第38話 阻む者
――血義人
かつてオーストリ帝国の外地を荒し回った遊牧民族がいた。その民族は「血義人」と言う名の通り、血による誓い、その名も
――血盟
を全ての上に置き、どんなに小さな約束でさえ血で結び、違反すれば殺害という手段で滅ぼした。これだけ聞くと大した事では無いと思うが、彼らは強力な武力で攻め込んだ都市の領主に過酷な要求を突きつけ守れなかったら都市ごと滅ぼすという鬼畜の所業を平然と行っていたのだ。
この帝国とは相容れない野蛮人の存在に当時の帝国は許せるはずもなく、皇帝自ら大軍をもって征伐し、血義人を滅ぼした。
ただこの征伐の中、血義人の生き残りが一人いた。
バタイ リンドウと名付けられた幼児である。彼はオーストリア帝国の名高い貴族に育てられ礼儀という貴族必修の教養を犠牲に武力という類まれなる力を得た。
そして今では血義人と言えば彼一人のことを指すのである。
バタイは苛立っていた。
「で、火の手は都市庁舎に向かってないんだな」
「はい 爆発は専ら総司令所の西側に集中していますから」
「分かった 下がれ」
――だから言ったんだがな
結局忠告にコウは従わなかったらしい。ただあの状況では例え従ったとしても大した対は出来なかっただろうが。
やけに冷静というより冷めている自分にバタイは底冷えする。いつもの自分らしくない自分に戸惑うが、そんなバタイをおいて状況は変化する。
耳を破壊するような声が広大な大地を揺さぶる。そして直後に馬が走る音や機械音が響く。
「始まったか!?」
「そのようです! 皇国軍後陣が進み始めました!」
「いよいよじゃねぇか! 皇国のカスども!」
「帥 オーストリア帝国軍は本当にいないんだよね?」
「はい 丹念に調査しましたが帝国軍の影は発見できませんでしたから多分いないと思います」
「ならいいんだだけど」
あまりの不気味さに天は帥に今一度確認する。
市街地では皇国軍の進む音以外全く聞こえない。市街地の大通りを皇国軍が行進しており、不安を拭っている間に門が遠目に見える所までやって来た。
余りに生易しい敵地での行進だ。ここが敵地であることを忘れさせてくれるような静けさだが夜闇での行進であることもあり、兵には奇襲を想定しろと話してある。
緩慢とした歩みが完全に停止する。人が一人、大通りを塞いでいるからだ。
短い茶髪に黒光りする瞳、月明かりが照らす男は明らかに一般人ではない気配を持つ。天が動こうとする帥を静止しようとするのも間に合わず帥は前に進む。
「もしよろしければ道を開けていただくと助かります」
笑みを浮かべ紳士的な物言いで目の前の謎の男に警戒心を解かずに言う。
「じゃあお前と後ろの男が死んでくれるなら道を開けてやるよ」
挑発的な笑みを浮かべる男はそう言った。




