\黄金トリオ/
「アメリカーナ・ポテトだけでも大満足ですが、このオニオンリングも癖になりますわ!」
「アメリカーナ・ポテトはトリュフといただくので、格式がありますでしょう。でもこのオニオンリングは庶民的というか。こうやって摘まんで、様々な味わいのソースでいただく。どこかカジュアルで気負わずに楽しめて、とても気に入りましたわ!」
「特にオニオンがこんなに甘みがあるなんて……。とても驚きました。でも不思議なのですが、ポテトとオニオンリング。なぜかあともう一品、欲しくなるのはなぜなのかしら?」
薔薇姫会のお茶会でオニオンリングを提供すると、参席している令嬢たちはみんな大喜び。給仕も女性で揃えたので、男性の目線を気にすることなく、皆、手掴みでパクパクいただいている。
それをいただきながら、オリオン王太子とオニオンリングを食べたことを打ち明けると……。
「まあ、殿下は寛容な方ですわ! テーブルにマナーに固執しなくてもいい、だなんて」
「確かに最近流行のピクニックでは、カジュアルに楽しめるフードが主流ですわよね。そちらではフィガーフードが重宝されますし、このオニオンリングはそんなピクニックでの食事に最適かもしれませんわ」
「それに食べ始めたら、お互い様ですわよね。ハンカチもありますし、もしかすると家族みんなで気軽に楽しめる食べ物かもしれませんわ、オニオンリングは」
もうその美味しさからどの令嬢も、オニオンリングについてはカジュアルに楽しめばいいという結論に至り、これから新緑の季節を迎え、王侯貴族が楽しむピクニック料理に最適だという意見がまとまった。
これはそのまま今期の社交界での流行になること間違いなし。
そのためオニオンリングのレシピも参席している令嬢たちに配っている。
そうしている楽しく歓談している中で、ふと令嬢たちが口にした言葉、それが「ポテトとオニオンリング。なぜかあともう一品、欲しくなるのはなぜなのかしら?」であり、わたくしは彼女たちが求める答えを分かっていた。
ファストフード界のサイドメニュー、「黄金トリオ」といえば、フライドポテト、オニオンリング、そして……チキンのナゲットだと思うのだ。
この三つはまさに王道であり、この三種盛りが登場したら、もうビールが止まらない……だと思う。
「皆様。来週のお茶会では、皆様が感じている『あと一品』を用意するようにいたしますわ」
わたくしの言葉を聞き、令嬢たちは顔を輝かせる。
「まあ、本当ですの!? それは楽しみですわ」
「アメリカーナ公爵令嬢、期待していますわ」
「来週のお茶会を心からお待ちしていますわ」
口々にあがる言葉に、わたくしは決意する。
(こうなったらやるしかないですわ。この世界で、チキンのナゲットを爆誕させますわよ!)
◇◇◇
チキンのナゲット。
それは前世ではファストフード店では定番メニューで気軽に手に入るものだった。さらに冷凍食品としても数多く販売されており、レンチンで楽しむお気軽フードでもある。
では手作りをしている人はどれぐらいいるのか。
ネットで探せばレシピは沢山掲載されているし、手順も「鶏ひき肉を手に入れる→味付けして成形する→衣を付ける→揚げる」と大変シンプルだった。しかしネックとなるのは味付け。
わたくし自身、前世ではチキンのナゲットは買う専だった。自分で作ったことはない。それでも漠然と味付けは塩・胡椒ではあると思うものの。その味付けで宮廷料理人に作ってもらったが、何かが違うのだ。マヨネーズやケチャップをつければ、それっぽく感じるも、わたくしがよく購入して楽しんでいた味とは違う。
そこで考える。
チキンのナゲットと言えば、ケチャップやマヨネーズをつけるので、そちらの味の印象が強い。ナゲットだけ食べた時、どんな味わいだったのか。
(思い出すのよ、わたくし! 学校の帰りによくお世話になったでしょう!)
そこでひらめく。
(多分、オニオン、ガーリックは肉の臭み消しのためにも使っているはずよ!)
そこからは試行錯誤となり、わたくしは宮廷料理人に何度も頭を下げ、味付けに手を加えてもらうことになった。
その結果。
オニオン、ガーリックを入れるのは正解だと思うのだけど、どうもあのカリッとした感じに仕上がらない。
(何がダメなのかしら……?)
