2-13 商業区
図書館での調べ物を終え、昼食を食べた後で再びログイン。
「この辺りが商業区ですね」
向かった先は商業区と呼ばれる区域。
食材や道具、素材などを取り扱うアイテムショップやフリーマーケットが固まったエリアです。
『蚤の市みたい』
『ここで買物するの?』
「買物自体はショップの方でする予定ですけど、ちょっとフリーマーケットも覗いてみようかと思って」
フリーマーケットはNPCではなくプレイヤーが露店を開いてる場所になります。
露店を設置するためには『露店許可証』というアイテムが必要で、この露店許可証は商人ギルドで購入可能。
ちなみに値段によってグレードがあり、高ランクの物だと非ログイン時でも放置可能だったり、インベントリから自動的に商品の補充をしてくれたりするらしいです。
なお露店を出すだけなら実は課金すれば可能。ただしこっちは正式には許可されていない――いわゆるモグリの露店になり、油断してると衛兵さんに撤去されてしまうので注意が必要になります。
『結構無人の露店も多いな』
「ログインしてれば放置もOKらしいですよ」
ゲームですからね。並んでいる商品はちゃんと支払いを済ませていないと持ち出せない仕様になってます。
私としても店員のいない露店の方が気楽に覗けていいです。ショッピングしてて声かけられるの苦手なんですよね。
ブラブラと露店の間を歩き、薬草などの素材類があれば適当に買っていきます。
そんな中、
「…………ん?」
目に付いたのは、とある露店に並んだ商品。
[素材]呪われた鰻の皮
霧の森の沼に棲むポイズンイールの皮。
一定以下の切れ味の斬撃に対して抵抗を持つ。
呪いに侵食されており、そのままでは使用できない。
[素材]呪われた蟻の甲殻
廃鉱山に棲むGアントの甲殻。
軽く、丈夫で僅かに酸への耐性がある。
呪いに侵食されており、そのままでは使用できない。
[素材]呪われた妖樹の木材
霧の森に棲むトレントから採れる木材。
普通の木材より丈夫で魔力の通りが良い。
呪いに侵食されており、そのままでは使用できない。
露店に並ぶ商品の全てに『呪われた』と付いていますね。
「お嬢ちゃん、この商品が気になるのかい?」
「……え、ええ。まぁ気になると言えば気になりますけど……」
「だろ! これ全部今の最前線のモンスター素材なんだぜ!」
多分声をかけてきたこの男性が露店の主なんでしょう。
聞いたことのないモンスターの素材ばかりですし、最前線なのかどうかはともかく少なくとも私より進んだ場所のアイテムなのは間違いなさそうですけど……。
「でもこれ、そのままだと使用できないって書いてますけど」
「まあそうなんだけど、ほら、結構レアな素材もあるから! なんならサービスもするからさ!」
「いや、あの、買っても加工できないんで……」
レアだろうがなんだろうが、素材の系統的に〈調合〉スキルじゃ加工できないんですよ。
そう言って立ち去ろうとしたものの、男性は私を追いかけてきてセールストーク?を続けようとします。
『えらいグイグイ来るな』
『下心があるようには見えないけと、なんでこんな必死なんだ?』
「はいはい無理な客引きは御法度だよー」
私がどうしたものかと悩んでいると、突如として男性の後ろから肩を叩く人物が現れました。
銀色に輝く立派な鎧を着た30歳くらいの男性ですね。街の衛兵さんでしょうか?
「キミのところの露店、許可取ってないやつでしょ? あんまり騒いでると衛兵が来て商品ごと全部撤去されちゃうよ?」
そう注意された男性は、「わ、分かったよ。気を付けるよ」と、すごすごと自分の露店の方へ戻っていきました。
おお、スムーズに話が付きましたね?
「えーっと、ありがとうございます」
「いやいや。それが僕らの仕事だからね」
話を聞くと、どうやら彼はこの世界に数人とも数十人とも存在している“GM”と呼ばれる存在らしく、このゲームのトラブルを解決するご意見番のような役割を持つ人物だとのこと。
「もし困ったことがあったら変に我慢したりせずに気軽にGMコールしてねー」と口にしてその場を去っていきました。
『なんか嵐のような展開だったな……』
『アリーシアちゃんこれからどーすんの?』
「うーん、なんとなく気が削がれちゃいましたし、大人しく製薬ギルドに行って生産ですかね」
その前にまずは材料を買っておきましょうと、フリーマーケットを抜けてやってきたのは食料品――主に香辛料などを扱ってるお店です。
そこでにターメリック、クミン、コリアンダーやシナモンなどの他、ミント、ローズマリー、カモミール、タイムなどの香草類を購入します。
『そんなに香辛料ばっかり買って料理でもするの?』
『アリーシアちゃんの手料理食べたい!』
「残念ですけどこれは調合に使う材料ですよ」
現実世界でも香辛料は漢方に使われたりしますからね。ゲームでも同じような用途で使えると図書館で読んだ本に載ってました。
買い物を済ませたら次は製薬ギルドへ。受付でデイリークエストのアイテムを納品し、乾燥した薬草を受け取ります。
「すいません。このキノコを乾燥させて欲しいんですけど、どれくらいかかります?」
「半日だね。急速乾燥させることもできるけど、そっちは有料になるよ」
時間が勿体ないですし、お金を払って急速乾燥して貰いましょう。
「了解。30分くらいで終わるから、終わったら作業室に持って行けばいい?」
「そうですね。お願いします」
取り出したキノコを受付のお兄さんに渡し、作業室を借りて調合を始めます。
「さて、じゃあ早速生産していきましょうか」
使うのは乾燥した薬草と各種香辛料。
それらを作業室にある薬研を使って細かくしていきます。
『このゴリゴリ音いいね。ずっと聞いてられる』
『切り抜いてループ再生したら睡眠用BGMに使えそう』
薬研で粗挽き状態になった素材を、今度は乳鉢に入れて粉末状に。
「乾燥終わったよー」
受付のお兄さんから乾燥したキノコを受け取り、これも細かく砕いていきます。
材料が全部粉状になったら、それぞれをきちんと計量して混ぜ合わせて、と。
薬品ですからね。計量は大事。
私の場合、料理なんかはいつも目分量でやって失敗しますからね。それで何度千鶴に呆れられたか。
「あとはこれを薬包紙で包んで――完成っと」
できた物を〈鑑定〉してみます。
[消耗品]風邪薬
フレーバー薬。
感染症に効果的とされている。
なるほど、フレーバー薬。実際には無い方が不自然だけど、プレイヤー的には関係無い物……つまりゲームデータ的な意味は無いよ! という物です。良いですね、こういうの。
その後も同じように薬を作り続け、無事に依頼に必要な分量を用意することができたのでした。




