十八章収穫
「〈ドンガメ亭〉を知っているのか!?」
店長の思わぬ一言に俺は飛び上がった
「当然よ。この名前はバオさんのために私がつけた名前だもの」
聞けばバオさんとはサービス開始時からの友人らしく当時のメンバーらとオフ会でスッポンを食べに行った時につけた名前のようだ
月日も流れ運営の腹黒さも明るみになってからメンバーが入れ替わった後もこの名前にしていたあたり仲の良さもうかがえる
しかもしばらく聞いていると彼はゴルさんのことも知っていた。かなり旧来のプレイヤーだったのだ
まさか近所にドンガメ亭のクラン員がいたなんてなんの運命のめぐり合わせか
「大体のことはポヨロコで聞いてるわ。バオさんとクランの方は残念だったわね。」
店長は残念そうな顔で話す
当然だ。俺以上の長い時間をそこで過ごしたのだ
まして、自分で名前をつけているなら尚更だ
自らの関わらないところで何処の馬の骨かもわからない人間が突っ走った結果思い出の場所も友達も失ってしまったのだ
そして
「すいません。自分が至らなかったばかりに。俺が・・・」
無力さと不甲斐なさでいっぱいだった俺に店長はこれ以上はよしなさいと言わんばかりに制した
「いいの、あなたは自分のなすべきことをしている。現にあなたはワザンたちと戦ってるじゃない」
彼は俺を責めるどころか落ち込む俺のために奮闘を讃え励ましてくれた
ごめんなさい。必ず仇はとります。
・・・
一息つき
ギャルの子がエルディナの面倒を見ているのをよそに
俺はワザンがどうしてヤガミ側についたのか、そしてエルディナについて聞いてみた
一介のプレイヤーがゲームのプロデューサーにズブズブというのは身内だからなのかと当初は思っていたのだがどうもちがうようだ
「ワザンだけではないわね、ヤガミは自分に忠実で強さのために大金も払うような人間なら誰だって配下にしてるわよ」
俺はあの時の言葉を思い出していた。
ひと月に十万上納すれば厚遇してやるということを
あれは俺を馬鹿にするためではなくて本当に引き入れるつもりだったのだろうか
「彼は自分の下に配下を作ることで地盤を固めるつもりでいる。言うなれば『兵隊』と言ってもいいかしらね」
奴らしいと言うかなんというか、あの偉そうな態度を見て薄々は分かっていたが、奴は自分が神か何かだと思っているのだろう
それから店長がプレイしていた時に起こった不思議な出来事も聞き出すことができた
「あのおかしな依頼群を見たでしょう?みんな初めは「他の作品との差別化であえてやってる」と半ば冗談のつもりで受けていたんだけどもそのうち感覚がおかしくなった人が出始めたの」
おかしな依頼とは何かにつけて味方同士で殺しあったり犯罪者を守らせたあの依頼のことだ
「それが店長の言う『兵隊』を作るための手段だったと」
「そう。モラルとか考え方とかだんだんと段々とおかしな方向に持っていかれそうで、私はギルドバウトを引退したってわけ」
店長の言っていることは少し大げさに思えたが
エルディナについてもなにか情報があるのではと思い聞いてみたのだが、さすがに何も情報は聞き出さなかった。
しかし、そのかわりに気になる情報を聞くことができたのだ
「ごめんなさいね、力になれなくて。ところでギルドバウトオンラインに幽霊が出る噂は聞いたことある?」
「幽霊?」
AI技術が発展した昨今、VRの世界にまで幽霊が現れるとは到底思わなかったが話を聞いてみることにした
「あくまで噂ってことで聞いて頂戴。依頼中に本来通れない場所や依頼のルールでできないことをしてしまった時、使われてないマップに飛ばされるーー
なんて話が昔あったの」
聞けばそこにいるキャラクターが何やらAIじかけのNPCとは思えないような言動を発したり、プレイヤーに何か訴えかけるような素振りをとったり、さながら人間が操作しているようだと言うのだ
まさにエルディナのそれとおんなじだ
「仕事中に亡くなったスタッフたちの魂が憑依したなんて話が昔あったのよね」
「それじゃあエルちゃんがその『幽霊』ってこと?」
さすがギャル、もうエルディナをあだ名で呼んでいる
だが、今までの話を考えると幽霊というのは辻褄があう
「わからないけど、もしかしたらお前の記憶につながるヒントかもしれないな」
「私の記憶・・・」
「大丈夫だよ、エルちゃん!私と店長も記憶が戻るようお手伝いするから!」
「最近はお店の方も暇になったし私もチカラになるわよ」
思いもしなかった収穫と協力者
サキちゃん(ギャル)はギルドバウト以外のVR MMOを掛け持ちしているようで、顔も広いらしく、エルの事について調べてくれるというのだ
店長もあのゲームに復帰してくれるらしいから今後の戦いは楽になるかもしれない
旧知の仲とあってゴルさんと連絡が取れるとのことなので頼むことにした。|(団長は「忙しいから」という理由で連絡はできないらしい)
「コーヒー代は取っておいて頂戴。久々に同じゲームのプレイヤーとお話しできて楽しかったわ。」
「カズナリさん。今度はゲームのこと聞かせてね!」
外に出ると日は沈みかかっていた。少し長居しすぎたかもしれない。俺とエルは二人に礼を言って店を後にした
初めて寄った店なのに結局コーヒー代をご馳走になってしまった。今度はちゃんと支払おう




