1、いぎょう
「あのひとなんかへん」
「異形に関わるなって言われて___」
「一本角め」
「魔族と魔物の混血め」
友達だと思ってた人の声がかすかに、でも鮮明に響き聞こえてくる。
一人、海底に座っているようだった。
光も見えずその場から動けずにいた。
そこに一筋の光がやってきたのはいつのことだったかな______。
「母さん、姉さん、おはよう。」
僕・十六夜ゆうは階段を降り、家族に顔を出す。
そこにいたのは僕の母と姉。
「ゆう、おはよう」
柔らかく母さんが微笑む。
それに合わせて母さんが頭を少し傾けると、頭部にある2本の角が照明に光を受け淡く白く輝いた。
角?って思った?
そう、僕らは『魔族』だ。
魔族は、頭部に2本の角を持っていることが特徴だ。
詳細は解明されていないが、角があることで超人並みの能力を使うことができるらしい。
それに対し、角を持たない『魔物』も存在する。
魔物と魔族は名前は似ているが中身は正反対だ。
魔物は自我を持たない。自我を持たないため皆敵味方問わず襲ったりもする野獣だ。食べ物を盗んだりもする。
でも魔族は自我を持つ。我ら魔族は、文明を築き 国を作って生きている。
魔物が魔族を襲ってくることは日常茶飯事だ。
そのため国が選んだ人材から編成される”魔物討伐隊”というものが存在する。
魔物討伐隊は皆が憧れていて、生まれ持つ能力を使って魔物を倒し国民を救うというものだ。
いわば、国民の守護者である。
僕も小さい頃から憧れていた。魔物討伐隊になりたいって夢描いて、ヒーローごっこみたく討伐ごっこをしていた。
「僕もあんなふうに人を救いたい」ってね。
でもあの子に『ああ』言われ、光が消えたと同時に、僕の夢は砕け散った。
いつものように友達と遊んでいた5歳のころ。
「ねえねえ!今日も討伐ごっこしよっ!!」
人気の少ないこじんまりとした公園で、一人の少女に声をかけた。
彼女は胸ぐらいまである紫色の髪と瞳が特徴的で、幼いにもかかわらず所作が綺麗な子だった。
そして何より、彼女は僕が初めてできた友達だった。
いろんな子にお友達になりたいといって話しかけてみるものの、その子たちのお父さんやお母さんにいっつも断られた。
彼女とは僕がこの公園で遊んでいる時に、彼女が一人でやって来たのが初めて会った時だった。
初めて友達ができたって嬉しかった。
でもそれと同時に彼女の親に会ったらまた一緒に遊ぶことを断られるんじゃないかと不安だった。
でも彼女の親が顔を出すことはなかった。
それから2年くらい、毎日のように遊んでいた。
討伐ごっこの他にも、お絵描きしたり、ダンスしてみたり。
彼女との日々はすごく楽しかった。
僕の提案に彼女はにこっと笑い、承諾してくれた。
「あなたがやりたいっていうならやってあげる!」
そんなやりとりがいつも続いていた。
——でもある日。
いつも通り、討伐ごっこをしようと誘った時だった。
いつもなら二つ返事で答えてくれる彼女だが、その日は違った。
少し迷ったような顔をして、覚悟を決めたように口を開いた。
「お父様にあなたのこと話したら、異形の子とは関わるなって言われちゃったの。もう、会えないかもしれない。」
「え.......?」
絞り出したような声が漏れた。
僕は目を見開く。
僕の瞳は、おばけを見たかのような…いや、仲の良かった友達が裏切りこちらを襲ってくるかのように揺れていた。
彼女は気まずそうに視線を逸らす。
その目はごめんと謝罪を訴えているような。でも父親の言うことだから逆らえないんだとでも言いたげだった。
会えない……?僕が“いぎょう”?だから…?
いぎょうってなんだろう。
イキのいい餃子の略、みたいな?
