↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弦食イヅルはダンジョンに嫌われている  作者: 深見萩緒
第3章:ダンジョン・イーター
PR
64/64

魔力消耗戦 ②



 右脚が繰り出した蹴りを避け、膝辺りを両断する。掴みかかってこようとする右腕をいなし、手首を切り落とす。


 遅い来る右脚も右腕も、特段強くはない。だが……数が多すぎる。



 次々に天井からスポーンする手脚に、俺もカレンも息つく暇がない。

 手脚どもは妙にタフで、多少のダメージでは怯むことすらなく襲いかかってくる。


 数の多い敵は魔法で薙ぎ払うのが楽なのだが、通路が狭すぎてそれも難しい。

 トンネル状のこの通路では、下手に魔法を撃つと巻き添えを食らったり、最悪壁や天井が崩落する危険もある。


(それでも、カレンのバリアがあれば――……いや、駄目だ)


 この先どんな敵が待っているかも、どんなギミックに阻まれるかも分からない今、なんでもかんでもカレンに頼って魔力を浪費するのはまずい。


 なぜならこいつら――倒しても魔石を吐かないからだ。



 倒されたモンスターは、多かれ少なかれ魔石をドロップする。

 その魔石を上手く使って魔力を回復しつつ最奥を目指すのが、ダンジョン攻略の基本的な動き方だ。

 それなのに……


 一定のダメージを与えると、手脚たちは泥水になって形を失った。魔石の代わりに残されるのは、汚らしいヘドロのような水たまりだけ。

 これじゃ、魔力の回復ができない。



「んなのアリかよ……っクソ!」


 しかもヘドロが床を滑らせて、戦いにくいことこの上ない。手脚は次から次へと落ちてくるし、このままじゃ無駄に体力を削られるだけだ。


「先輩、こっち! 一時退却です!」


 カレンの呼ぶ方に視線を向ける。重そうな金属製の扉の前で、カレンが俺に手を振っている。扉の上には「非常口」の緑色のランプ。


 カレンもまた、俺たちの置かれた不利な状況に気が付いているのだろう。

 予想外のことが起こったら、速やかに一時退却のち対策を考えて立て直す。ダンジョン探索の鉄則だ。


 まとわりついてくる手脚たちを蹴り飛ばし、俺は扉のノブに飛びついた。




「はぁ、はぁ……助かった」


 扉に寄りかかったまま息を整える。カレンも「ふう」と息をつき、少し疲れた様子だ。


 非常口の向こうは階段の踊り場で、敵の気配はなかった。


 扉の向こうから、手脚たちが体当たりをしてくる鈍い音と衝撃が響く。幸いなことに、ノブを回して扉を開けるほどの知能はないようだ。



「何だあれ。倒しても魔石ドロップしねえとか卑怯だろ……」

「そうですね。1体だけなら、運悪くスカだったってこともなくはないんですが……あれだけの数となると、例外が過ぎるというか」


 また「通常ではあり得ないこと」だ。

 もう3度目ともなれば、異常事態が発生すること自体には慣れっこだ。ただし、異常事態そのものには慣れないが。


「こんなんばっかだぜ。俺、ほんっとダンジョンに嫌われてんだな」

「みたいですね。さて、それじゃあ……魔力回復ができない、この状況に対する有効打ですけど」

「そんなもんあるか?」


 俺が言うと、カレンはため息をついた。


「そうですね。私も、パッとは思い浮かびません」

「だよなあ」



 ダンジョン探索において、魔力残量は命の残量のようなものだ。


 ダンジョン深層のモンスターやダンジョンギミックに魔法なしで対処できるのは、よほどフィジカルスキルに自信のあるやつだけだ。

 たまにそういう奴もいるが……俺もカレンも脳筋タイプじゃない。


 それに何より、魔力残量が一定量を下回ると、耐え難い疲労感や意識の混濁が起こる。そうなれば、待っているのは死のみだ。



「おーいモノちゃん。なんか良い案ねえの?」

『魔力回復が困難な状況での、ダンジョン攻略の戦略ですね。思考します、少々お待ちください……』


 ランプを点滅させながらじっくり思考したのち、モノちゃんは『魔力回復が困難な状況でのダンジョン探索は非常に危険です。速やかに脱出しましょう』と、何の参考にもならない答えを叩き出した。


「さすがは官製AI。面白味もクソもないですね」

「あんま言ってやるなよ。こいつも一生懸命考えてんだから」


 期待した俺らが悪かったと言える。



 とはいえ、確かに脱出が最善であることも確かだ。

 魔力を出来るだけ温存し、可能な限り早く脱出する――くらいしか、俺たちに残された手段はない。


「とにかく脱出、ですね。じゃあ、行きましょうか」

「そうだな。まずは地図作成を……」



 その時、頭の中に奇妙な感覚が割り込んだ。

 どう奇妙なのかは表現しづらい。耳のすぐそばを羽虫が飛んでいったようなノイズが走り、それから……


『あ、いづるん! カレン! 聞こえてるー!?』


 唐突に、頭の中に直接つぐみの声が響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。