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マックは自然な疑問として、オリオン王太子に問うた。なぜマクドナルト嬢についてそんなに詳しいのかと。ピーナッツがダメであることを、マックは知らなかった。それはそうだろう。自分の健康問題についてべらべら話すことはない。クラスメイトや教師陣も知らなかったと思う。それなのにオリオン王太子は当たり前のように把握している。かつオリオン王太子は確かにマクドナルト嬢と密談をしているのだ。マックが婚約者であるわたくしより、マクドナルト嬢に関心を持っているのではないかと勘繰るのも当然だった。
一方のオリオン王太子はため息をつく。
「君が公爵家の次期当主でなければ、王族の一人として、侮辱罪を問うところだ」
「!? で、殿下、それは……!」
「最初に言ったはずだが。マクドナルト嬢は転校してきて、授業に追いつくのに難儀していたと。補講を受け、その後は僕のサポートを受けていた。密談などではなく、勉強を教えていただけだ」
これにはマックは「しまった!」と実にバツの悪い表情となる。そしてすぐに「申し訳ありませんでした」と体を二つ折りにするようにして謝罪した。するとオリオン王太子はまったく想像していない一言を口にする。
「その謝罪、僕だけではなく、マクドナルト嬢にもするべきでは?」
「!」
マックの表情が固まる。
「マック・エグバート・マーフィン。君はマクドナルト嬢のことが好きなのだろう? 彼女に告白した。でもお断りされている。そこから君は……自分の気持ちを受け入れなかったマクドナルト嬢のことを逆恨みするようになった。ピーナッツクリームがサンドされたラングドシャだけではない。大量のラブレター、山ほどの髪飾り、それに……ガーターまで沢山贈りつけた」
これを聞いた女生徒が眉をひそめる。いくら金持ちのモテ男でも、マックは禁忌をおかしている。なぜならガーターは靴下がずり落ちないように太腿や膝に巻いて使う下着なのだ。下着を異性に贈るなんて、この世界では完全なるタブーだった。正直、そんなことをされたら「気持ち悪い」であるし「変質者だわ」と言われても仕方ない。
(さしものモテ男の名もここで返上ね……)
「マクドナルト嬢は振った君からの嫌がらせに悩んでいた。さらに追い打ちをかけるように、食べると不調になるピーナッツクリームがサンドされたラングドシャが大量に贈られてきたんだ。マック以外で自身の命を狙う人物までいるのではないか――そう悩んでいたことを僕に打ち明けたんだ。密談も親密も関係ない。学級委員もしている僕への相談だった」
マックはオリオン王太子のこの言葉に完全に撃沈。口を半開きにしてフリーズしてしまう。
「マックだけを責めるわけにはいかないな。なぜならフィレオ、スロー、君たち二人も同じだろう? 二人もマクドナルト嬢に告白して、振られている。好きという気持ちが強かった分、拒否された事実への反感はものすごいものだった。可愛さ余って憎さ百倍となってしまったのでは? そこでマクドナルト嬢を助けるふりをして、彼女の不幸を願うようになった。そして同じ穴の狢だ。お互いの思惑に気づき、フィレオ、スロー、マック。君たちは手を組むことにしたんだ」
オリオン王太子の発言に生徒も教師もみんな「えええ!」と驚いているが、それはわたくしも同じ!
(当て馬令息たちがヒロインに振られた腹いせに、徒党を組み、彼女の不幸を願うなんて! あり得ないことですわ!)
だがそのあり得ないことが粛々と進行していたのだ……!
「君たち三人は、ウェンディとマクドナルト嬢が一見すると不仲に思える関係性に着目した。そして僕とウェンディが勉強のために会っているのに、密談をしていると勘違いしていたんだ。そこで一つのシナリオを作り上げた。公爵令嬢であるウェンディが、平民のマクドナルト嬢に嫌がらせをしていると。そんな令嬢、王太子である僕の婚約者に相応しくないと。ウェンディ有責で僕が婚約破棄できるよう、お膳立てしたわけだ」
マックと同じように、フィレオ、スローの顔色が青ざめ、口を結び、固まってしまう。オリオン王太子はその三人の様子を見ながら、話を続ける。
「バーガー辺境伯は、蛮族の撃退に成功し、国境付近が平和になると、鉄道事業を推進した。王都と辺境伯領を結ぶ大規模な鉄道事業をスタートさせ、そこでマクドナルト嬢の父親も大活躍している。この功績を踏まえ、マクドナルト卿には男爵位を与えることが決定しているんだ。マクドナルト嬢は男爵令嬢になる。そうなれば僕の婚約者になることも不可能ではなくなるだろう。それを宰相の息子であるスロー、君はいち早く気がつき、シナリオに盛り込んだわけだ」
そこで一呼吸すると、オリオン王太子がズバリ指摘する。
「マクドナルト嬢への嫌がらせを理由に、僕にウェンディとの婚約を破棄させる。その上で、親しくしているマクドナルト嬢と僕が婚約すればいいと考えた」
当て馬令息たちが突然わたくしの罪を並べ立てた理由は理解できた。オリオン王太子がわたくしと婚約破棄し、マクドナルト嬢と婚約できるよう計画して動いたわけだ。
(でもこれはこの乙女ゲームの世界での正解よ。ここはヒロインがオリオン王太子をロックオンした世界。王太子攻略ルートでしょう。ヒロインと王太子のゴールインでゲームはクリア。ヒロインのハッピーエンドだ。当て馬令息はヒロインの不幸を願ったが、結果としては幸せにつながる。つまりフィレオ、スロー、マックの三人は空回りしただけ? 自分たちのことを振ったヒロインの不幸を願うため行動するも、これもまたシナリオの抑止の力に阻まれたということ……?)
「もし君たちのシナリオ通りで物事が進んだら……ウェンディとは婚約破棄だ。そして僕がマクドナルト嬢と婚約するなんて言い出したら、それこそ不幸の極みだろう。だがそうなることを願ったのだろう? フィレオ、スロー、マック、君たち三人は?」
これにはオリオン王太子に「違いますわ!」とわたくしが答えたくなる。どうしてそこで不幸なのかと。オリオン王太子とマクドナルト嬢婚約=ハッピーエンドなのに!と。
「……殿下。降参します。その通りです。殿下と婚約したら、マクドナルト嬢は不幸になる。それを目論んでいました」
スローの言葉に、わたくしは目が点になる。
(え、どういうことですの……?)
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