フライドポテトやオニオンリングのように上手く行かず、悩んでいると……。
「ウェンディ。最近、よく考え込んでいるよね? 何か悩んでいるのなら、僕に相談して」
「! 殿下……」
オリオン王太子に相談したい……と思うものの。さすがに料理は彼の範疇の外だと思う。優しく問われても、何と答えるべきかと考え込んでいると……。
「もしかして、ポテト革命、オニオンの変革に続く、何か新しい料理を生み出そうとしているのでは?」
「! ど、どうして分かるのです!?」
「僕はウェンディの婚約者を十二年以上やっているんだ。ウェンディの一挙手一投足から、今、どんな気分なのか、想像できてしまう。これは僕の特技かもしれない!」
そんなふうに冗談めいて言うが、ようは彼はわたくしのことをとても気にしてくれているということ。そして困っているなら助けたいと心から思ってくれていることが分かる。
そんなふうにされたら、わたくしは素直に打ち明けるしかなかった。
「なるほど。そのチキンのナゲットには、おそらく隠し味があるのだろう。そうなったら一人で思い悩む必要はない。厨房へ行こう、ウェンディ!」
そう言うと濃紺のセットアップ姿のオリオン王太子が、フランボワーズ色のドレスを着たわたくしに手を差し出す。
そこからは……まるで魔法のようだった。
わたくしを厨房までエスコートし、宮廷料理人に声をかけると、わたくしの悩みを彼らに話してくれたのだ。それを聞くと宮廷料理人は……。
「すりおろしたオニオンとガーリックを入れる。これは肉の匂い消しでも行われることです。ただ仕上がりで風味を残し、かつカリッとした食感を維持するなら、すりおろしたものは水分がない方がいいと思います。よく絞って水気を極力抑えてから加えましょう」
「チキンのナゲットにおける隠し味では、味に深みを出すため、鶏ガラの濃厚なスープを少量加えるといいと思います」
「マッシュルームで旨味を出したエキスを加えてもいいでしょう。試してみませんか?」
なんと宮廷料理人のみんなが、食べたこともないチキンのナゲットの味を想像し、いろいろと提案してくれるのだ。
これにはもうビックリであるが、料理のプロが考えてくれたこと。ありがたく試してもらうことにした。
「ウェンディが頑張り屋であることはよ~く分かっている。でも、時々一人で抱えすぎだよ。何でもかんでも人任せはよくない。でもその逆もしかり。全てを抱え込む必要ないんだ。特にその道の専門家がいるなら、相談すればいいんだよ」
「殿下……!」
「できれば僕がウェンディを助けたい。でも僕が詳しくない範囲のこともある。そういう時はこうやって、その道の達人を頼るんだ。頑張って、どうしても答えが見つからない。ちゃんと自分でも努力して、そこで誰かを頼ることは、悪いことではないんだよ、ウェンディ」
まさにオリオン王太子の言葉は魔法で、甘えてはいけない、自分で何とかしないという気持ちを優しく溶かしてくれる。
そして翌日、厨房を訪ねることになった。
「殿下、アメリカーナ公爵令嬢、試作品ができました! ぜひ召し上がってみてください!」
宮廷料理人がスカイブルーのスーツ姿のオリオン王太子と、クリーム色のドレスを着たわたくしの方へと駆け寄る。
そこで揚げたて出来立てのチキンのナゲットを、何もつけずに食べて……。
「あっ、この味です! 求めていたのは、この味ですわ!」
「ですがこれだけですと、あっさりですよね? 間違いなく、アメリカーナ公爵令嬢が発案してくださったマヨネーズやこちらのケチャップ、そしてバーベキューソースと一緒に味わうことで、完成されるかと」
宮廷料理人の言葉に、わたくしはたまらず「その通りですわ!」と叫んでしまう。
チキンのナゲットは、ソースにディップして食べることで、一つの味として完成する。そうなるよう、肉の味付けは調整されていると思う。そのことに、当然ではあるが、その道のプロである宮廷料理人は分かっていたのだ。
「なるほど。初めて食べるこのバーベキューソースに、このチキンのナゲットはとても合うね。濃厚な味のソースが、あっさりのチキンのナゲットにとてもマッチしている!」
オリオン王太子も褒めてくれて、わたくしは嬉しくてたまらない。
「宮廷料理人の皆さん、ありがとうございます! わたくしの想像していた通りの味にできました。ぜひ皆さんも試食してみてください!」
「おおお、遂に完成か!」「よかった!」「頑張ったかいがある!」
宮廷料理人のみんなが大喜びで、そしてチキンのナゲットを頬張る。
「自分は断然、マヨネーズだな」
「マスタードもいけるぞ」
「バーベキューソースが最高だ!」
かくしてこの世界に遂にフライドポテト、オニオンリング、チキンのナゲットが出揃った。薔薇姫会のお茶会でも――。
「まあ、チキンのナゲット! アメリカーナ・ポテト、オニオンリングに続く、まさに黄金トリオですわね」
「このチキンのナゲットは、実に食べやすいサイズですわ。ナイフやフォークで切り分ける必要もなく、私の口でも一口でパクッといけますわ!」
「沢山のソースが、この三つはどれも合いますわね。延々と食べることが出来てしまいますわ!」
令嬢たちからも大人気。もちろんはレシピは公開し、王道の三点セットして、アメリカーナ・ポテト、オニオンリング、チキンのナゲットは……お茶会、ピクニック、ビールのお供として楽しまれることになった。
そしてオリオン王太子は……。
「このチキンのナゲット。一口サイズだから、こうやって愛する人に食べさせてあげることができるよね」
「!」
なんとオリオン王太子自らが、わたくしにチキンのナゲットを食べさせてくれたのだ……!
「こんなふうに愛する人との距離が縮まるフィンガーフードがあるって、みんな知ったら……きっと大人気だね」
「そ、そうですわね」
「もしかして足りない?」
「えっ」
「僕のことも、もしかして食べたい?」
「!?」
オリオン王太子の甘々攻撃(!?)により、わたくしはチキンのナゲット、今度はハート型を作ろうかしら……?なんて新たな野望を募らせるのだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
\黄金トリオ爆誕/
次話は新キャラ登場であのコンビがこの世界に降臨☆彡
読み切り1話は明日公開です~















