第40話 敗北
準2級以上の戦皇士の技を初手から完全に知覚するのは、最強の戦皇士である聖級戦皇士でさえも無理である。だからこそ全ての戦皇士にとって初手は重要であり、格下の戦皇士からしたら格上に勝てる最上の機会なのである。
そして名実共に聖級戦皇士である天を殺すには最速の一撃を叩き込むのが定石なはずだった。
「――ッ」
天は有り得ない、と口をふさぐ。
その男、バタイは少なくとも聖級戦皇士ではない。一カ国に一人しかいないヨーロッパの聖級戦皇士は写真を見てきた。
ならばバタイはその一個下の一級戦皇士だろう。
なのに彼は何もしなかった。
派手な演出のあとで普通の戦略をしないという事は分かってはいたが、みすみす一撃目を格上にくれてやるのは常軌を逸している。
――ならば
天は苦々しくもバタイの策に乗ってやる、と顔を上げた。
「速殺」
天が刀を振る。文字通り早く敵を殺すことだけに特化したこの技は余程のものでないと避けることさえ難しい。にも関わらず当たれば死亡という万能な技で代々天凪家に伝わってきた。
この技に当たるのが危険なのはバタイも分かっているらしく華麗なステップで横に移動し、天の刀は空を切る。
「お前はさ 俺を舐めてるのか? わざわざ時間を与えてやったのにこんなんかよ!」
バタイがそう叫ぶと剣を抜き取る。
「死命」
叫んで斬りかかる。強烈な一撃だ。魔力が溢れ出て剣の周りが赤く鮮やかな気体で彩られている。そこからは瞬きの様な瞬間での剣と刀の殴り合いだ。
斬られては避け、斬られては避けの持久戦。
天が隙を突いては、バタイが首をめがけて斬りかかる。
天はその鋭い刃を上半身を反らせて避けた。
旋風が巻き起こりバタイは後ろに引く。出来た隙をカバーするためだ。その間に天は周りを見渡す。
帥ら前方軍は20m後ろに退いて乱戦となっている。流石にバタイ以外は半径10mの間合いに近づいていない。ただ天は初めて自分が孤立していることに気づいた。もし敵が決死の覚悟で間合いに入ってきたらバタイの攻撃と相まって自分は危なくなるだろう。
仕方なく大ジャンプで飛び越えて味方との合流を図ろうとするとバタイが迫ってくる。
「お前の相手は俺だぞ!」
「くそっ」
迫ってきたバタイに空中戦で対応できるほど天の滞空時間は長くない。 バタイからの攻撃を躱しながら不本意な形で着地する。
その致命的な瞬間をバタイは逃さず強力な技を叩き込んでくる。
「霹靂神」
雷のような光が剣に纏わる。
「雷系も使えるのか!」
「残念ながらこっちがメインだよ!」
振りかざされた剣は力を解き放ちその全ての力を天に向ける。 空中から重力を操るように体勢を維持してバタイは一瞬で斬る。
周囲が焦土になるのがわかった。雷系の技は被害が派手だ。バタイの間合いは完全に彼によって支配されている。
早く間合いから逃げなければならない。そうでなければ間違いなく死ぬ。そんな事は分かっていても体が動かない。
剣戟の直後、沈黙があったのが分かった。その数瞬後、雷鳴と突風が起こる。頭が痛くなるような音あ響く。こんなに反応が遅れては被害を防ぐのは不可能だ。
「守護天者」
天はそう呟いた。
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