いや、僕が餃子なわけないよね。
僕が考え込んでいる間に5秒、10秒、20秒と沈黙が過ぎて行く。
ずっと視線を逸らしていた彼女は居た堪れなかったのか、静かに、公園の外へと歩き出して行った。
一人公園に残された僕は、そのまま突っ立って天を見上げた。
いままで、誰かと遊ぼうとした時、その子のお父さんやお母さんに断られた。
今日も、僕のことを彼女のお父さんが知ったから会わないでと言われた。
何か、おとなにしかわからないことがあるのかな。
“いぎょう”?っていうこととか。
陽が暮れ出した頃、僕は裏路地の知っていないと迷いそうな人気のないところにある我が家へと帰宅した。
帰路を歩いている時僕の頭の中では、彼女に会えない寂しさといぎょうという言葉についてずっと考えていた。
家に着き、リビング(ダイニングと一体化しているようなもの)で難しい顔をして算盤を弄っている母と、カリカリを音を立てて勉強をしている姉のもとへ向かった。
「母さん、姉さん。すこし、いい?」
二人とも集中してるから今はやめといた方がいいという冷静さにいぎょうってなんだろうと言う好奇心が勝ち、二人に話しかけてしまう。
「あら、ゆう、どうしたの?」
「ゆう、どうかした?」
二人が僕の言葉に耳のみならず体ごと傾ける。
僕は二人に伝えた。
友達に会えないと言われたこと。
僕はいぎょうらしいこと。
そして、いぎょうとは何なのかの疑問を。
僕が言い切ると、二人は困ったような悲しいような顔をして目を見合わせた。
目で会話をし、どうするのかが決まったのか、徐に姉さんが口を開く。
「……異形っていうのはね、みんなとは違う、変わってる人のことをいうの。…あんまり、いいことばじゃない。。例えばさ、皆んなと違って身長が3メートルある人がいたとする。みんなとは大きく違うから、そういう人が異形って呼ばれたりするの…。」
“みんなとちがう”“かわってる”
……僕は、ふつうじゃない、ってことなの…?
姉さんに続けて母さんが口を開いた。
「……ゆう、『鏡』って知ってる…?」
「かがみ?」
唐突に出てきた言葉だったから思わずオウム返ししてしまった。
聞いたことはある。高級なものらしいっていうのだけは知ってるけど、どんなものなのかは知らない。
なんでいまかがみが出てくるんだろう。
「見てもらった方が早いわね。ゆう、ついておいで。」
ちょいちょいと母さんに手招きをされ、姉さんにも目で来いと訴えられ、ついて行く。
家を出て、近くの公園(彼女と会っているところとは別のところ)にたどり着く。
少し離れたところには頑丈そうな建物が建っている。夜だからか人通りはない。
どうやら、貴族にはなれなかった貴族の落ちこぼれの裕福なお家が多くある。
この公園はゴミ捨て場になっているのか、母さんはたくさんあるゴミ袋を漁り始めた。
僕の家が貧乏だからって人のゴミを漁るようなことはこれまでいっさいしなかった母さんが漁っていることに驚いて、「うぇ!?か、かあさんっ…!?」と間抜けな声が出る。
見つけたのか、母さんが一枚の板を僕に見せる。
「これが鏡。この間見つけたの。ゆうにこのことを伝える日が来たら、すこしだけ借りとうと思ってて。
鏡っていうのは、光の反射で物体を映し出す道具よ。簡単に言えば、家を映せば家が映って、空を映せば空が映る、っていう.....いわばおんなじものを映す道具なのよ。だから普段なら見れない、自分を見ることもできる。」
そう言って、母さんは震える手でかがみを僕の方へとかざす。
すぐに鏡を見る勇気が出ず、服の裾をぎゅっと握る。
僕がみんなとは違う、”いぎょう”っていうのはわかった。
いぎょうであることがわかっても、かがみをみるのは、怖い。
僕が、僕のことを知ったら......僕自身が”ぼくがぼく”と思えなくなりそう。
ぐっと裾を握る手に力を込めて、母さんの持つ鏡を見る。
すると、かがみの中にいる僕と目が合う。
紫がかった青い瞳。
男の子にしては少し長い、白い髪の毛。
普通だった。
みんなとおんなじだった。
なんでいぎょうって呼ばれてるんだろうって思った。
変なところはないのか......と安心して身を引きくと、かがみに映る僕が小さくなり上半身全体が目に入った。
そこで僕は気づいた。
普通なら二つあるはずの角。
頭に右と左に一本ずつあるはずの角。
___それが、右に.....一本しかなかったのだ。
「ぇ.................」
彼女に別れを告げられた時より、深く、鋭く、僕の心に刺さった。
目の前が真っ暗になり、僕の中にある光が、消えた気がした。
やっと1話書き終えました!!
一年前くらいからこんな話書きたいな〜って検討しつつも書いてなかった作品です。
私は読んだお話に影響されがちで書いた小説を友達に見せたら、「〇〇(有名作品)に似てるね〜」と言われて、パクリになりたくない!と試行錯誤(と言えるかわかりませんが...)したものです。
男の子主人公、初めてなので女々しくなってそう.....
この話だけ長めです。




