなにめっちゃ笑われたじゃん」


 私はカラオケルームに入るや否や、曲を入れるより先にそう言ってレイジを責め立てた。


「あ?何の話だよ、急に」


「今日の古代史の授業中!…まさか、忘れたの?」


「あぁ」とレイジは炭酸ジュースをひと口あおる。どうでもいいが、ポケットからだらしなくはみ出たネクタイが今にも床に落ちそうである。「お前がツヅリのことじろじろ見てたときな」


「うっ……私、そんなに分かりやすく見てた?」


「おう。見てる。高校生にもなったからか?お盛んだな、アイ殿」


 にやにやと最低なジョークを口にするレイジに対して、私は同じ炭酸ジュースが入ったコップを机に叩きつけながら憤る。


「ちょっとぉ!男子と一緒にしないでよ!」


「へぇ、何が違うんだよ。女の子は」


「私たちは男子と違って、やらしいことが目的じゃないんですぅ」


「おい、それこそ偏見だろ。男だって別にそれだけが目的じゃねぇ奴は多いぜ」


「どーだか」と私は肩を竦めて冗談めかして笑ってみせる。「私が男だったら、すぐにレイジに手を出されてたかもしれないなー」


 すると、カラオケ画面のめくるめく色彩に顔を照らされたレイジが、苦虫でも噛み潰したみたいな表情を浮かべる。


「冗談やめろよ…お前が男だったらって考えんのも気持ちわりぃけどよ…お前が仮に男でも、俺はお前に手を出したりしねぇよ!」


 おえっ、と吐き気を催す真似をしながらレイジがそんなことを言うから、私も頭にきて声を大きくする。


「私だって、男子と恋愛するなんて想像したくもないし!ありえないよね!」


 男子は男子と。そして、女子は女子と恋愛する。


 それが普通だった。環境汚染の影響で、自分たちで子どもを作れなくなった私たちにとって性別なんて関係ないのかもしれないけど…でも、どんな形でも男子と恋愛なんてありえなかった。


 みんなそうだ。私たち人間は、当然そんなふうにできている。


 意味のない空想のために睨み合っていた私たちだったが、やがて、どちらからともなく歌を歌い始めると、そんなことも忘れて余暇時間を楽しみ始める。


 カラオケは好きだった。声を大きく張り上げるのは、なんだかこう…心が解放されているような気がするのだ。


 レイジとは中学校の頃からよくこうしてカラオケに行った。そのときに決まってする話題が、恋愛話だったのである。


 シェルターの中には娯楽も多いが、やはり、この手の話題からしか得られないドキドキ感はある。友人と秘密の共有をする時間は刺激的で、充実している感じもした。


「で、好きなのかよ、ツヅリのこと」


 ひとしきり歌って休憩しているときに、レイジが欠伸しながら尋ねた。


「えー、どう思う?」


「好きだろ。どう見ても」


 レイジは自分から聞いたくせに、『下らないこと聞くなよ』と面倒そうな顔をした。


「まあ、アイ好みだよな。ちょっと陰がある感じで、落ち着いていて知的。自分とは真反対のタイプをお前はよく好きになる」


「最後のは余計すぎだけど…まぁ、やっぱり…いいよね!ツヅリさん」


 やたらと饒舌になった私が少し異様に見えたのか、レイジはずるりと私から一席分距離を離すと、無言のままにこちらを見つめていたのだが…私はそれに気づかないまま、ツヅリの魅力をいくつか挙げる。


「身長高いのはやっぱりいいよね。あと、頭が良いところとか、ミステリアスなところとかぁ、顔も美人でいいよねぇ、一番は瞳。黒目がちって言うの?あー!どうにかお近づきになれないかなぁ!」


 あの美しい瞳で微笑みかけられたならば、私はきっと彼女のために死んだって構わないと思えるほど夢中になるだろう。


 ツヅリが愛想笑い以外で微笑んでいるところなんて、見たことないけど。


「ね、レイジ。何かいいアイデアない?」とレイジに詰め寄るも、彼は苦い顔で、「お前に言い寄られるツヅリが哀れだよ」と口元を曲げた。


「あー!真面目に聞いてよ!」


 私は彼のそんな態度を散々責めたが、レイジは一向にツヅリを哀れむだけだ。彼の好きな人がいれば、その関係構築を手伝うと交換条件を出してみたが、取りつく島もなく、「アイが何を手伝えるんだよ。馬鹿」とつまらなさそうに吐き捨てるのだった。


 それでも私は、今日、レイジに対してツヅリへの気持ちを言葉にしたことで、自分の想いを自覚し、一人、昂揚していた。


 つまり、諦めるつもりは毛頭ないというわけだ。


 私は先生に言いつけられた古代史のレポート(理解度が低いからという理由で与えられた課題だ)のことを頭の中から追い出すと、寮に帰り着くまでの間、ひたすらツヅリと仲良くなるための作戦を考え続けるのだった。

次回の更新は日曜日です!よろしくお願いします。

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状況的にはフォールアウトシリーズのボルトテックかねえ
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