第61話 茶会のお詫び
「さて、どうした事か......」
天は虚空に向かって呟いた。天を悩ませている難題は端的に言ってしまえば美少女の茶会の誘いに乗るか、乗らないかだ。
まあそれだけ聞くと「ふざけんな!」、と言いたい所だがここには複雑な政治的背景という奴が関係してくる。
要は茶会を誘った相手、アキ ユズリハは敵の聖級戦皇士なのだ。
「でも玄様がいない時に問題を起こすのは......」
帥が同じく、悩む。
「天さんは何を悩んでるんですか。 いつもは頭が良いんだからとっと、と決めたらいいじゃないですか」
天は頭が良い。元来の生真面目な気質のおかげで今まで努力を怠らず頑張ってきた。実際戦場では思い切りが非常にいいが、平時では普通に頭は良いはずなのに、優柔不断な奴となる。
「分かった。 決めた」
天が空澄はの言葉に押されて決める。結果的には空澄の一言が役立った形だ。
「で、どうするんですか?」
空澄が急かす。帥も口では言わないが早く聞きたい思いだろう。
「茶会には行かない」
「はっ!?」
「えっ!?」
空澄と帥が声を重ねる。
思わず当の天が驚いてしまったぐらいだ。
「い......やなんで、そういう流れでヘタレなんすか......?」
「えっだって勝手にしたら怒られるだろうし」
「天さんは欧州支部のトップなんすっよ!」
空澄が驚きと呆れが混じった時の旭のような顔をする。
「まあ天様がそう決めたなら仕方ないですけど、せめて断る非礼に対する贈り物ぐらいは用意しないといけませんよ」
帥はもう既に感情を押し殺したようで一つ提案する。
まあせっかくのものを断るのだから当たり前の事だろう。
「じゃあせめて贈り物ぐらいは良い物を選ぶよ」
天は満面な笑みだ。空澄以上に憎めない。
「で、何にするんですか? 贈り物は」
「何がいいかな?」
帥に対して天が聞く。天は今まで女の子と付き合った事どころか何かをプレゼントした事もない。だから経験がありそうな帥に聞いたのだ。
「えー 僕に聞きます? 絶対天様の方が詳しいと思いますよ。 天様って人気じゃなかったですか、下の女子から」
「えっ 天さんが?」
「えっ? 違うんですか。 僕は一期下ですけど、軍学校の女子で告白とかしようとしてた人とかいましたよ」
そんな世間話を帥と空澄がしている。天は上の空だ。
「そう言えば自分から女性にものをプレゼントするなんて機会なかったな......」
天が苦悩する。正直こんな事で悩むべきでもないが、天は初心者だ。過剰に失敗することを気にしている。これで、気持ちが一番ですよー、なんて言える奴はいないだろう。
「まあ普通に無難で相手を怒らせないものならいいと思いますよ。 最初に折角の誘いを断ったのはこっちですから」
「いやーでも無難なのじゃ......」
「じゃあ指輪でも贈ったらどうすっか」
空澄がクスクス笑いながら言う。
もちろん冗談だ。指輪なんてものを本気で異性にプレゼントする訳が無い。そんなの好意を伝えるようなものだ。無論空澄はそういう共通認識があると思って言ったのだが。
「確かにそれでいいかもね」
「はっ?」
「驚きましたよ 天様が指輪なんかを贈るって言い始めたときは」
「まさか指輪を贈ることがそういう事だなんて知らなかったから」
帥が苦笑いする。まさか自分の尊敬する上官がそんな事も知らなかったら苦笑いもしたくなるだろう。
「そんなことより、贈るのは本当に組紐でいいんすか?」
「うん。 丁度本土から新品で良いのを持ってきてたんだ」
結局相手に贈るのは組紐にしたらしい。現に天が大切そうに抱えている、指輪を入れるような高級感あふれる小さな箱にはこれまた高級な組紐が入っている。
空澄がその箱を興味深そうに眺める。
「ちょっと見てみても?」
「いいけど贈り物だから触らないでね」
「へぇい」
天が丁寧に箱を開ける。中から出てきたのは、桃色がかった赤色と銀白色が上下に分けられた組紐だ。さすがに最高級品だけあって息を呑むような美しさが見てわかる。
「綺麗ですね。 ていうかこれ天様がいつもつけてる組紐の色違いじゃありませんか?」
すると天は「そうだよ」、と自分の右腕につけている組紐を見せる。こちらはピンクではなく藍色で上の部分は同じく銀白色だ。
「じゃあ僕が届けてきますね」
そう言って帥が城壁を高速で走って向かっていく。
「ユズリハ様、 皇国欧州支部総司令官は誘いを断るとの事です」
「分かりました」
銀髪の美少女が簡易に設けられた椅子の上に座り紅茶を飲みながら優雅に読書をしていた。その様子はそこが城壁の上である事を忘れさせるほど気品に満ち溢れている。
「ただそのお詫びにこのようなものが」
無表情の従者が小型の箱のようなものを差し出す。アキはそれを優しく受け取る。
従者が一礼して離れるのを見届けてアキは箱を開けてみる。
中から出できたのは刀の柄や髪を結ぶのに使う美しい紐だ。
アキは組紐をとって自分の長く白い髪を結んでみる。
自分からは見えないが似合っているのだろうか。
そんな気持ちになりながらまた読書に没入する。
誤字報告ありがとうございました!




